あの日から一週間が経とうとしています。

日本人が世界のメガファイトのリングに上がる。

村田諒太がロンドン五輪のミドル級で金メダルを獲るまでは、タチの悪い白昼夢のような話が電通とフジテレビまで巻き込んで、まさかの現実へとひた走っています。

カメルーンの不屈のライオン、アッサン・エンダムに敗れた判定が世界的な議論(ほとんど全てが「誤審」という批判ですが)を呼び、ロンドン五輪後、プロ転向してからは世界のトップ戦線で話題になるような相手とは戦ってこなかった村田に改めてスポットライトが当てられています。

村田が「アメリカの大物プロモーター、ルー・ディベラも試合を見てくれていたみたいです」と喜ぶように、米国のメディアや専門家も村田を改めて評価しています。これまでは「五輪の金メダリストだから、プロでも世界基準の実力があるのは間違いない」と評価される一方で、「最強王者ゴロフキンの対抗馬ではないし、ミドル級のトップレベルかというと疑問」と見られていました。

しかし、今回の大騒動で「ピーター・クイリンやデビッド・レミューでも持て余したあの難攻不落のエンダムを圧倒したって本当なのか?」と注目が高まっています。もし、すんなり判定勝ちしていたら、ネットでしか見れなかったあの試合を、わざわざYouTubeなどで検索して確かめようとするファンはそれほどいなかったでしょう。

米国のニュースサイトの読者コメントを拾うだけでも「プロでも戦っていたのか。だったら強いのはわかっている。見たいけど見れない。そんな不当判定だったのか?」「米国人だったら、ミドル級金メダリストはとんでもないスポーツセレブ。あんな判定に泣かすことは絶対にしないのに」「右の威力とガードの固さは、間違いなくミドル級No.1」「あの右は階級最強。(メキシコ系としては)正面衝突を好むカネロとはやらせたくない…」。。。

そうです。希望という名の重い、重い荷物を積んだ、私たちの夢列車はその速度を落とすどころか加速しているのです。

しかし、だからと言って、あの不当判定を見過ごしていいわけがありません。あの夜の〝被害者〟が村田諒太だったから、爽やかな風のような、ありえないハッピーエンドになっていますが、醜悪な遺恨を残していても全く不思議ではない理解に苦しむ判定でした。

ただ、あの試合だけに限らず、ボクシングの判定には、いくつもの重大な欠陥を抱えたまま、なし崩し状態が続いています。

重大な問題を集約すると「どこに眼ェつけとんねん!」と「現在の判定慣例が明らかに間違っとる!」という2点に尽きます。

★「どこに眼ェつけとんねん!」★
これには、いろんな意味があります。すでに議論が始まっていますが、ジャッジには運転免許のように更新の検査が絶対必要です。今回の二人のジャッジは6ヶ月間の資格停止処分を受けましたが、これで一件落着なわけがありません。こんなジャッジはいくらでもいます。〝事故〟が起きてから処分するなんてこんな泥縄な話はありません。


【2013年のメイウェザー対カネロで114−114とイーブンをつけたC・J・ロスは、前年のパッキャオ対ブラッドリーでも「ブラッドリーの勝ち」と判定、世紀の誤審の当事者だったにもかかわらず、のうのうと翌年のメガファイトでも判定席に着きました。この女性が悪意を持って誤審したとは考えたくありませんが、正しい判定を下す能力が欠落していたことは疑いようもありません。=リング誌2013年12月号「あの試合が114−114?ロス女史は一刻も早く眼医者に行くべきだ、重篤な病だ」。】

公正な判断能力が欠落したジャッジは、検査によって排除しなければなりません。当たり前です。

ジャッジの基準は明白です。今回の件で「海外ではダメージを与えるパンチよりも手数が評価される」という明らかに誤ったことが、ほんの一部で垂れ流されていますが、これは汚物のような嘘です。

だから、世界中が「村田が勝っていた」と判定しているのです。

スコアの基準は明白です。大きな基準は3つです。

①EFFECTIVE AGGRESSION
直訳すると「効果的な攻勢」です。これが最も大切な要素です。もちろん、WOWOWでも毎試合冒頭でアナウンスされているように、有効打のない「単なる突進」は、効果的な攻勢とは認められません。

エンダム戦の村田の前進は、明らかに「単なる突進」ではなく、まさしく「効果的な」プレッシャーをかけていたことに異論がある人はいるのでしょうか?

②RING GENERATIONSHIP
2番目に大切な評価基準が、リング・ジェネレーションシップ。これが最も誤解されると言われています。これは、どちらに振っていいかわからないような接近したラウンドで、決め手となるものです。有効打も手数も拮抗している中で、どちらが相手を動かしていたか、コントロールしていたか、ということです。

これも、エンダム戦での村田が明白に取っていたものです。エンダムは村田のプレッシャーで交代していたのは、誰にでも分かることです。下がりながらも、効果的なカウンターで村田の動きを止める、つまり村田をわざと前に出させていたのなら、それはエンダムのリング・ジェネレーションシップが勝っていたということになりますが。

もちろん1、2ラウンドの村田は手数が異様に少なく、エンダムに「効果的なプレッシャー」がかかっているのかどうかは、誰にもわかりませんから(わかっていたのは村田とエンダムの二人だけですね)、手数でエンダムにポイントをつける以外にはありません。

この要素の天才がフロイド・メイウェザーです。彼の場合は、誰が見ても、相手に動かされているのではなく、相手を動かしているのです。キャリア後半は、下手くそなジャッジなら誤審してしまうこの要素を最大の武器にして無敗を保ったメイウェザーの技術は、背筋がゾッとするほどです。カネロ戦やマルコス・マイダナ戦などは結果的に判定が割れてしまう危険を孕んでいたとはいえ、あのショルダーロールは間違いなく相手を動かしていました。

③ AGGRESSION
これは「単なる突進」です。最後の最後の要素です。①②のどちらの要素でも、判断尽き兼ねる場合は、どちらが危険を恐れず前に出て、どちらが危険を恐れて後退していたか。ただし、これはあくまで、最後の要素です。「単なる突進」を評価したくはありませんが、どう見渡しても、それしか材料が無いというラウンドだけに、これが適用されます。

これも、エンダム戦の村田は明らかですね。村田がエンダムを追い込むシーンは何度もあっても、その逆は一度もありませんでしたね。

先週の試合で、誰が見ても村田が取ったラウンドは4、6、7の3つです。エンダムはあと2回はダウンを追加されていてもおかしくなかったのに、ロープとレフェリーに救われた、という声も多いですが、それは置いておいて。

エンダムが残りの9ラウンド、全てを取れば、9−3でエンダム。ただ、4ラウンドはダウンがあるので9−4でエンダムです。しかし、ボクシングの3つの採点基準に照らしわせたら、その9ラウンドも、エンダムはダメージで膝を揺らしながら後退するばかりで、上回っていたという手数ですら、ただの一度も村田をぐらつかせることが出来なかった弱々しいジャブがほとんどでした。

今回の二人のジャッジが、まともな判定眼を持っていなかったことは明白です。そして、それが許されているのが、狂ったボクシング界なのです。

しかし、「どこに眼ェつけとんねん!」は、今回の特定のジャッジだけに向けた意味ではありません。もう一つの問題があります。

その「どこに眼ェつけとんねん!」は、世界中のあらゆるジャッジ、一人の例外もなく、全員に当てはまることです。それだけに、問題は大きく、深刻です。