リング誌今月号(2019年2月号)で井上尚弥が、単独カバーを飾りました。

リング誌は、日本人が大きく取り上げられることは珍しく、随時更新される〝瞬間的なPFP〟ランキングですら、10傑に入り込む余地が無い敷居の高いメディアでした。

しかし、2010年からBest Fighter Poll トップ100で長谷川穂積や井岡一翔が10位に肉薄〝瞬間的なPFP〟の扉は山中慎介と内山高志がついにこじ開けてくれました。

さらに2018年のBest  Fighter Poll では井上が日本人初のトップ10入り。

日本人ではないものの、ローマン・ゴンザレスが Best  Fighter Poll で軽量級史上初のトップに立ちました(2015、2016年の2年連続)。

かつての高嶺の花は、今やすぐ手の届く場所に群生しています。

リング誌の高い敷居は、もはや日本人ボクサーの足元まで下がっているのです。


2007年、米国ボクシング市場の長引く凋落から、リング誌の経営難がさらに深刻化、ゴールデンボーイプロモーションズ(GBP)のグループ企業に買収されてしまいます。

元々が、プロモーターのテックス・リカードが共同創始者のリング誌です。

それでも「GBPの子会社となると公正な報道やランキング作成は出来ない」と、ファンや他メディアから当然の批判を受けますが、オスカー・デラホーヤは「編集には一切口を出さないし、GBPのニュースをリークすることも絶対にない。米国ボクシングの歴史そのもののリング誌を救いたい、その一心で裏心はない」と〝宣誓〟します。

愛読者の立場からもGBPの傘下にはいるのは支持出来ませんでしたが「編集には一切口を出さない」というのは約束通りに貫いてくれたと思います。

私のフシ穴の眼で見る限りはGBPの選手を優遇して記事にする、カバーに使うことはなかったと思います。

その後、GBPの経営も悪化、赤字部門のリング誌は「お荷物」となり、昨年から投資家のステファン・フリーマンが出資、再び身売りされてしまいますが、GBPの子会社時代(2007−2017)の約11年間 で、最もカバーされたのはライバルであるトップランクの看板選手マニー・パッキャオでした。

「その時代のボクシングシーンはパッキャオ中心で回ってたから」「パッキャオをカバーしたら売れ行きがいいから」 というのはその通りですが、モハメド・アリを追悼する「存命のPFPランキング」特集でデラホーヤをランキングに入れないなど〝逆〟忖度は随所に見られて、その気苦労が偲ばれました。

 

山中と内山がリング誌電子版PFP10傑の壁を突破、多くのメディアやファンが「永久に実現しない」と諦めていたマニー・パッキャオvsフロイド・メイウェザーがついにリングの上で拳を交えた2015年から、井上が単独カバーした2019年までのリング誌の5年間を走馬灯してゆきます。




 
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2015年。

この年、リング誌は前年までの114頁から98頁と大きくぺージ数を削減します。

さらに年12回発行の月刊から、年9回発行(2、6、10月号は欠号)にシュリンクしたことから、プリントバージョンの廃刊・ネットのみで経営を継続するという噂まで流れました。

しかし、この年リング誌の経営難を劇的に改善するのではないかと期待される、超がいくつも付くメガファイトが急転直下で実現します。 
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リング誌2015年5月号「IT'S ON!」。ついに交渉成立。

マニー・パッキャオvsフロイド・メイウェザー。

二人とも全盛期は過ぎているとはいえ、6年間も焦らしまくったダイヤモンドをプラチナでメッキしたようなカードです。


CNNのワールドスポーツは、試合が決定した1月下旬から5月2日の試合当日まで「あと何日何分何秒」を知らせるカウントダウンクロックを番組で設置。

マイナースポーツのボクシングでは、到底考えられない〝厚遇〟でした。

さらに試合決定の瞬間に、ラスベガスのホテルの客室15万室が予約でロックされるという異常事態。


1万6000のMGMグランドアリーナを舞台にするのは明らかな間違いでした。

大都市の大会場で多くの人に目撃者になってもらうべきイベントでしたが、チケットはリングサイドで最高40万ドル、最後列でも2万ドルにまで跳ね上がり、ラスベガスの街も史上最高の特需に沸き立ち、カネの話だけが沸騰し続けました。

リング誌はもちろん、あらゆるボクシング関連産業も「一般のスポーツファンがボクシングに帰ってくるかもしれない」と大きな希望を二人に託しました。

交渉の過程で「ボクシング復権のために最も有効なのは地上波生放送」との提案も出されましたが、PPVで期待できる莫大なカネを考えると、そんな綺麗事が通るわけがありません。

それでも400〜500万世帯、推定2000万人がPPVの生中継を観戦、1週間後の再放送を含めると米国のスポーツファン全てが観ることになる、とんでもない大チャンスです。

一般のスポーツファンがボクシングに再び関心を持ってくれると、雑誌も間違いなく売れます。

このメガファイトは期待通りの注目を集め、予想以上の数字を叩き出します。

米国のほとんど全ての一般スポーツファンが、この試合を目にしたのです。


しかし、一番肝心な試合内容は平坦な展開が続く、ボクシングマニアでも全く面白くないものでした。

リング誌の売り上げにも全く貢献することなく、もちろんボクシング市場を活性化させることもなく、試合は終わりました。

HBOとShowTime 興行主とラスベガス、そして主役の二人だけが常識はずれのカネ儲けに成功しただけのひたすら虚しい一夜でした。

この年の8月にリング誌電子版のPFPで山中慎介と内山高志がそれぞれ9、10位にランクイン。

リング誌の中でも潮目が大きく変わりつつあることを窺わせる出来事でした。