三浦隆司が、ミゲール・ベルチェルトと決闘する坂の上にワシル・ロマチェンコという巨大な積乱雲を見据えているのに対して、亀海喜寛はいきなり超ビッグネームと激突します。

8月26日、スタハブセンター。WBO世界ジュニアミドル級タイトルマッチ。相手は、なんと、あのミゲール・コットです。

この試合の関心は、日本と世界でかなり温度差があります。日本では「過去最高のビッグファイト」ですが、海外では「引退前のコットの調整試合」。

2年近くもリングに上がってない(しかもその2年前の試合も完敗している)コットと、ジュニアミドルでは全く実績がない(ウェルターでも世界トップとの対戦は皆無、トップ脱落のロバート・ゲレーロに負けたのが唯一の大きな試合の)亀海に世界タイトルを争わせるWBOに倫理観は存在するのか?…そんな論調ですね。

まぁ、プロボクシングの世界はそんなものです。特にアルファベット団体については、クリーンな話を聞くなんてことはまずありえません。

「今のコットや亀海がジャーメル・チャーロと戦ったら5ラウンドも持たない」。こんなことまで言われてますが、言わせておきましょう。チャーロがどんなに望んでも、コットと戦うことは叶いませんから。それが、プロボクシングの世界です。

しかし、この試合も三浦vsベルチェルトと同様、亀海不利のオッズ、予想が並んでいます。


【「ドン・キングは出来上がったファイターと大きな試合を創造する」。ザイールのアリvsフォアマンなんて、キング以外には誰も発想すらできない〝傑作〟です。一方のアラムは「若い才能をスターダムに引き上げる」。アラムと契約した時点のパッキャオは例外で、すでに米国でスターでしたが、彼をスーパースターにのし上がらせる舞台装置を用意したのはアラムでした。コットもNABO、WBCインターナショナルなど地域タイトルを取りながら人気と自信をつけながら育てられ、ジュニアウェルターとウェルターの世界戦はいずれも決定戦と王座に就くまでは慎重に(ある意味温室で)育てられました。=写真=地域タイトルのベルト以上に、まだ刺青のないコットの上半身が新鮮です。】

偉大なコットのグランドフィナーレ。その最初のページでつまずくなんて絶対に許されない。そこで選ばれたのが、亀海です。

タフで精神力が強い。しかし、技術とパワーには見るべきものはなく、安全な相手。危険なラッキーパンチも持っていない。亀海をそう見ているのでしょうが、悔しいけど世界のトップから亀海を見たらそうなりますよね。

ただ、今のコットが世界のトップかというと、これは甚だ疑問ですね。巷間、言い尽くされているようにコットが最後に勝った旬の強豪は、2008年のジョシュア・クロッティまで遡らなければなりません。

マニー・パッキャオ、フロイド・メイウェザー、カネロ・アルバレスはもちろん、オースティン・トラウトにまで完敗。2008年以降の約10年で勝った相手は二流か、深刻な問題を抱えた黄昏時の一流(セルヒオ・マルチネス)だけです。

強豪との対戦を躊躇しない(ウェルター級までは)コットでしたが、トップランクの戦略は世界王者になるまでは一貫して「温室」でした。

トップランクとしては、ライバルのドン・キングが擁していたプエルトリコのスーパースター、フェリックス・トリニダードの後釜だけに慎重に開花させたいという思いが強かったのでしょう。

明らかな才能と実力。後は自信と、適切な経験を積ませるだけ。自信と経験を身につけた時には、史上最強になるから誰とでもどこでも戦わせても大丈夫。

40年近くも前にジョージ・フォアマンが辿った道と、同じ線路がコットにも敷かれます。

寡黙で、過剰なショーアップを嫌う職人肌。フォアマンと、コットは肥満体質という以外にも共通点は多くありました。そして、ボクサーとしては絶対に似てはいけない要素も、悲しいかな似てしまいました…。

亀海にも、間違いなく大きなチャンスがあるのです。