ウエルター級のカネロは1階級上げてスーパーウエルターへ進出した時には、チャベスは1階級上のミドル級へ。さらにジュニアがスーパーミドルも超えて最高172ポンド1/2まで体重を上げ、カネロがマックス155ポンドにとどまった時点では「マルチネスに負けてミドル級を離れてライトヘビー級で戦うジュニアを見た時にカネロとの決戦は消滅した」(ゴールデンボーイプロモーション=GBP=エリック・ゴメス)と誰もが思いました。

しかし、昨年12月にジュニアがドミニク・ブリッジと167.9ポンドで戦った時、運命の歯車は再び動き始めました。

両者には積年の因縁に加えて、戦う理由を新たに抱えていました。

カネロにとっては世界中からせっ突かれているゲンナディ・ゴロフキンとの決戦の前に、自分より大きな相手と戦うテストマッチとして。ジュニアはここ数年で失墜した評価をたった1試合で取り返すことの出来る贖罪として。

試合としては155ポンドが適正のカネロと、怠惰な自己管理の末に160ポンド(ミドル級)から逃亡したジュニアが、164.5ポンドのキャッチウェイトで戦います。カネロにとってはベストから約10ポンドも重い契約ですが「スーパーウエルター最強」のカネロと、「落ちこぼれのライトヘビー」のジュニアという両者の現在位置から歩み寄った妥協の産物です。

メキシコの人気を二分してきたスター同士の激突とはいえ、今回のリングではカネロがAサイド、ジュニアはBサイドに回ります。カネロにとって、ゴロフキン戦へのテストマッチの相手がジュニアしかいないわけではありません。もちろん、テストマッチとは試合の位置付けだけで、興行としてはゴロフキン戦よりもはるかに巨大になるという矛盾をはらんでいますが。


【ゴロフキンとの決戦を控えるカネロにとっても、転落人生を一気に浮上させるチャンスを得たジュニアにとっても、絶対に負けられない戦いになります。】

一方のジュニアは昨年9月に「もしアル・ヘイモンが名誉回復のビッグファイトを用意できないのなら引退する」と語るほどまで追い詰められていました。

現在の立場を反映してカネロの報酬が最低保障約500万ドルに対して、ジュニアは300万ドル。宿命のライバルの力関係はリング外でも大きく開いてしまいました。それでも、この試合に勝てば全てを取り戻すことが出来るのです。ゴロフキンをマネジメントするトム・ロフラーは「カネロが勝てば、9月に向けて交渉は最終段階に入る。負けてもカネロとの試合を優先的に考えるが、その時はチャベスも選択肢に入ってくる」と語っています。

先月のダニエル・ジェイコブス戦で大型選手への対応力に疑問符が付いただけでなく、2度目のPPVの売り上げも17万世帯と低迷(最初のPPVは2015年のデビッド・レミュー戦で15万3000世帯。対戦相手の知名度は上がったにもかかわらず売り上げの伸びは微々たるものでした)、米国人でもメキシカンでもプエルトリカンでもないゴロフキンの商品価値(人気)はこの辺りが限界と見られていることからも、チャベスはAサイドでリングに上がることができるでしょう。

マルチネスに敗れて以来、迷走を重ねてきたジュニアが今回、164.5ポンドを作ることが出来るのか?おそらく無理でしょう。というか、確信犯的に2ポンド前後を上積みしてくるのではないでしょうか。ファン・マヌエル・マルケス戦でフロイド・メイウェザーがあざとくキャッチウェイトをオーバーして罰金を払ったように。1ポンドオーバーにつき100万ドルの罰金が契約で定められていますが、この試合の意味を考えると大金を払う価値は十分にあります。

普通のスポーツなら、こんな〝法の抜け道〟みたいなことは本来、絶対に言っちゃいけないんですが、これはボクシングです。統括団体すら存在しない、ありえないスポーツ(そもそもこれはスポーツなのか?)です。魑魅魍魎が跋扈する、清濁併せ呑むなんて生ぬるい、濁々併せ呑む世界なのです。

チャベスのコンディショニングトレーナー、ミモ・エレディアも「ジュニアの減量は順調。彼は『減量に問題があると思っている奴らがいるようだが、大間違いだ』と言ってるよ。まさにその通り」と爽やかに語っていますが、意図的に契約体重に収めない可能性は否定出来ません。

メキシコの伝説、チャベスSr.も「これは息子のキャリアで最も重要な試合だ。他の誰に負けようが構わないが、カネロだけには絶対に負けてはいけないんだ。調整は信じられないくらいに順調だ。間違いなくキャリア最高の状態でリングに上がることが出来る」。確かに、心を入れ替えたジュニアがこの試合に強烈なモチベーションで臨んでいることは容易に想像できます。

このメキシカン同士の決戦は、サラテ対サモラ、バレラ対モラレス、バスケス対ラファエル・マルケスのような真の最強を決めるビッグファイトではありません。無理やり仕組んだ試合自体が持つ意味は大きくないのです。しかし、興行規模は過去のどんな偉大な試合も上回ることは確実です。

かつてチャベスSr.はグレグ・ホーゲン戦でアステカスタジアムを13万人の大観衆でフルハウスにしましたが、今回の対決もアステカの巨大な観客席でも一席残らず埋めることが出来たでしょう。T-モバイルアリーナに落ち着いたのは、ラスベガスのカジノマネーにテレビ放映、興行収入を優先してのことです。

大方の予想通りにカネロが勝てば、ゴロフキン戦へ駒を進めることことなりますが、ジュニアが健闘した場合、無傷でリングを降りることは難しいでしょう。そうなると、4ヶ月のスパンしかない9月のゴロフキン戦の雲行きが怪しくなります。

カネロ対ジュニア、このキャッチウェイトのノンタイトル戦の結果はもちろん、試合内容によっては、GBPが描いたミドル級戦線のシナリオを崩す最初のドミノになるかもしれません。

7月8日にはWBO王者のビリー・ジョー・サンダースがアブタンディル・クルティゼと防衛戦を行い、それに先立つ5月20日には村田諒太がアッサン・エンダムとWBA王座を賭けて拳を交えます。

村田にとってエンダムは厳しい相手でしょうが、快勝するようならミドル級の最前線に名乗りをあげることになります。もし日本のファンにとって最高の結果になれば、村田がトップランクの駒ということも重要な意味を持ちますね。極めて近い将来にメガファイトのリングに上がっても不思議ではない状況が出来上がります。

中量級のビッグファイトにアジア人が絡むなんて、パッキャオ以外では考えられなかったというのに。しかも日本人が!来月の有明コロシアムでは、スカッとした最高の五月晴れを是が非でも拝みたいものです!

けっぱれー!村田!