ボクシング界の中心がヘビー級から離れてから幾星霜。

パウンドフォーパウンドも複数階級制覇もマネーvsパックマンも、ヘビー級とは無縁ですが、それらはある意味で詭弁でしかありません。パウンドフォーパウンドはヘビー級に勝てないボクサーの言い訳ですし、無差別級にとって複数階級制覇など必要ありません。メイウエザーとパッキャオは法外な報酬を手にしましたが、二人は大きな商売に成功した優秀なビジネスマンでしかなく、本当の最強を決める舞台は昔も今もヘビー級でしかありえません。

ヘビー級の権威、人気が失墜したというのはアメリカ国内の話ですが、ジャック・デンプシーやジョー・ルイス、モハメド・アリ、ジョージ・フォアマン、マイク・タイソンら世界的なスターを輩出してきたヘビー級の最大市場であるアメリカの没落は、ボクシングがニッチのスポーツに完全に追いやられた象徴でもあります。

来月、4月29日にロンドン・ウェンブリースタジアムで地元のアンソニー・ジョシュアとウラジミール・クリチコが WBAスーパー、IBF、空位のIBOタイトルを懸けて激突します。王者ジョシュアはロンドン五輪金メダルからプロ転向して18戦18KO無敗の27歳。対するクリチコは2015年にタイソン・ヒューリーに王座を明け渡すまで、兄ビタリとともに15年に渡ってヘビー級を実質支配してきたウクライナの誇りです。


【リング誌5月号の特集は「史上最強のヘビー級は誰か?」。ウラジミール・クリチコは非米国人では最高位の16位にランクイン】

大会場に用意された9万席のシートは既に完売、英国BBCでもジョシュアを「伝説の途上」と大々的に特集するなど、注目度の高さを改めて実感させてくれています。

ヘビー級のタレント不足が深刻な状況は変わりませんが、このメガファイトの勝者がアメリカ復権の希望を一身に背負うWBC王者デオンティ・ワイルダー(37戦全勝36KO)と激突するクライマックスは、ヘビー級人気再来を期待させてくれるストーリーです。

現時点では、ウィリアムヒルのオッズでジョシュアが2−1と有利。内訳ではジョシュアの判定勝ちが1.1倍で鉄板。一方、クリチコの判定勝ちも1.2倍ですから、判定にもつれこんだら五分の様相です。KO、ストップ勝ちならジョシュアに大きく傾き、5〜8ラウンドでジョシュアが試合を終わらせるという結果が約13倍で最も低い倍率になっています。

両者の会見は、非常に紳士的で好感が持てましたが、リング誌のインタビューでクリチコはジョシュアについて率直に語っています。「五輪王者でプロ無敗だが、試されていないことが多すぎる。恐れを知らない相手を前にしたら?何度もパンチを浴びても心身が耐えられるのか?倒されても立ち上がって戦う勝負根性があるか?劣勢で試合が進んでも流れを変える引き出しを持ち合わせているか?これら多くの問題に直面したとき、乗り越える能力がないのであれば、彼はもう一人のフランク・ブルーノに過ぎない」。

ブルーノは80〜90年代に活躍して、WBC王者にも就いた英国で爆発的な人気を博したヘビー級。40勝(38KO)5敗の成績を残しましたが、5つの黒星は全てKO負け。相手はジェームズ・スミス、ティム・ウィンザスプーン、タイソン(2敗)、レノックス・ルイスと、文句無しの一流どころではありましたが、この大一番に防御技術の低さと打たれ弱さ、そして精神的な脆さを露呈してことごとく敗北してしまうのです。キャリア最終盤にオリバー・マッコールに判定勝ちして、WBCタイトルをようやく掴んだものの、次戦でタイソンにあっさり敗れて引退。

ブルーノもまた、ボーンクラッシャー(骨まで砕く強烈なパンチを持つ)の異名を持つスミスに試されるまで、無敵の強さを魅せ続けていました。

「ブルーノとはアマチュアとしてのバックボーンが違う(技術の裏付けがしっかりしている)」「ブルーノのように過剰にちやほやされていない」と英国メディアはジョシュアに援護射撃を送っていますが、全ての答えは4月29日のリングの上で明らかになります。