山中慎介が、散りました。

完敗です。

「セコンドの判断が早すぎる」。「まだ逆転できた」。「今までもダウンから逆転してる」。

多くのファンの意見と同じく、帝拳ジムの本田明彦会長も「最悪のストップ」と、タオルを投げた大和心トレーナーを避難しました。

本田会長は「(通常タオルを投げる時は)相談がある。こんなことは初めて」「大和はいいやつで優しいから。魔が差したかな」ともフォローはしてますが「今夜のタオルは早すぎる」と。

プロ野球の試合でよく聞く解説があります。「どうして、この場面で投手交代でしょうか?」「ここで代打はないでしょう」。

好投を続けていた投手のマメがつぶれて投げられる状態ではなかった、前の回の守備でハムストリングを痛めた…。内実はベンチにしかわかりませんが、〝外野〟は勝手なことを言うのが常です。

今回の「タオル」にも、そういう背景があったのかもしれません。

しかし…。

大和トレーナーがリングに上がった、あの場面、あれは誰が見ても山中慎介の「キャリア最大のピンチ」でした。

「セコンドを心配させた」。

山中が吐き出した言葉には、いろんな意味が読み取れます。

表層的には「過去最悪の大ピンチに陥ってしまって心配させた」。深読みすると「(絶好調と語っていたが、セコンドと本人だけがわかっていた)体調的な問題があった」。

外野にはわかりません。

山中の性格からしても、言い訳はしないでしょう。

山中のキャリアで最強は、アンセルモ・モレノです。このパナマ人が、世界バンタム級史上屈指のテクニシャンであることに異を唱える人はいないでしょう。

そして、その次がビック・ダルチニアンで、このアルメニア人はジュニアバンタムが全盛期とはいえ、モレノ以上の殿堂クラスの実績を持つ、まさに怪人でした。

モレノ、ダルチニアン、いずれの試合も、国内メディアの論調は「世界的な強豪、山中危うし」。

一方、世界では「モレノは劣化してる上に、敵地で戦うから公平な判定は望めない」「ダルチニアンはジュニアバンタムまでは最強、しかしバンタムでは急ブレーキで低迷」と、誰の目からも旬ではなく、予想もオッズも山中に傾いた状況でゴングが鳴らされました。

今回の結果を「愚かなトレーナーがタオルを投げなければ逆転勝ちしてたのに!」と、本気で本田会長が考えるなら、手元の契約書に間違いなく明記している「再戦条項」を行使したらいいだけの話です。

もし、プロモーターとして、ビジネスマンとして非常に優秀な本田会長がボクシングにも造詣が深ければ、再戦はさせないでしょう。本気で、あのタオルが早いと考えているのなら、再戦条項を行使しましょう。

ネリーは、日本で戦う以上の報酬を米国西海岸で稼げるような人気選手ではありません。再戦できるなら、喜んで東京でも京都でも、来ますよ。

今回の試合予想は、国内外ともに「山中有利」。ネリーは無敗ながら、「誰に勝ったか」となると誰にも勝ってません〝雑魚狩り〟の無敗です。一方の、山中はモレノ、ダルチニアンというビッグネームに完勝してますが、二人ともにピークはとっくに過ぎたグレートでした。

モレノとの2戦はもっと、しっかり、その背景も報道すべきだったと思います。第1戦は日本のファンですら煮え切らない微妙な判定でした。リング誌は「モレノが勝ったように見えたが、そのリングが日本にしつらえられていたことが結果のすべて」(個人的にはこの試合レベルのホームタウンデジションは支持します。〝中東の笛〟はあらゆるスポーツで吹かれます。村田諒太vsアッサン・エンダムのレベルの判定になるとリング誌も「ありえない判定」ですが)。

ただ、事実だけでなく、真実も報道すべきです。「モレノに勝って山中が日本人初のリング誌のPFP10 」という〝大本営〟だけでなく、「あの試合はモレノが勝っていた」「パナマでやっていたなら大差判定でモレノ」、そんな海外の報道もしっかり伝えるべきです。

再戦が、倒し倒されの打撃戦になった最大の原因は、老モレノが「日本で勝つにはKOしかない」と、自分が最も得意とする技術戦を選択できなかったからです。

山中の本心は「防衛記録」なんかではななく、かつて何度も口に出していた、レオ・サンタクルスと戦いたい、という「世界が認める強豪と戦いたい」ということでした。

今夜の蹉跌は、内山高志と同じです。

承認料が高い日本の世界王者を優遇したい腐った承認団体が用意する雑魚(敢えて雑魚と呼びます)挑戦者ばかりを相手に防衛戦を重ねながら、「本当に強い、世界評価の高い相手と戦いたい」というモチベーションが冷まされていく、そのうちに雑魚の中でも苦手なタイプに屠られる…。

承認団体からしたら、興行規模、ファイトマネーによって決まる承認料をたんまり稼ぎたい、当然、カモネギ日本を飼い慣らしたいのです。

日本のジムにしても、目先のビジネスだけを考えたら、うまくスポンサーをつけて世界戦という名のアルファベット団体が勝手にランキングした雑魚挑戦者相手に防衛を重ねていくのが賢いやり方です。

しかし、その行き着く先は、世界王者にもかかわらず「具志堅の記録」を「抜いた」とか「並んだ」とか「迫った」とかです。

もう、やめましょう。

もう、繰り返してはいけません。

もし、山中が意中のサンタクルスと戦っていたら、かなり高い確率でKO負けしてたでしょう。

バンタム級の壁にもがき苦しんでいた劣化ダルチニアンの圧力からも逃げてしまった山中には、全盛期のサンタクルスが振るうパワーボクシングはあまりにも荷が重すぎます。

ただ、戦わせてほしかった。ボクシングは何が起きるか、誰にもわかりません。ましてや、山中は強打者です。

惨敗でも、大番狂わせでも、そこで、何かが、始まるか、終わります。それで、ファンも、おそらく本人も納得するのです。

山中も内山も、長谷川も、、、失礼な言い方ですが「負けるのが遅すぎる」。

本当なら、もっと早く、負けなくていけないレベルのボクサーなんです。

3人とも、特に内山は世界基準のスピードには絶望的に対応できない、山中と長谷川は防御面で致命的な欠陥を抱えながらも、国内メディアが大絶賛することには大きな違和感しかありませんでした。

国内で承認団体が用意する安全な相手をさばいていることが、名刀を錆びつかせ、いつかその安パイに食われてしまい、結局は旬の強豪には一度も勝たずにリングを去る、悔恨のキャリアを辿ってしまうことになるというのに。

ボクサー本人には一片の責任もない、です。

日本人の世界王者は、人気選手は雑魚(何度も言います)相手に防衛を重ね、数少ない世界的な軽量級人気選手は日本人を咬ませ犬として選ぶこともありますが、それは日本の人気選手ではありません。

もちろん、山中や井上尚弥、井岡一翔に数百万円の報酬で海外、敵地に行け、というのはあまりに無理がありますが、少なくともこの真実を把握して前に進むしかないのです(井上は9月の米国デビューで破格の40万ドルの報酬を得ますが、このからくりは日本のTV局のスポンサー資金であってアメリカンドリームではありません)。

日本のファンが万能と信仰している井上にしても、彼はリバウンドで小さな相手を圧倒する長谷川タイプのボクサーです。リバウンドが大きいボクサーは、前日計量のトレンドに合った、まさに「強いものが生き残るのではない、環境に適応したものが生き残る」というダーウィンの理屈に沿った強者です。

来月のSUPERFLY興行、「クアドラスとエストラーダ」「ロマゴンとシーサケット」の勝者が来年早々にも〝決勝戦〟で激突しますが、井上はそのどちらかの敗者とでもやるべきです。

そして決勝戦の勝者と、真のスーパーフライ最強を、決めてもらいたいですね。本当は、英国ボクシングが盛り上がっているように、井岡と、国内最強を決めるべきなのですが。

もちろん、このメンツで勝ち残るよりも、ルイス・ネリーの方がはるかにやりやすいでしょう。

何れにしても、日本の才能ある選手が、またこの13度防衛を狙う、その道を辿ることは絶対に良くないです。

もう、やめましょう。