週明けの月曜日に健康診断があるので、村田勝利の喜びを噛みしめて、おとなしく有明コロシアムから家路に着こうと思っていました。まさか、やけ酒の末にタクシーで帰宅する羽目になるとは。

この試合には、ゴングが鳴ったその瞬間から驚かされました。元より、私の席から両者の表情など読み取れません。家に帰ってからじっくりビデをを見ようと録画して来ました。

なんということでしょう。1ラウンドも1分30秒も経過したというのに、村田諒太は一発のパンチも出しません。アッサン・エンダムは不必要なほど大きな距離を取って下がりながら軽打で村田のガードを叩きますが、金メダリストの前進を止めることができません。

「拳を交えたらその瞬間に相手が強いかどうかがわかる」。よく言われることですが、今夜のエンダムは一発のパンチも受けていないのに、村田のプレッシャーの厳しさ、右の大砲の照準を探って最短距離で空間を潰してくる金メダリストが、途轍もなく危険な相手だということを瞬時に察知したのでしょう。


【夏日となったこの日。夜の有明コロシアムには、昼間の熱気がそのまま持ち込まれました。】

大観衆にもそれは伝わっていました。「村田のプレッシャーがかかっている」。

2ラウンドに入って、村田は手数を増やしますが、下がるエンダムの手数が上回ります。ポイントは2ラウンドまでは間違いなくエンダムですが、村田に手数が出ないのは距離を潰しながらタイミングを測っているからです。エンダムのジャブを村田はブロック、ブロックを割るパンチもおでこで上手く受けていました。

驚きました。少なくとも序盤は、エンダムが村田のプレッシャーをいなして、ボクシング出来ると予想していたからです。

とんでもない。開始直後からエンダムは、思い通りに動けません。「プレッシャーがかかっている状態」というのは、わかりにくいことが多いのですが、パンフレットを広げるとリングが隠れるくらいに離れた席からでも、どっちが攻めていて、どっちが逃げているのか、はっきりわかりました。

友人や周りの観客も「3ラウンド取った!」と声をあげましたが、私は3つとも取られててもおかしくないと見ました。ただ、こういう表現はおかしいのですが「ポイントの取られ方が良い、非常に良い」、そう感じていました。3ポイントをあげる代わりに、右の大砲の照準がキリキリとセットされていることは、ほとんどの観客がわかっていたでしょう。

この試合は、村田のKOか大差判定で終わる。

3ラウンドが終わって、全部ポイントが取られているかもしれないのに、そう確信したのは私だけではないでしょう。村田のプレッシャーの網にエンダムは完全に絡みとられてしまっている。

4ラウンド。「村田が笑ってる」。前の席から声が伝わってきます。

そうでしょうね、ここから見てても完全にペースを掌握してるんだから、やってる本人の手応えは相当なものでしょう。

その瞬間は見えませんでした。耳をつんざく大歓声。エンダムの倒れ方、立った後も膝が揺れている姿から「わ、こんなに早く終わるのか」、そう思ったほどです。最悪3ポイント許したリードは、このダウンで1ポイント差に縮まりました。

5ラウンド以降は、もっと村田が優勢に出るだろうし、エンダムのダウンもこの1回じゃ済まない、そうとしか思えませんでした。しかし、5ラウンドからの8つの3分間ではその瞬間は訪れませんでした。そういう意味では、判定までもつれたのは不吉な感じはしましたが…。

とにかく、5ラウンドは村田が取ったと見ました。ここでポイントで追いつき、最悪でもイーブンです。

そして、村田が有効打を重ねた6〜7の2つのラウンドは誰が見ても取りました。この時点で、最悪でも2ポイントリード。

8ラウンドから残る5つの3分間は、村田のプレッシャーにエンダムがトドメを刺されてたまるかと左ジャブで逃げる展開。この5ラウンドが、ここが、あの忌まわしきタッチボクシングの都ラスベガスだとしても全部エンダムが持って行くことはありえないはずです。

しかし、あろうことか二人のジャッジは、8ラウンドからの最終回までフルマークでエンダムに与えているのです。

【「ジャッジ、ヒューバート・アール、115対112…」3人目のコールが聞こえた時、悪夢か?としか思えませんでした。まさに悪い夢です、夢なら良かったのですが。ありえないです。スコアカードで3者ともに一致したラウンドは6ラウンド、割れるわけがないダウンしたラウンドを除くと5ラウンド。残る7ラウンドは判定競技の宿命、ジャッジの主観に委ねられてしまうのですが…それにしてもこんな判定、到底納得出来ません。】

2012年のパッキャオvsブラッドリーの第1戦など、明らかな不当判定は必ずと言っていいほど「逃げるが勝ち」です。

殴り合いを挑んでプレッシャーをかけるよりも、ダメージを与えることのできない弱いパンチを出しながら逃げる選手が評価されるとしたら、これは、もはや格闘技ではないですね。選手の安全が最優先されるというなら、その採点基準を明白にすべきです。プレッシャーをかけて一発のダメージングブローを打ち込むよりも、腰砕けで逃げながらペチぺチ放つ2、3度のタッチがポイントになるというなら、これはボクシングではない、鬼ごっこです。

ボクシングとは、相手に何回タッチできるかを競う競技なんでしょうか?それなら、今すぐ競技名を変えるべきですね。

WBAに抗議文を出すほどの内容だったと思います。