Golden Disillusionment〜黄金の幻滅。

なぜ、五輪金メダリストがプロのリングで輝きを失うのか?

それには、以下の3つの可能性が考えられます。

①採点基準…アマチュアでは「クリーンヒット>>>ダメージングブロー」ですが、プロでは真逆になります。また、3ラウンドと(世界戦なら)12ラウンドの差は、たとえ採点基準が同じだったとしても、アマとプロは別競技の様相を呈していたでしょう。

②年齢…世界大会や五輪での実績を追求する時間の中で、加齢は避けられません。年齢を重ねれば重ねるほど、身体能力や技術に劣化が進むリスクが大きくなります。また、長い時間で習得したアマスタイルを修正するのに、加齢は大きな問題を引き起こします。

③モチベーション…これが最も大きいかもしれません。特に途上国において、五輪金メダリストは国民的英雄。貧困からの脱出を渇望して母国に金メダルをもたらしたファイターにとって、プロへのモチベーションは下がるはず。同じ金メダルでも、世界選手権と五輪では重みが全く違います。

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金メダルを獲得するまでにアマチュアスタイルに適応したファイターが、①の悩みを抱えていないわけがありません。

メルドリック・テイラーや金光善が、あと一歩に迫りながらフリオ・セサール・チャベスとウンベルト・ゴンサレスのプロ仕込みの強打に屈したのは、まさにその象徴的な光景でした。

ラウンドが深まるにつれて集中力が落ちるラミレスらの症状は、もしかしたらプロの長丁場への戸惑いなのかもしれません。

アマチュアスタイルを微調整してプロでも素晴らしい戦果を挙げたパーネル・ウイテカやアンドレ・ウォードのような例もありますが、人気階級で最強を証明した彼らがプロとして「成功」したのかとなると多くのファンは否定するしかありません。


②については、プロ転向は最近だとロベイシ・ラミレスとワシル・ロマチェンコが25歳、ギレルモ・リゴンドーが28歳。

彼らは2大会連続金メダリストだから年齢を重ねた、というわけではありません。誰にとっても、金メダリストの道は長く険しいものですが、彼らは〝近道〟で進めるほど稀有な才能だったのです。


③では、オスカー・デラホーヤがプロアマを通じて最高の瞬間を聞かれて「五輪で金メダルを獲ったとき」と答えているように、国家の代表として4年に一度の五輪で、世界に一つしかない金メダルを獲得するのは、特にボクシングにおいて特別です。

日本の村田諒太もプロ転向に逡巡したのも、デラホーヤと同じ「一番上のものを獲った」という感慨があったからでしょう。

そして、全競技を通じて史上初の金メダルを母国にもたらしたタイのソムラック・カムシンのように、貧困からの脱出を渇望した若者が、莫大な富と眩い栄光を手にしたとき、国家は「神」として歓迎し、プロでカネや栄光を稼ぐ必要が全く無いというケースもあります。


ロベイシ・ラミレスがデビュー戦で躓き、そこから十分学習したとは思えない内容で2度目の失態を演じたのは、①②③全ての要素が絡んでいるでしょう。


話は脇道に逸れますが、現在8階級(フライ/フェザー/ライト/ウェルター/ミドル/ライトヘビー/ヘビー/スーパーヘビー)のアマチュアボクシングは東京大会からライトフライとバンタム、ライトウェエルターを廃止。ライトミドル級はアテネ2004から廃止されています。

桜井孝雄と清水聡(清水は銅)が活躍、ラミレスやリゴンドーも金色に輝いたバンタム級、シュガー・レイ・レナードのライトウェルター級、ロイ・ジョーンズが涙を飲んだライトミドル級。思い出のクラスがなくなることに、一抹の寂しさは拭えません。

廃止の理由はたった一つ。チャンピオンの権威を考えると、多すぎる階級はボクシングにとって害悪以外の何物でもないからです。

それが正解です。