マニー・パッキャオが8階級制覇したスパンは108ポンド(50.80kg)から154ポンド(69.85kg)までの46ポンド(19.05kg)。現在の17階級の47%を占めます。

これに匹敵する、あるいは凌駕するボクサーは、長いボクシングの歴史を紐解いても存在しないのか?少なくともパッキャオが誰も寄せ付けない複数階級制覇王者とは言い切れません。

【しかしマルガリートとの体格差はやばかったですね】

最初のライバルは偉大すぎる先駆者、ヘンリー・アームストロング。1930年代を席巻した伝説です。8階級時代にフェザー、ライト、ウエルターの3階級を制覇、ミドル級にも挑戦、優位に試合を進めながらも4階級制覇は失敗。現在、増設された水増し階級のジュニアフェザー、ジュニアライト、ジュニアウエルター、ジュニアミドルを加えると7階級制覇になりますが、そんなイフよりもアームストログの3階級制覇は1団体8階級時代に成し遂げられたもので、暫定王者や決定戦王者など不純物無しの正真正銘の3階級制覇です。

アームストロングの逸話としてはわずか10ヶ月でフェザー、ウエルター、ライトの順に3階級制覇、そのタイトルを同時に保持していたことです。8階級時代に3階級同時保持ですからチャンピオンマップの8つの欄の内3つまでもにアームストロングの名前が刻まれたいたわけです。

そして、フェザーからいきなりウエルター級に挑んだ時はさすがに体重が下限に届かず大量の水を飲んで体重計に乗ったと言いますから、まさにパッキャオの大先輩ですね。そして、アームストロングがウエルター級王座を19度も防衛した点は、階級渡り鳥のパッキャオのレガシーで欠落しているところです。「内容」ではどう考えてもアームストロングに分がありますね。

続いて、ジェームズ・トニーさん。MMAに挑戦したり晩節を汚しまくった自由人です。「才能だけならトニーに勝るボクサーはいない」とパッキャオやタイソンも教えたローチが断言する天賦の人です。

ミドル級160ポンド(72.57kg)からヘビー級200ポンド(90.72kg)の40ポンド(28.17kg)に渡って世界トップレベルのパフォーマンスを見せました。ロイ・ジョーンズJrのヘビー級制覇が「空き巣泥棒」と揶揄され、それに反論できない鈍重な相手から勝利した「ひったくり」の1試合だけだったことを考えると、イベンダー・ホリフィールドをKOした星を始め、ハシム・ラクマン、サミュエル・ピーターらと拳を交えたトニーさんの功績はもっと評価してあげていいと思いますね。

ヘビー級を90.72kgで定義するのはナンセンスですから、トニーさんは実際には40ポンドどころではない体重の大航海をやってのけたことになります。リングに上がった最も重いウエイトは237ポンド(107.5kg)ですから、体重計の目盛りの振幅はパッキャオの比ではありません。

人間が決めた「階級」「王座」ではなく、「世界トップレベルで戦った体重の幅」で考えると、パッキャオはトニーさんの軍門に下ります。

「世界王者」としての体重の幅という観点から見ると当然、パッキャオが最大の振幅を見せつけます。しかし、パックマンが制した最も重い階級はジュニアミドルですがその試合は150ポンドのキャッチウエイトで行われ、なおかつリングには144ポンド1/2で上がっているのです。

ウエルター級を侵略したミゲール・コット戦(これも145ポンドのキャッチウエイト)は144ポンド、直近のジェシー・バルガス戦でも144ポンド3/4とパッキャオはジュニアミドルのリミットはおろか、ウエルター級ですら明らかに適正階級ではないことがよくわかります。

リミットを1kg前後も下回った体重でリングに上がっているというのは、ボクシングの常識では考えられません。パッキャオの適正階級はライト〜ジュニアウエルター級か、あるいは最もスピードとパワーのバランスが高い次元で結晶するのはジュニアライト級なのかもしれません。その適正階級でのベースがとにかく図抜けて高いから、はるかに上、最もレベルの高いウエルター級でも十二分に通用するパフォーマンスが披露できるわけです。

自分の体格・体重とはお構いなしに、最もカネと名誉が稼げる階級を求めて、より大きな看板をぶら下げたビッグネームの体臭を嗅ぎつけて、アジアの猛獣が辿りついたのが、ヘンリー・アームストロングやシュガー・レイ・ロビンソンから、レナード、ハーンズ、デュラン、フェリックス・トリニダードの系譜に連なる、デラホーヤやコット、メイウエザーが住んでいるウエルター級だったのです。

そういう意味ではパッキャオのジュニアライト級以降の階級制覇は、ロマゴンに代表されるような「この階級で体重を作ることはもう難しい」という肉体的な要因は全く無く、露骨に剥き出した「カネと名誉」への欲望に身を任せて拳を振り回し、突っ走った結果でした。

カネと名誉に目が眩んでいた頃のパッキャオは本当にエキサイティングなファイターでした。

しかし、あれほど飢えた猛獣でもカネと名誉を全て手に入れてしまったら、やはしパートタイムの番犬みたいになってしまうんですね。パックマンの貯金通帳には改めて桁を数えなければ、一目でいくらかわからない金額が記帳されていることでしょう。羨ましい限りですが、彼はもう一つ、貯金通帳を持っています。

もう彼の試合にギラギラの欲望の炎が燃え盛ることは期待出来ないということを十分にわかっていながら「まだヤツには猛獣の血が流れているはずだ」と多くのファンがやっぱり期待してしまいます。それこそが、彼がこの15年間大暴れするたびに貯め込んで来た目には見えない貯金通帳です。

この通帳残高がゼロになるまでパッキャオは戦い続けるつもりかもしれませんが、個人的にはもう十分です。ハイエナに莫大な貯金を食い尽くされる前に、何より健康な体のまま引退して、本物の貯金通帳をしっかり管理しながら母国を幸せにするために働いて下さい。