米国ボクシングの没落、その象徴でもある92歳の老人が率いるトップランクの低迷。そして、米国市場でも確固たる地位を固めつつある44歳のエディー・ハーンが指揮するマッチルーム。

二つのプロモーターの勢いは明らかで、この興行が「トップランクのプライド」と語っていたアラムの言葉を、私はまともに受けとめていませんでした。

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あの試合。

結局はアルツール・ベテルビエフとスミスの実力差が多くの人の予想を超えて大きかったということで、結果は変わらなかったかもしれませんが、92歳の怪老はAサイドの〝仕込み〟を忘れていませんでした。

カネロ戦から多くを学んだカラム・スミスと、新たにトレーナーに雇ったバディ・マクガートのコンビはライトヘビー級を順調にクルーズ、ベテルビエフ戦に向けて周到に戦略を練りあげました。

スミスの長いリーチを生かした速い左リードで試合をコントロールする。その戦略が38歳のロシア人に難題を突き付けると考えたのは、間違いではありませんでした。間違っていたというのは結果論で、ジャブで戦えないならそもそも勝機がない、ということですから。

しかし、それはベテルビエフ、というよりもトレーナーのマルク・ラムゼイをヘッドにしたセコンド陣もよくわかっていたこと。

ベテルビエフへの指示は「オープニングラウンドからプレッシャーをかけてパワーの違いを思い知らせろ」ということ。

そして〝仕込み〟はリングの広さとロープの緩み、カンバスの硬さ。

狭いリングと、キツく張ったロープ、柔らかいカンバス。それらがなくてもスミスに勝機はなかったかもしれませんが、リングチェックでスミス陣営と報道陣がざわついたのも無理はありません。

リングの大きさはテレビでも会場でもなかなか気づくことが出来ません。実際、モニター越しとはいえ、私は今日の試合でも「狭い」とは一度も感じませんでした。

ちなみにリングのサイズに明確な国際ルールはありません。そもそも、世界的な統括団体がないプロボクシングですから当たり前です。

ただし、暗黙の了承的ルールはあります。それは一辺18フィート(約5.47m)から24フィート(約7.3m)。重量級が事実上存在しない日本では18フィートの最小版が一般的です。

そして。

今朝(日本時間)のケベックシティー、ビデオトロンセンターのリングのサイズは…なんと18フィート四方!まさかの後楽園ホールと同じだったのです。

スミス陣営も24フィートを用意してくれるなんて期待もしていなかったでしょうし、最悪の18フィートや強く張ったロープ、柔らかいカンバスを想定して練習を積んでいたはずですから、言い訳にはなりません。

AサイドがBサイドに突き付けるのは、キャッチウェイトやリバウンド制限だけではありません。
離、アウトラ
そういうことです。

プロボクシングとは、Aサイドが芝のコートが得意なら、全豪や全米のサーフェイスも芝に張り替える、そんな非常識が常識の世界なのです。

スポーツとしては完全に失格です。世界的な統括団体が存在しない時点で〝世界チャンピオン〟など本当は存在しないのですから。

しかし、それでも、やっぱり、どうしても、何がなんでも、たまらなく、抑え切れるわけもなく、私はプロボクシングが大好きです。

Bサイドの絶体絶命、完全絶望の淵からでも大番狂せを起こして、つまり〝奴らの台本〟を破り捨てまくってスターダムの頂点に駆け上がる、球遊びなど他のスポーツでは巡り会えないモハメド・アリやマニー・パッキャオのような奇跡と巡り会えるかもしれないからです。