デニス・ホッパー。

ジョニー・タピア。

ポール・スパダフォーラ。

中島らも。

井川意高。

清原和博。

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…彼らは特別な人間だから、依存症になったのではない。






この世界には人間の脳の芯を喰うようなまやかしが間違いなく存在する。

クスリであったり、アルコールであったり、ギャンブルであったり。

そこに引き込まれると、人生の最後の日まで大切にすると信じていたもの、家族や親友や、大好きな趣味、仕事を後回しにしてでもその底なし沼にハマり込んでしまう。

どんな人間でも中毒に侵され、依存症に取り憑かれる。

どんな人間でも、だ。

そうであるなら、それは外からやって来るのではなく、元々、人間の体内や脳ミソの中に内包されている器官のようなもので、そいつが静かにキッカケを待っているだけなのかもしれない。

たまたま何か刺激を受けて、そいつが目を覚ます。







尊敬する義理の兄がいた。大きな人だった。

人望のあるヤツは大嫌いだ、自分にはそれが欠落しているから。その人は人望というか、その上の徳のある人だった。

その人を嫌いになることは、自分の嫌な性格を思い知らされるようだった。

阪神淡路が大きく揺れたとき、彼は俺の実家にいた。両親をその大きな体で庇って、倒壊する柱や家具に押しつぶされ。

大怪我を負ったが、両親は無傷だった。

両親は私の前で初めて涙をボロボロこぼして、なんで老人を庇うんだ、あんたに何かあったら娘はどう思うのか、と泣いて怒り狂ったそうだ。

兄さんは神妙な顔で「考える時間もなかったから咄嗟に行動してしまった」と謝った。



お酒の大好きな兄さんには、よく誘われた。

私は1人飲みが好きだし、人徳のある男なんて宿敵に等しい、一緒に酒など飲む気にならなかったが、何度も酒を酌み交わした。

自分の妹ながら、男を見る目の確かさに驚いた。

そんなことを言うと、妹は喜んで笑うと思っていたが「お兄ちゃんと真逆の人探してたら、おったんや」と、さらっと答えた。

浪人して六大学に進学、重厚長大の大企業に勤めていた。

俺とは違って真摯に仕事と向き合いう真面目な人だというのが、話していると良く伝わった。

今、振り返ると、わずか5年程度のお付き合いだった。

兄はアルコール依存症になり、仕事中でも朝から酒を飲むようになり、体調を崩して退職した。

入院前に会った兄は痩せ衰えていたが、全く変わらない雰囲気で、私の「大変かもしれないけど兄さんならアルコール中毒なんて乗り越えられる」と励ますと、「せやな、治ったらまた痛飲しようや」とおどけてみせた。


妹に頼まれて、2人の家に泊まった夜。もちろん、酒は飲まずに食事を済ませて、いろんな話をして寝た。

布団の中で眠れないでいると、妹が襖を開けて泣きながら立っていた。

私は、妹が何も言わなくても何が起きたのかはすぐにわかった。

「大丈夫や」と,妹の頭をくしゃくしゃにかきながら、外に出た。

それにしても、兄さんが外に出ないかと耳をそば立てていたのに、いつどうやって外に出たのだろう。

兄さんは、すぐに見つかった。

近くの公園のベンチで、4リットルペットボトルのサントリーレッドを飲んでいた。

コンビニで売ってるサイズじゃない。どこにあんな大きなものを隠していたのか。

そのとき、私は声をかけることが出来なかった。

暗澹とした気分で帰ると、妹は「あの人はいた?」と聞いてきたが、「あちこち探したけど見当たらなかった。依存症の人は夜中に徘徊することもあるみたいだから、心配することはないかも。朝まで帰らなければ捜索願いを出そう」と適当な嘘をついた。

妹は「そんな習性があるんだ」と弱々しく笑った。

おそらく、妹は全部知っていた。俺ならなんとかできるかもしれないと、それこそ藁にもすがる思いだったのだろう。




明け方に洗面所で兄さんの咳と歯を磨く物音が聞こえてきた。

私が「兄さん、いつ帰ってきたん?」と聞くと、「なんか寝れなくて河川敷をずーっと散歩しててん」と、タオルで口を押さえながら答えたが、赤ら顔で恐ろしく酒臭い息を吐いた。



依存症の人は誰に対しても、平気で嘘をつく。

ほどなくして、兄さんは入院した。入院生活は長くはなく、50過ぎでで人生を終えた。


兄さんを愚か者だとは思わなかった。酒が憎いとも思わなかった。

それでも、酒販店でペットボトルのサントリーレッドを見ると、胸がざわつく。

焼き場の人が「少量なら」と許してくれて、レッドを兄さんの唇に垂らした。

美味しそうに飲んでるような気がした。

妹の顔を見ると、すっきりしたように微笑んでいた。


葬式には、退職してから何年も経つのに勤務していた会社の人が50人近くも駆けつけた。

泣いてる人もいっぱいいた。

ああ、あんな死に方をしたというのに、兄さんは俺が思ってた通りの人だったんだなと改めて思った。

依存症というのは、その名の通りに病気だ。

酒やドラッグやギャンブルが全てに優先してしまう。

人生を楽しむちょっとしたスパイスなのに、それを貪るだけの人生になってしまう。