W杯1000試合目の節目に、サムライブルーがチュニジアを粉砕したスタジアム、エスタディオBBVAがあるヌエボ・レオン州の州都モンテレイは、メキシコ屈指の工業都市で、治安は良好だ。

米国との国境が近く外資系企業も進出、世帯年収はメキシコ平均の2倍と非常に裕福な地域とされている。

ーーー良好な治安…確かに凶悪犯罪の発生率はメキシコの平均値を大きく下回るが、麻薬カルテルが血で血を洗う凄惨な抗争を繰り広げているメキシコがいくつも抱える宿痾のような犯罪都市の一つである事実を忘れてはならない。

メキシコは、メキシコだ。

抗争は巨大刑務所の中でまで勃発、看守と内通していたマフィアが対立グループの44人を虐殺、脱走した衝撃的な事件の舞台となったのもモンテレイだ。

裕福な都市…国際空港から幹線道路を走って美しい市中心部まで、整備された近代的な街並みが続く。ラテンアメリカで最も高い超高層ビルとなる、地上100階に展望台が設けられる予定のトーレ・ライズの建設現場を見れば、モンテレイが世界屈指の近代都市であることがよくわかるだろう。

しかし、W杯で初めてこの都市を訪れた外国人はモンテレイの裏側を見ることは出来ない。空港から市街地を目指す幹線道路の両脇には不自然に高い仮設の防音壁が続く。州政府の「W杯で急激に増える交通量を見越した騒音対策」というのはなるほど絶妙な言い回しだが、この奇妙な壁は外国人にこの壁の向こう側に横たわるスラムを見せたくないがための目隠しというのが真実だ。

メキシコはメキシコだ。

モンテレイの渾名はLa Ciudad de las Montañas(山々の都市)、山の裾野には低所得者層の粗末な住宅群が張り付いているが、高層ホテルの窓からは生殖する菌糸のように小さく見えるだけだ。

スラムに暮らす人々は、すぐそこのエスタディオBBVAで開催されているW杯の対戦カードすら知らない。最低価格でも月収を遥かに超えるチケット料金の試合など、興味がないのは当たり前だ。

メキシコの貧民街と最も密接なスポーツはプロボクシング、柴田国明からWBCフェザー級タイトルを奪ったクレメンテ・サンチェス、井上尚弥が対戦オファーを断ったエマヌエル・ナバレッテ、井岡一翔や中谷潤人と戦ったフランシスコ・ロドリゲスJr.…彼らも La Ciudad de las Montañasの山裾からやって来た。



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The Show Must Go On


サッカーW杯はヨーロッパが作った枠組みの、オリンピックを凌駕する人類最大のイベントだが、それは全人類のためのイベントではない。

日本では国をあげて盛り上がる、W杯。私たちにとって、幹線道路の防音壁の向こう側に何があるのかを覗いてみたり、美しい山裾に群生する住宅群を近くまで行って見る必要などはない。

どうすることも出来ないし、どうにかするのは私たちの仕事じゃない。こんなことは、世界では日常茶飯事だ。

それを知っておくこと、薄目を開けて見ることは、私たちにとってやはり必要なことではないが、出来ることではあるだろう。

The Show Must Go On なんだ。