中学時代の野球部にどうしようもないアホがいました。

プロ野球選手を目指していた私にアホが囁くのです。補欠のくせに。

「身長175センチもないお前がプロ野球選手なんて、絶対ムリやから」と。

そして、ヤツは言うのです。

「俺と一緒に組まへんか?」と。

何を組むのか、というと漫才のコンビです。

お笑いになんの素養も知識もないアホのくせに、関西ではいくらでもやってるテレビのお笑い番組が好きなだけのくせに、あまりのアホさに、教師たちから「アホは吉本行け」とバカにされていたのですが、バカにされてるのをわからないアホは自分にお笑いの才能があると思い込んでしまっていたのです、バカだから。

私は何度か声をかけてくれていた希望校から正式な(スポーツ推薦にもいろんなカーストがあるんよ)スポーツ推薦を受けることが出来ず、「一般入試でエリートを見返せ」と周囲から励まされても、もうプロ野球選手の夢が打ち砕かれたと落ち込んでました。

そんな私に、アホは「な?な?報徳も東海大姫路もアカンかったんやろ?もう俺らには吉本しかないんやて」と、嬉しそうにバカなことをアホみたいに誘ってくるのでした。

幸いなことに、高校はアホと離れ離れに。

たまに連絡を取り合っていたアホに誘われて、なんば花月に行ったのは、大学に入ってからの頃だったはずです。

帰省していたタイミングでアホからまた「俺と組まへんか?」と、アホがまたバカな誘いを繰り返すのです。

二人の漫才を目の当たりにしたのは、そのときでした。

まだ2丁目劇場はなかったはずです。いわゆる〝ダウンタウン前夜〟。


結構な衝撃を受けました。いや、かなりの衝撃を受けました。

私はお笑いには好きでも、何をみても笑うことはない、「すげーな」とか「キツイな」とか、そんなふうにしか見れません。そのときも、笑ってはいなかったはずです。

「すげーな」をはるかに通り越した「なんじゃ、あれは?」でした。

私とは逆にお笑いを見てしっかり反応する、つまり大笑いするアホは、ずっと黙ってスタンドマイクを挟んでやり取りする二人をじっと見つめていました。

漫才が終わると、アホがポツリと呟きました。

「やめとこか」。

それがどういう意味か、すぐ分かりましたが、少し考えてから、私は「お前、アホちゃうかったんや」とだけ、答えました。

アホと言われると、いつも鬱陶しくからんでくるアホなのに、そのときは黙ったままでした。



ワイドショーのネタをここで取り上げるつもりはありませんが…。

私はすぐに東京に戻りましたが、あの漫才師が東京を席巻するのは、もう少し後のことになります。