Breez is Nice!

いよいよ2日後に迫った、WBO世界ウェルター級タイトルマッチ。

王者マニー・パッキャオが、 WBOで2位にランクされている無敗のホープとはいえ、世界的評価の低いジェフ・ホーンを対戦相手に選んだことには批判が集中しています。

アジアがボクシングの歴史に与えた最大の衝撃、パッキャオも今年で39歳。ホーン戦で67を数える戦譜は激闘の連続、全盛期には何度も世界中のボクシングファンの度肝を抜いた灼熱の拳は今や完全に冷め切ってしまいました。

ホーンは、地元オーストラリアでもけして有名ではありませんでしたが、今回の一戦で一気にスポーツセレブの仲間入りです。かつてパッキャオ戦を控えたティモシー・ブラッドリーも語っています。「今までロードワークしてても誰も声もかけてこなかったのに、パッキャオ戦が発表されると知らない人たちが群がってくるんだ。悪い気はしない、ずっとそうなりたかった自分にやっとなれたんだから」。マニー・パッキャオと戦うということは、そういうことなのです。


【2008〜2010年の全盛期にはプレイボーイやエスクワイア、ローグなど大衆誌はもちろん、タイムやニューズウィークでも表紙を飾るなど、オバマ大統領らが名を連ねる「世界に最も影響を与える100人」(タイム)に数えられました。ここまでセンセーショナルなボクサーは、もう二度と現れないかもしれません。】

野球やサッカー、テニス…他のプロスポーツとボクシングの最も大きな違いは「何を売るのか」です。ほぼ全てのプロスポーツは「極限まで研ぎ澄まされた技術」が売り物になります。ボクシングでも技術的にレベルが低いボクサーがファンに歓迎されることはありません。

しかし、現在、世界最高の技術を持つアンドレ・ウォードやギレルモ・リゴンドーがその技術に比例した人気を獲得しているとは誰も考えないでしょう。そして、そのことを理不尽だ、不条理だと思う人は少ないのではないでしょうか。他のプロスポーツではありえないことが、ボクシングではあり得るのです。

プロボクサーが売るものは「技術」だけではありません。「勇気」です。見ていて鳥肌が立つような勇気を見せるボクサーの試合に、ファンはチケットを買い、PPVの代金を振り込むのです。

フロイド・メイウェザーは勇気が無く、技術だけを売り物にしていたのにPPVキングだったじゃないか!。そう反論する人もいるかもしれません。しかし、彼以上にボクシングで最も求められるのが勇気であることを身にしみて知り尽くしていたボクサーはいません。

五輪メダリストの金看板を掲げ、卓越した技術でデビューから快進撃を続ける「プリティボーイ」はしかし、その人気、すなわち報酬は思うように伸びませんでした。この理不尽、不条理に業を煮やした彼はプリティボーイの渾名を捨て、「マネー」(銭ゲバ)の仮面を被ります。恵まれない子供らに多額の寄付をしたり、基金を設立したりとボランティア活動にも熱心な一面を持つメイウェザーは、〝改名〟後も慈善活動は一貫して継続しますが、マネーとなった瞬間からほとんど公の場でそのことを明らかにすることは無くなります。

メイウェザーは「銭ゲバ」のキャラクターをとことん追求していきます。夜の街で200ドル札をばら撒き、100万ドル単位でバスケの試合に賭け、法外な報酬を要求し、豪奢な私生活を下品なまでに公開する。銭ゲバのキャラクターは多くのファンから反発を買いましたが、彼は「人気」には正と負、二つのベクトルがあることを世界に知らしめました。そうです、絶大な不人気、つまりヒール人気ですね、これもまた強烈な人気だということなのです。

日本の亀田兄弟は、無意識のうちにこのロジックから「人気者」に登りつめましたが、意図的にやってのけたメイウェザーとはプロフェッショナルとしての次元が違います。プロレス的なアングルを使ったキャラ作りに成功した彼が、コナー・マクレガーとの歪んだファイトを創造したことは、ある意味自然の流れでしょう。

メイウェザーの対極、ベビーフェイスに立っていたのがパッキャオです。米国人でもない、メキシカンでもない、プエルトリカンでもない、目を見張るアマチュア実績もない。無いない尽くしの環境から、ただ一つ、勇気だけを売り物にして、アジアの奇跡は、アウェーのファンの心を鷲掴みにしてきました。

そんなパッキャオも今では、売り場からファンを惹きつけてやまない「勇気」をバックヤードに移し、安全運転の「技術」だけをきれいに並べて陳列しているのですから、多くのファンが幻滅し、メディアが批判の矛先を向けるのも無理はありません。しかし、何もかも手に入れたアジアの英雄の立場からは、閉店間際の残り少ない現役生活で最も安全に効率良く金を集めて、第二の人生、政治活動に充てたいと考えるのもまた当然です。

残念ですが、パッキャオが危険な戦いに挑んで大番狂わせを起こす、誰もが愛したパックマンに戻ることは、もはやないのかもしれません。

それでも、南半球で行われるメガファイトとしては、あの「キンシャサの奇跡」以来の超大興行には、ハングリーだった時代のパッキャオと同じ目をしたボクサーもリングに上がります。

MP(マニー・パッキャオ)プロモーションの〝プリティボーイ〟ヘルウィン・アンカハスです。そして、IBF世界スーパーフライ級王者のフィリピン人が2度目の防衛戦を戦うのは、千里馬神戸ジム所属の帝里木下。

真冬の南半球、ブリスベーンの巨大スタジアムには、偶然や運命がもつれ合った人生と、奇妙な符合が明滅する魅惑のアンダーカードも用意されています。

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マニー・パッキャオが登場するメガファイトで、今回は特筆すべき点があります。

2005年以来、初めてPPVから外れるのです。今のパッキャオには、100万世帯を超えるファンがこぞって高価なPPVに金を払うほどの人気はありません。

米国人でもない、ヒスパニックでもない無名のフィリピン人が米国でスターダムに駆け上がったことには理由があります。

当時ジュニアフェザー級最強の呼び声が高かったリーロ・レジャバから届いた試合まで2週間を切るオファーを二つ返事で快諾、米国リングにデビューした勇気。

ヒスパニックの時代を象徴するグレート、アントニオ・マルコ・バレラからの咬ませ犬としての対戦指名にも喜んで応じた勇気。

バレラに加えて、メキシコが生んだ歴史に残るスーパースター、エリック・モラレスとファン・マヌエル・マルケスが形成した突破不可能な包囲網に壮絶な打ち合いで挑み、大きく勝ち越して切り抜けた勇気。

フィリピン国会が「試合は無効、中止にすべき」という異例の法案を可決したオスカー・デラホーヤ戦を端緒とする、巨人狩りに挑んだダビデの勇気。


【マニー・パッキャオとフレディ・ローチ。毀誉褒貶、欺瞞と裏切りと打算に満ちたこの世界で、超がいくつも付くスーパースターが20年近くもトレーナーを変えないというのは異例中の異例です。そして、この二人の偉大な航海も間もなく終幕の時を迎えます。稀代のスーパースターは最後に誰と戦うのでしょうか。】

未来の怪物が日本のリングに登場した時、解説席の白井義男は「一歩も引かない面白いボクシングをする。また見たい。もっと強い相手とやらせたい」と感嘆しました。

しかし、現実に対戦相手を用意するジム側は「あんなの日本に呼んだら大事に育てたホープが壊される」でした。そして、この不世出のフィリピン人が2度と日本に呼ばれることはありませんでした。

米国の反応とは真逆です。米国は、危険を顧みない勇気あるボクサーをとにかく評価します。逆に、リスクを冒さないボクサーには容赦ないブーイングを浴びせます。

今のパッキャオは、卓越した技術と経験をフル稼働した安全運転で12ラウンドを走り切るボクシングしかしていません。

かつて、照明を落としたMGMグランドアリーナに色鮮やかなカクテル光線が縦横に走り「サンダー・ストラック」のイントロが流れるとき、1万5000人を超える大観衆は、まさに今!英雄が入場する!その合図に歓喜絶叫したものです。

もう、あの夜の興奮は2度と訪れないのでしょう。

もちろん、リスクを冒すに価する相手を選んでいないから、ということもその理由かもしれませんが、いずれにしても今のパッキャオからは勇気のほとばしりを感じることは出来なくなりました。

PPVの売り上げが低迷するのも当然です。

今回の興行はトップランク社とESPNが、2018年までの1年6ヶ月で18試合のビッグファイトを放送することで業務提携したシリーズの第1弾となります。すでに、8月5日(ワシル・ロマチェンコvsミゲール・マリアガ)、8月19日(テレンス・クロフォードvsジュリアス・インドンゴ)の第3弾までが決定しています。

今のところ一番の見所は、ホプキンス絡み(デラホーヤ、ハワード・イーストン、ジャーメイン・テーラー)以外では史上初となる4団体統一戦、クロフォードvsインドンゴでしょうか。

とにもかくにも、手軽に視聴できるESPNでパッキャオ戦が見れるのは、米国ファンにとっては朗報です。

また、ESPNの親会社、ディズニーは地上波のABCもその傘下に収めており、近い将来ABCでのゴールデンタイム生中継も期待されています。今回の興行をトップランクと共同で行うドュコ・イベンツ社のディーン・ロナガンは「全世界で150カ国でTV放映される」、アラムは「ESPNが網羅する約1億人のうち、5〜10%が視聴したとすると500〜1000万人がこのメガファイトを目撃することになる」と興行の成功に自信満々です。

地上波ゴールデンタイムのボクシング生中継といえば、アル・ヘイモンがCBSと仕掛けた PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)がすぐに思い浮かびますが、こちらは決して順風満帆とは言えない状況だけに、アラムとESPNのお手並み拝見ですね。

【ディズニーとパッキャオ。お忍びで家族と東京ディズニーランドで遊んだり、2010年にはミッキーマウスとボクシングマッチが楽しめる玩具を共同企画して発売するなど、意外と縁があるんです。】

前置きが長くなりましたが、この露出度の高いオーストラリアのリングに帝里木下を相手に上がるIBF世界スーパーフライ級王者、ヘルウィン・アンカハスのお話です。

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世界へ殴り込む日本の拳がこれほど熱い夏は、もしかしたら初めてではないでしょうか。

日本人ボクサーがリングインを窺う世界の檜舞台も、熱い夏を迎えています。

これまで、交わることなど想像も出来なかった世界のスターが待つリングに続く花道の入り口に、日本の期待が立っているのです。

もう、今週末に迫った WBO世界ウェルター級タイトルマッチ。5万人を超えるキャパシティを擁する、豪州のサンコープスタジアムで開催されます。地元のジェフ・ホーンが、生きる伝説マニー・パッキャオの王座に挑みます。

普通に考えれば、オッズの8−1のままパックマンが無名の白人を粉砕するでしょう。

日本人はジュニアミドル、ミドルと、ウェルター級より上の2階級で世界王者を輩出していますが、この最もレベルの高い階級では未だに一人の世界王者も産むことが出来ていません。

しかし、8月にはジュニアミドルの世界王座を賭けてミゲール・コットと、我らが亀海喜寛が激突。4−1のオッズの通りにコットが勝てば、年末にカネロとのリマッチというメガファイトの線路が敷かれていますが、そうは問屋が卸しません。

亀海が番狂わせを起こせば、2階級制覇を賭けてパッキャオと拳を交えることも夢物語ではありません。

そして、米国での商品価値が急落しているフィリピンの英雄が、次の試合も〝ボクシング大使〟として敵地、亀海のホームに乗り込むことは自然の流れでしょう。

もちろん、眩しすぎる夢舞台は亀海がコットを番狂わせで沈めることが大前提です。

夏の終わりのカリフォルニア、ホームデポセンター。亀海がオスカー・デラホーヤとコットが描いた青写真をズタズタに引き裂けば、次はパッキャオもありえるのです。

あるいはゲンナディ・ゴロフキン対カネロ・アルバレスでカネロが勝てば、亀海もコットの代打として対戦リストの上位にその名前が浮上するでしょう。


【リング誌のカバー(表紙)を席巻してきたマニー・パッキャオ。彼がカバーすると、売り上げが伸びると言われていました。しかし、アジアの誇りは2016年5月号を、最後に「THE BIBLE OF BOXING」をカバーしていません。今回も無名のジェフ・ホーン相手ではたとえ、どんなに衝撃的な勝ち方をしようとも表紙を飾ることはないでしょう。】

そして、今年最大のメガファイト、ゴロフキン対カネロ。こちらのオッズは、現時点で5−2、GGG有利ですが、1年前の7−1からは急接近しています。この勝者、あるいは敗者が村田諒太と絡む可能性は大いにあるでしょう。

村田は、ミドル級ウォーズの土俵に完全に乗っています。ただ、当たり前ですが、これは厳しく非情なロデオゲームです。振り落とされたら、再び栄光の土俵に這い上がることは過酷を極めますが、「メガファイト」へのアプローチでは村田も王手をかけている立場であることは間違いありません。

トリは井上尚弥です。メキシカンやプエルトリカンの血を引かない軽量級が米国で大きな成功を収めるのは至難の技、というかほぼ不可能です。しかし、日本でローマン・ゴンザレスとPFP10傑同士のメガファイトを開催することは夢ではありません。米国ではメディアの飛び抜けた評価に比べて、報酬は100万ドルにも大きく届かないことに幻滅しているロマゴンは、日本でのメガファイト、井上との対戦に意欲満々です。

井上サイドは冗談かもしれませんが、ギレルモ・リゴンドーの名前を出しましたが、このキューバ人は普通に日本に来ます。かつて、内山高志のジム会長の「パッキャオにも勝てる」は大風呂敷にしても、世界的なビッグネームとの対戦をほのめかしながらも、最後は「コラレスとは何回やっても勝てない」と残念な泣き事を吐いてしまいました。

井上サイドの言葉が虚勢じゃないなら、これはぜひ、やって欲しいですね。リゴンドーはロマチェンコとやると昨日、公言しましたが、この試合は簡単にはまとまらないでしょう。

井上のキャリアで最大の勝利は、オマール・ナルバエス戦です。もちろん、素晴らしい勝利ですがナルバエスの世界評価は決して高くありませんでした。あの試合にしてもオッズはもちろん、世界的な予想も大きく井上に偏っていました。

ナルバエスは前戦ですでに、陥落を予想されていた砂上の王者で、そのキャリア全盛期ですらPFP10傑にカスリもしませんでした。

弱い相手とばかりいたずらに防衛戦を重ねて来たからです。

もし、井上がリゴンドーとやるなら…。ジュニアフェザーでやることになるでしょうから、2階級上です。しかも、ナルバエスとは遥かに次元が違う正真正銘の強豪です。圧倒的に井上不利の予想、オッズが出るでしょう。

井上のキャリアに初めて立ちふさがるハイリスクです。しかし、世界評価という点では超ハイリターンです。

中量級とは違い、タレントが貧弱な軽量級です。スーパーフライ級はロマゴンが落ちると、井上にとって美味しい相手は見当たりません。

リゴンドーだって、いつ誰に負けるかわかりません。

層の厚いウェルター級等とは違い、軽量級では、撃破して評価が上がるビッグネームは希少です。

タレントが豊穣な中量級で、カネロが3Gの衰えを待つのとは、全く意味が違います。

軽量級で、本気で世界的な評価を得たいなら、もっともっと急がなければいけません。遠回りしてる暇などありません!変なのと戦うのは、9月のホームデポを最後にしましょう。

どんな名刀も、ナマクラばかり斬っていたら必ず、間違いなく、錆びついてしまいます。

雑魚挑戦者ばかりを捌き続けて、実は名刀でした、なんて例など過去に一度もありません。長谷川穂積も内山も、名刀であったのかどうかはわからずじまいのまま、リングを去りました。

全盛期の彼らが、どこまでの相手を斬り倒せたのか、誰もわからないままです。

井上尚弥までもが、同じ道を辿るのだとしたら…それは、あまりにも、残念過ぎます。

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【マイク・タイソンは引退後、大きな借金を背負い、困窮していました。しかし、そんな時ですら、日本をはじめ世界中のプロレス、格闘技関係者らから押し寄せる〝茶番劇〟へのプロポーズには「NO」と頑なに拒み続けました。その理由が「どんなに落ちぶれてもボクシングを冒涜することだけはしない」という高潔な決意だったのか、それとも「戦いの恐怖に震えることはもう絶対に嫌だ」という被虐の萎縮だったのか。何れにしても、引退後に暗黒の淵に沈むと誰もが確信していたタイソンは今、信じられないほど穏やかな毎日を送っています。リング上のタイソンは、仕方なく凶悪な偽りの仮面を被っていただけだったのかもしれません。】

さて、引退から2年経ったフロイド・メイウェザーと、(ボクシングと比較すると)新興のMMAで最も輝いている格闘家のコナー・マクレガーの、完全ボクシングルールでの一戦です。

欧米メディアの目は揃って「farce(茶番劇)」「bogus(インチキ、偽物)」と辛辣です。

メイウェザーはもちろん、マクレガーも単に目立ちたいだけ、しかもボクサーは楽に勝てるし、格闘家の方も負けても何も失わない。これほどのローリスク・ハイリターンの大興行は滅多にお目にかかれるもんじゃありません。

フロイド父も「マクレガーの練習風景をYouTubeで見たが、ジャブすら真っ直ぐ、まともに打てない。彼はジャブを打ってるつもりだろうが、押し出しも引きも恐ろしいほどに遅い。しかも遅いだけじゃなく、軌道がブレてしまっているから、キレも威力もない。誰に教わったらあんなに下手くそなジャブが打てるんだ?ボクシングルールなら、彼に負けるプロボクサーを探す方が難しいだろう」とこき下ろしています。

素人から見ても、確かにその通りです。しかも、MMAの遠い距離で戦うことに慣れているから、インサイドの打ち合いにはジャブ以上に未熟です。距離が詰まると、恐怖とパニックでマクレガーは目をつぶってしまうでしょう。

これは逆も同じです。もし、完全MMAルールで戦えば、ボクシングでは考えられない遠い距離から打ち込まれる強烈な蹴りと、見たこともない角度から突っ込んでくるタックルに、メイウェザーは全く何も出来ずにテイクダウンを奪われ、秒殺でしょう。

この試合が、ゲスな見世物以外の何物でもないことは間違いありません。そして、ボクシングにとっても、MMAにとっても、過去の〝異種格闘技戦〟同様に、中長期的には何の恩恵ももたらすことはないでしょう。

それどころか、ボクシングとMMAの健全な発展と、純粋なファンを貶めることにもなります。

巷間、言われているようにこの試合で大金を手にするマクレガーは、オクタゴンを降りて悠々自適の生活を選ぶでしょう。この試合が無ければ、彼は MMAのスーパースターとして、このスポーツの健全な発展にまだまだ寄与したはずです。そして、まだ若いこのスポーツにとってマクレガーの役割は非常に大きなものがあるはずでしたが…。

メイウェザーにしても、ゲンナディ・ゴロフキンとカネロ・アルバレスの大興行に嫉妬するのは彼の性格からしたら当然です。しかし、そのジェラシーはやはり健全な方向に向けられるべきです。つまり「3Gとカネロの勝った方と戦ってやる」と宣言したら、ボクシング界はもっと大きく盛り上がっていたはずです。

もちろん、前回紹介したようにモハメド・アリや、ロベルト・デュラン、ジャック・デンプシー、アーチー・ムーア、ロイ・ジョーンズといった超ビッグネームも茶番劇の舞台に上がりました。ジャック・ジョンソンやラリー・ホームズも、金に困って見世物になりました。超ビッグネームでなければ、レオン・スピンクスやトレバー・バービックらも日本のプロレスのリングに金のために上がりました。

何をしようが、それは個人の自由です。自分の名前、ブランドを使って効率的に金儲けをすることを批判できる人間などいないでしょう。金に困っていれば尚更です。他人からとやかく言われる筋合いはありません。

かつて、シュガー・レイ・ロビンソンは「奴らはコーヒーの一杯も振舞ってくれたことはない」とこぼしましたが、その言葉、「奴ら」はメディアだけじゃなくファンも指していました。記者は絶頂期には歯が浮くような提灯記事を羅列して、ファンはまるで神を崇めるように熱狂的に応援しますが、落ちぶれたら唾を吐いて、無視する…確かに、メディアとファンというのは残酷なまでに自分勝手です。

ただ、メイウェザーとマクレガーは、現状では金に困っていません。メイウェザーはもちろん、マクレガーもボクシング界最高収入を誇るカネロの倍近い報酬を手にしているのです。そんな、二人が、何も、今この時点で、互いが名前を成した恩のあるスポーツを後ろ足で蹴り飛ばすような行為をする必要が、どれほどあるのでしょうか。

9月16日の3Gとカネロ、今年最大のメガファイトの3週間足らず前に、同じTモバイル・アリーナで、下品な野次馬だけを刺激する見世物を行う意味が、どれほどあるのでしょうか。

米国メディアはもちろん、フランスAFP通信も「下劣な見世物は大衆受けするが、一晩だけの馬鹿騒ぎでしかない。冷静にスポーツの発展を願う人々に出来ること、やるべきことはチケットやPPVを買わないことだ」と断じています。

もちろん、私は8月26日、亀海喜寛vsミゲール・コットを生中継で見ます。しかし、メイウェザーvsマクレガーもどんなに凡戦の結果が分かっていても、録画を見てしまうでしょう。私も、結局は下劣な見世物が好きなんです。所詮は、みんな、野次馬なんです。

ただ、これだけは忘れてはいけません。

メイウェザーvsマクレガーは、誰もが否定できない下劣な見世物ということ。最高のアスリートがその競技の頂点を決めるべく、究極まで研磨した技術を惜しみなく交錯させる崇高な戦いではないということ。

このイベントが注目されているのは、下劣な興味、卑しい野次馬根性だけからであるということ。

この見世物には、スポーツとしての価値は全く無いということ。

麻雀日本一が、将棋ルールで羽生善治と対決するのと同じです。

とっくの昔にピークは過ぎて、二年間も引退していた元ボクサーと、全くボクシング経験がない格闘家が、完全ボクシングルールでぶつかる、何ともタチの悪いサーカスです。

亀田興毅がやったことと大きな違いはありません。興毅は「ボクシングの素晴らしさ、凄さを伝えたい」.と語っていましたが、あのバラエティからはそんなものは全く伝わりません。

本気でそう思ってたなら、現役時代にまともな強豪と戦えば良かったんです。散々、ボクシングの価値を貶めることをしておいて、よくもそんなセリフが吐けるものです。

もちろん、亀田は超一流のチンドン屋です。彼らが奏でる欺瞞の笛太鼓に踊らされるメディアや大衆が蒙昧なだけで、彼らはチンドン屋として一流の技術を披露しているだけです。

世界を騒がすか、日本を騒がすか、せいぜいその差ですね。ただ、ボクシングのメガファイトの邪魔をしなかった亀田の方がまだマシです。

メイウェザーが取りうるベストの選択は決してマクレガーなんかではなく、3Gとカネロの勝者、あるいはアンドレ・ウォードとの夢の対決です。そこには下劣な腐臭が入り込む余地はないのですが…。

マクレガーもそうです。まだまだ、これから地歩を固めて成長しなければならない若いスポーツであるMMAの発展のために、彼が出来る最高のパフォーマンスはオクタゴンの中にしかありえないはずなのですが…。

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世界王者のまま49勝無敗でグローブを外したロッキー・マルシアノ。その記録に並んでいるフロイド・メイウェザーが、今回のネバダ州体育協会公認のボクシングの試合(と言っても相手はボクシング経験ゼロのど素人、コナー・マクレガーです)に勝つと、この記録を更新することになります。

早速、腐敗の極み、WBCがこの試合の勝者に与える(購入してもらう)ベルトを用意すると動き出しました。何でもありですね、今度は何という名前のベルトでしょうか?

一方で、欧米のメディアはほぼ例外なく「the farce bout」(茶番劇)と、冷ややかに見ています。ボクサーが〝異種格闘技戦〟(今回の試合は完全なボクシングルールで行われるため純粋な意味では異種格闘技戦とは呼べませんが)に手を出す理由は、窮乏(手っ取り早く金が欲しい、金に困っている)か、華やかなリングへの郷愁・嫉妬(目立ちたい、もう一度スポットライトを浴びたい)のどちらかです。

メイウェザーの場合は、明らかに後者です。ボクシング界がさっさと自分のことを忘れて、ゲンナディ・ゴロフキンとカネロ・アルバレスの決戦に沸いているのが気に食わなかった、ということも大きいでしょうね。GGGとカネロの試合の前に、この茶番劇をセットしたことは、揺るがぬ証拠です。

今回は華やかな場所への郷愁と嫉妬からですが、メイウェザーといえども、将来は、前者の理由「窮乏」に追い込まれてリングに上がらざるをえなくなる日が来るかもしれません…来そうですね。

ただ、欧米のメディアは、日本同様にかなり差別的です。

ジェームズ・トニーが2010年にUFC118で、ランディ・クートァと戦った時は、今回同様に「ボクシングもMMAも汚す行為だ」と非難されました。確かに、タップの仕方も学ばずにオクタゴンに入って、1ラウンド一本負けというのはMMAに対しても、クートゥアに対しても失礼千万でした。

【ジェームズ・トニーは有り余る才能を持ちながらボクシングに全身全霊を傾けたことはなく、MMAに対してもその態度は舐めきっていました。=写真はリング誌「トニーは檻の中のライオンか?」:2010年7月22日より=】

一方で、ロベルト・デュランが1992年に船木誠勝と異種格闘技戦のリングに上がった時は、米国のメディアは「暴れん坊のパナマ人が、また羽目を外してる」と、伝説の愚行を楽しんでいるようですらありました。デュランも一年間何もせず鈍りきった肉体を、たったの3週間練習しただけ。トニー以上に舐めきっていたのですが、メディアはデュランには優しいんです。

また、モハメド・アリについては異種格闘技だけに限らず、あの偉人の言動に、世界のメディアは何度も手の平を返して来ました。猪木戦についても、1976年当時のメディアは非難轟々でした。

トニー同様、メディア受けが悪いメイウェザーの風当たりが強いのは仕方がないところです。同じことをやってもデュランは許されて、メイウェザーは許されない。

もちろん、「There ‘s really nothing wrong with what mayweather doing.(何をしようがメイウェザーの勝手、自由だ)」(リング誌2017年8月号)。偉大なボクサーが、過去の威光を利用して茶番劇の舞台に上がるのは珍しいことではありませんし、特に金に困ったらそうするのが最も効率的です、メディアに非難される筋合いはありません。

日本ではアリの茶番劇は猪木戦しか思い浮かびませんが、この偉大なお方は若い頃から羽目を外すのが大好きでした。

猪木戦に先立つこと5年、1971年にNBAのスター選手、ウィルト・チャンバーレインとの喧嘩マッチがヒューストンのアストロドームで行われることが決定していました。チャンバーレインが翻意したことで、この茶番劇は流れますが、アリはチャンバーレインを見るたびに「ティンバー(木偶の坊)!」と連呼して愚弄し続けました。

【猪木と戦った1976年はアリにとっては「キンシャサの奇跡」も起こし、「スリラー・イン・マニラ」の修羅場もかい潜り、心身ともに疲弊、倦怠していた時期でした。そんな時に世界各地で異種格闘技戦を同時開催、そのメインにcelebrated Budokan Hall(名誉ある格闘技の殿堂、武道館)のリングに上がってくれというプロポーズは、新しいもの好きで偏見のないアリにとっては魅力的すぎるものでした。=写真はリング誌2017年8月号から】

さらに、アリはアーチー・ムーアの〝先例〟も知っていました。1963年にプロレスラーのマイク・ディビアスと、ボクシングルールで対戦したムーアは、一方的にプロレスラーを殴り続けて3ラウンド20秒TKO勝ち。すでに47歳になっていたムーアは前年にカシアス・クレイに予告通りに4ラウンドで葬られていました。

そして、プロ219戦目!となったこのプロレスラーとの試合で引退します。

ムーアはプロレスラーと対戦することで注目を浴びて、もう一度、世界タイトルマッチを戦いたいと考えていましたが、会場となったアリゾナ州フェニックスの観客席は人影もまばらで、その夢は潰えてしまいました。

ちなみに、ディビアスはボクシング経験がなく、この試合がデビュー戦。とっくの昔にピークが過ぎた名ボクサーが、ボクシング経験ゼロの相手と、茶番の舞台に上がる。この構図は、今回のメイウェザー対マクレガーと同じです。


【アンドレ・ザ・ジャイアントが、映画「ロッキー」のモデルとしても有名なチャック・ウェップナーをリング外に叩き落としてKO勝ち。=リング誌2017年8月号から】

フェニックスといえば記憶に新しいのが、昨年の「ロイ・ジョーンズに勝ったら10万ドル」(日本でもどっかで聞いた気がしますね、金額までほぼ同じです)。

一般公募した素人がロイとボクシングルールで戦うという見世物でしたが、当たり前に2ラウンドKO勝ち。

この時の相手、バイロン・フィリップスは総合格闘家でしたが、アマチュアボクシングの経験もあり、ロイの大ファンでした。わずか2ヶ月余り前にエンゾ・マカリネリに痛烈なKO負けを喫しているロイに「あなたと戦えるなんて一生の思い出だ。でも、もう引退して下さい。アイドルが傷つけられるのを、これ以上見るのは辛いです」と嘆願したのですが…。

300万〜400万ドルの税金を滞納してしまっていると言われているロイの場合は「窮乏」から茶番劇の舞台に上がらざるをえないのでしょうが、全盛期を知っているファンからしたら、フィリップスでなくても「もう引退してくれ」と願ってしまいます。

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