いよいよ2日後に迫った、WBO世界ウェルター級タイトルマッチ。
王者マニー・パッキャオが、 WBOで2位にランクされている無敗のホープとはいえ、世界的評価の低いジェフ・ホーンを対戦相手に選んだことには批判が集中しています。
アジアがボクシングの歴史に与えた最大の衝撃、パッキャオも今年で39歳。ホーン戦で67を数える戦譜は激闘の連続、全盛期には何度も世界中のボクシングファンの度肝を抜いた灼熱の拳は今や完全に冷め切ってしまいました。
ホーンは、地元オーストラリアでもけして有名ではありませんでしたが、今回の一戦で一気にスポーツセレブの仲間入りです。かつてパッキャオ戦を控えたティモシー・ブラッドリーも語っています。「今までロードワークしてても誰も声もかけてこなかったのに、パッキャオ戦が発表されると知らない人たちが群がってくるんだ。悪い気はしない、ずっとそうなりたかった自分にやっとなれたんだから」。マニー・パッキャオと戦うということは、そういうことなのです。
【2008〜2010年の全盛期にはプレイボーイやエスクワイア、ローグなど大衆誌はもちろん、タイムやニューズウィークでも表紙を飾るなど、オバマ大統領らが名を連ねる「世界に最も影響を与える100人」(タイム)に数えられました。ここまでセンセーショナルなボクサーは、もう二度と現れないかもしれません。】
野球やサッカー、テニス…他のプロスポーツとボクシングの最も大きな違いは「何を売るのか」です。ほぼ全てのプロスポーツは「極限まで研ぎ澄まされた技術」が売り物になります。ボクシングでも技術的にレベルが低いボクサーがファンに歓迎されることはありません。
しかし、現在、世界最高の技術を持つアンドレ・ウォードやギレルモ・リゴンドーがその技術に比例した人気を獲得しているとは誰も考えないでしょう。そして、そのことを理不尽だ、不条理だと思う人は少ないのではないでしょうか。他のプロスポーツではありえないことが、ボクシングではあり得るのです。
プロボクサーが売るものは「技術」だけではありません。「勇気」です。見ていて鳥肌が立つような勇気を見せるボクサーの試合に、ファンはチケットを買い、PPVの代金を振り込むのです。
フロイド・メイウェザーは勇気が無く、技術だけを売り物にしていたのにPPVキングだったじゃないか!。そう反論する人もいるかもしれません。しかし、彼以上にボクシングで最も求められるのが勇気であることを身にしみて知り尽くしていたボクサーはいません。
五輪メダリストの金看板を掲げ、卓越した技術でデビューから快進撃を続ける「プリティボーイ」はしかし、その人気、すなわち報酬は思うように伸びませんでした。この理不尽、不条理に業を煮やした彼はプリティボーイの渾名を捨て、「マネー」(銭ゲバ)の仮面を被ります。恵まれない子供らに多額の寄付をしたり、基金を設立したりとボランティア活動にも熱心な一面を持つメイウェザーは、〝改名〟後も慈善活動は一貫して継続しますが、マネーとなった瞬間からほとんど公の場でそのことを明らかにすることは無くなります。
メイウェザーは「銭ゲバ」のキャラクターをとことん追求していきます。夜の街で200ドル札をばら撒き、100万ドル単位でバスケの試合に賭け、法外な報酬を要求し、豪奢な私生活を下品なまでに公開する。銭ゲバのキャラクターは多くのファンから反発を買いましたが、彼は「人気」には正と負、二つのベクトルがあることを世界に知らしめました。そうです、絶大な不人気、つまりヒール人気ですね、これもまた強烈な人気だということなのです。
日本の亀田兄弟は、無意識のうちにこのロジックから「人気者」に登りつめましたが、意図的にやってのけたメイウェザーとはプロフェッショナルとしての次元が違います。プロレス的なアングルを使ったキャラ作りに成功した彼が、コナー・マクレガーとの歪んだファイトを創造したことは、ある意味自然の流れでしょう。
メイウェザーの対極、ベビーフェイスに立っていたのがパッキャオです。米国人でもない、メキシカンでもない、プエルトリカンでもない、目を見張るアマチュア実績もない。無いない尽くしの環境から、ただ一つ、勇気だけを売り物にして、アジアの奇跡は、アウェーのファンの心を鷲掴みにしてきました。
そんなパッキャオも今では、売り場からファンを惹きつけてやまない「勇気」をバックヤードに移し、安全運転の「技術」だけをきれいに並べて陳列しているのですから、多くのファンが幻滅し、メディアが批判の矛先を向けるのも無理はありません。しかし、何もかも手に入れたアジアの英雄の立場からは、閉店間際の残り少ない現役生活で最も安全に効率良く金を集めて、第二の人生、政治活動に充てたいと考えるのもまた当然です。
残念ですが、パッキャオが危険な戦いに挑んで大番狂わせを起こす、誰もが愛したパックマンに戻ることは、もはやないのかもしれません。
それでも、南半球で行われるメガファイトとしては、あの「キンシャサの奇跡」以来の超大興行には、ハングリーだった時代のパッキャオと同じ目をしたボクサーもリングに上がります。
MP(マニー・パッキャオ)プロモーションの〝プリティボーイ〟ヘルウィン・アンカハスです。そして、IBF世界スーパーフライ級王者のフィリピン人が2度目の防衛戦を戦うのは、千里馬神戸ジム所属の帝里木下。
真冬の南半球、ブリスベーンの巨大スタジアムには、偶然や運命がもつれ合った人生と、奇妙な符合が明滅する魅惑のアンダーカードも用意されています。
王者マニー・パッキャオが、 WBOで2位にランクされている無敗のホープとはいえ、世界的評価の低いジェフ・ホーンを対戦相手に選んだことには批判が集中しています。
アジアがボクシングの歴史に与えた最大の衝撃、パッキャオも今年で39歳。ホーン戦で67を数える戦譜は激闘の連続、全盛期には何度も世界中のボクシングファンの度肝を抜いた灼熱の拳は今や完全に冷め切ってしまいました。
ホーンは、地元オーストラリアでもけして有名ではありませんでしたが、今回の一戦で一気にスポーツセレブの仲間入りです。かつてパッキャオ戦を控えたティモシー・ブラッドリーも語っています。「今までロードワークしてても誰も声もかけてこなかったのに、パッキャオ戦が発表されると知らない人たちが群がってくるんだ。悪い気はしない、ずっとそうなりたかった自分にやっとなれたんだから」。マニー・パッキャオと戦うということは、そういうことなのです。
【2008〜2010年の全盛期にはプレイボーイやエスクワイア、ローグなど大衆誌はもちろん、タイムやニューズウィークでも表紙を飾るなど、オバマ大統領らが名を連ねる「世界に最も影響を与える100人」(タイム)に数えられました。ここまでセンセーショナルなボクサーは、もう二度と現れないかもしれません。】
野球やサッカー、テニス…他のプロスポーツとボクシングの最も大きな違いは「何を売るのか」です。ほぼ全てのプロスポーツは「極限まで研ぎ澄まされた技術」が売り物になります。ボクシングでも技術的にレベルが低いボクサーがファンに歓迎されることはありません。
しかし、現在、世界最高の技術を持つアンドレ・ウォードやギレルモ・リゴンドーがその技術に比例した人気を獲得しているとは誰も考えないでしょう。そして、そのことを理不尽だ、不条理だと思う人は少ないのではないでしょうか。他のプロスポーツではありえないことが、ボクシングではあり得るのです。
プロボクサーが売るものは「技術」だけではありません。「勇気」です。見ていて鳥肌が立つような勇気を見せるボクサーの試合に、ファンはチケットを買い、PPVの代金を振り込むのです。
フロイド・メイウェザーは勇気が無く、技術だけを売り物にしていたのにPPVキングだったじゃないか!。そう反論する人もいるかもしれません。しかし、彼以上にボクシングで最も求められるのが勇気であることを身にしみて知り尽くしていたボクサーはいません。
五輪メダリストの金看板を掲げ、卓越した技術でデビューから快進撃を続ける「プリティボーイ」はしかし、その人気、すなわち報酬は思うように伸びませんでした。この理不尽、不条理に業を煮やした彼はプリティボーイの渾名を捨て、「マネー」(銭ゲバ)の仮面を被ります。恵まれない子供らに多額の寄付をしたり、基金を設立したりとボランティア活動にも熱心な一面を持つメイウェザーは、〝改名〟後も慈善活動は一貫して継続しますが、マネーとなった瞬間からほとんど公の場でそのことを明らかにすることは無くなります。
メイウェザーは「銭ゲバ」のキャラクターをとことん追求していきます。夜の街で200ドル札をばら撒き、100万ドル単位でバスケの試合に賭け、法外な報酬を要求し、豪奢な私生活を下品なまでに公開する。銭ゲバのキャラクターは多くのファンから反発を買いましたが、彼は「人気」には正と負、二つのベクトルがあることを世界に知らしめました。そうです、絶大な不人気、つまりヒール人気ですね、これもまた強烈な人気だということなのです。
日本の亀田兄弟は、無意識のうちにこのロジックから「人気者」に登りつめましたが、意図的にやってのけたメイウェザーとはプロフェッショナルとしての次元が違います。プロレス的なアングルを使ったキャラ作りに成功した彼が、コナー・マクレガーとの歪んだファイトを創造したことは、ある意味自然の流れでしょう。
メイウェザーの対極、ベビーフェイスに立っていたのがパッキャオです。米国人でもない、メキシカンでもない、プエルトリカンでもない、目を見張るアマチュア実績もない。無いない尽くしの環境から、ただ一つ、勇気だけを売り物にして、アジアの奇跡は、アウェーのファンの心を鷲掴みにしてきました。
そんなパッキャオも今では、売り場からファンを惹きつけてやまない「勇気」をバックヤードに移し、安全運転の「技術」だけをきれいに並べて陳列しているのですから、多くのファンが幻滅し、メディアが批判の矛先を向けるのも無理はありません。しかし、何もかも手に入れたアジアの英雄の立場からは、閉店間際の残り少ない現役生活で最も安全に効率良く金を集めて、第二の人生、政治活動に充てたいと考えるのもまた当然です。
残念ですが、パッキャオが危険な戦いに挑んで大番狂わせを起こす、誰もが愛したパックマンに戻ることは、もはやないのかもしれません。
それでも、南半球で行われるメガファイトとしては、あの「キンシャサの奇跡」以来の超大興行には、ハングリーだった時代のパッキャオと同じ目をしたボクサーもリングに上がります。
MP(マニー・パッキャオ)プロモーションの〝プリティボーイ〟ヘルウィン・アンカハスです。そして、IBF世界スーパーフライ級王者のフィリピン人が2度目の防衛戦を戦うのは、千里馬神戸ジム所属の帝里木下。
真冬の南半球、ブリスベーンの巨大スタジアムには、偶然や運命がもつれ合った人生と、奇妙な符合が明滅する魅惑のアンダーカードも用意されています。