【刺客番号⑥】ノニト “フィリピーノフラッシュ” ドネア 38勝24KO5敗
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今から10年前。

ノニト・ドネアはスーパースターの階段を駆け上がる、まさにその途中、最も輝く季節の入り口に立っていました。

そして、持って生まれた身体能力を武器に天下無双の快進撃。

2007年7月7日、ブックメーカーによっては1−10という圧倒的不利予想を覆して、フライ級の絶対王者ビック・ダルチニアンを斬って落とした衝撃のIBF/IBO世界フライ級タイトルマッチ。

この軽量級史上に残る偉大な試合は、リング誌をはじめ多くのメディアから「年間最大番狂わせ賞」に選出されました。

21世紀の〝レイジングブル〟は、イレーネ・パチェーコをKOして奪ったベルトを圧倒的な強さで5連続防衛中。ドネアの兄、グレンもその犠牲者リストに名前を刻んでいました。

「弟の方が速いし、パンチもある。絶対に勝てる」。ファンもメディアも、リングサイドで応援するグレンの言葉を真に受けるものは誰一人としていませんでした。

「兄貴、行ってくるぜ。仇を取ってくるからな」。

六人目の生贄になるであろう24歳の若者の言葉も、悲壮な響きにしか聞こえませんでした。

しかし、1ラウンドから全く互角の展開。楽勝を予想されたダルチニアンは、ドネアのシャープな動きとパンチに戸惑いを隠せません。

3ラウンド、それまでも危険なタイミングでアルメニア人を脅かしてきた左フックがついに火を噴きます。ダルチニアンは右目をカット、ゲームを支配しているのが無名のフィリピーノであることが誰の目にも明らかになります。

低いガードから高速の強打を情け容赦なく叩き込む。

危険を冒して鮮烈な一撃を狙う、近似したスタイルの両者のスリリングな展開は、スピードの差で決します。

4ラウンド終盤、ダルチニアンの攻撃をドネアがクルッと一回転してかわすと、レフェリーがすかさず注意を与えます。

しかし、これこそは調子がいい時のドネアが度々見せる派手なパフォーマンスの一つです。

そして5ラウンド。ドネアの動きはキレを増し、ダルチニアンの戸惑いと焦りはさらに大きく膨らみます。

1分30秒過ぎ、左のショートカウンターでダルチニアンがダウン。あんなに大きなパンチを交錯させていた試合が、驚くほど小さく、完璧のタイミングの一撃で唐突に終わりました。

ドネアのベストパフォーマンスは、モンティエル戦ではありません。
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圧倒的なスピードとパワーでリングを席巻した全盛期のドネアは、井上尚弥の先駆けでした。


昨年から、フィリピーノフラッシュをプロモートしているのはリチャード・シェーファーです。

そう、WBSSの仕掛け人です。



     I know that Richard [Schaefer] has another fighter who’s fighting for the WBC title, he said.  Perhaps we might fight in his first defense. It’ll be fun, that’s for sure.
   リチャード・シェーファーがWBCの王座決定戦を戦うボクサーもプロモートしているのは知っている。初防衛戦の相手が私になるだろう。面白いことになってきた、それだけは確かだ。〜ノニト・ドネア

ノルディン・オーバーリとペッチ・ソー・チッパッタッナのWBC王者決定戦は6月23日、パリで行われます。

WBSSの開幕は今秋ですから、この二人の勝者とドネアが戦うことに、スケジュール的な無理は全くありません。もし、シェーファーが「その気」なら、WBCは何の躊躇いもなくドネアをランキングに入れるでしょう。

「直近3試合を1勝2敗。バンタムではどの団体でもランキングされていない黄昏のビッグネームに、最強トーナメントへの出場資格はあるのか?」


……そんな野暮は、このスポーツでは言いっこ無しですぜ、兄貴。