村田諒太様

素晴らしい試合、お疲れ様でした。

全く理解できない判定はプロだけでなくアマでも、ありえないことではないのですが、それがまさか今夜起きるとは、本当に思ってもみませんでした。

ニュース番組であなたの言葉を聞きました。

「これだけ多くの人に支えられて勝てなくて。じゃあ、もう一回と無責任なことは言えない」「負けたらもう1回できるなんて、そんな気持ちでやってきていない」。

私を含めて多くのファンの方こそが、あなたを無責任に応援してきました。あなたの拳には、日本人には絶対無理だと諦めていた、分厚く重たい扉をブチ破ってくれる可能性があると信じていたからです。

私はあなたが明白に勝つと思っていました。そして、その通りに、いいえ、私の予想以上に村田選手は見事に試合を支配して最終ゴングが鳴りました。

ボクシングは純粋なKO以外は判定競技です。TKO(ストップ)も主審の「主観」です。純粋な10カウントのKOなんて滅多にあるものじゃないから、ボクシングは「主観に基づく判定競技」だと言い切ることもできます。それゆえ、アマでもプロでも到底許せない不可解な判定が、時として起こりえます。

こんな誰でも知っている判り切った説明を、あろうことか村田選手にしてしまう無礼をお許し下さい。

判定を聞く前に「正直、胸騒ぎがした」、そうおっしゃいました。その胸騒ぎは、そういうことだったと思います。恐ろしく聡明で鋭敏な感覚を持った、あなたらしい直感です。

そんな直感、当たってほしく無いのですが…。

今後のことについては「気持ちの整理が必要」とおっしゃいました。

もちろん、ゆっくり休んで下さい。

「力を貸してくれた多くの皆さん、集まってくれたファンに勝つ姿を見せることができずに申し訳ない」ともおっしゃいました。しかし、あなたを応援していた誰一人残らず、あなたが負けたとは思っていません。勝ったと思っています。

村田諒太様。あなたは、日本のボクシングファンの夢を乗せた船を、もう漕ぎ出してしまったのです。その船が転覆したら、私たちも潔く、諦めます。

しかし、今夜、夢の船は明らかに順風満帆に大洋に出ました。そう見えなかったのは、おそらく世界で二人だけです。パナマとカナダから来た二人の審判だけが「この船は転覆した」と言っただけです。

あのアッサン・エンダムを倒して36分間も圧倒した日本人が、ここで船を降りるなんて、それこそ無責任です。

間違いなく世界標準のミドル級選手が、日本人の攻撃にひたすらバックステップを踏んで、12ラウンドを逃げたのです。そんな光景を目の当たりにさせておいて、続きは無い、なんてありえません。

一緒に観戦した友人は、今夜初めてボクシングを見ました。十分に試合を楽しんでいたのですが、判定を聞くと「ボクシングは難しいな、あれが負けになるんだな。素人にはよく分からない」、そんなことを呟きました。

村田諒太様。責任を取って下さい。あなたの責任ではなく、ボクシングが抱える暗部の問題ですが、責任を取って下さい。ボクシングの素晴らしさを、今夜も十分に見せてくれましたが、もっと見せて下さい。

私たちの夢の船は、転覆も座礁もしていません。無傷のまま、大海原に漕ぎだしました。ここで船を降りることなんて、絶対にありえないし、許されませんが、もし、そんな決断をされたなら、最も幸運なのはゲンナディ・ゴロフキンやカネロ・アルバレスらでしょうね。

そして、最も不幸なのは、日本のボクシングファンです。

航海を、続けて下さい。