BEATING NAOYA INOUE IN JAPAN IS KEY TO RESPECT IN AMERICA

米国におけるボクシングは完全マイナースポーツ。

そのボクシングの中でも軽量級となると…ファンの間でも注目を集めることは、まずありません。。

世界王者になる前も、またなってからも、スティーブン・フルトンは、軽量級では常識の日陰の道を歩いて来ました。

そして、陽の当たる瞬間は一度も訪れることなく引退の日を迎えるであろうことも「覚悟」していました。

いや…。「覚悟」…そんな大袈裟で特別なものではありません。フルトンら軽量級選手にとってはそれが当たり前の日常だったのですから。

軽量級である限り、注目と尊敬を集めることなどない…そう「諦観」していたという方が近いかもしれません。

2021年1月、アンジェロ・レオに完勝してWBOのストラップを掴み取った夜もそうでした。

There was no applause. No fanfare. Nothing but the sound of their feet.

ロッカールームに帰る彼らには、拍手も勝利への賞賛も何も聞こえてこなかった。ただ、彼らの足音だけが響いていた。(2月8日リング誌電子版)


グローブなど荷物を担いでトボトボ歩くトレーナー、ワヒド・ラヒムを振り返ると、フルトンはポツリと小さな声でつぶやきました。

 “You know I’m going to have to go to Japan to fight (Naoya) Inoue. That’s my path to become a superstar.”

日本に呼ばれて井上尚弥を倒すしかない。それしか、スターになる道はない。


2年前のことです。

初めて世界王者になって、花道をロッカールームに引き返すとき、そんなの普通ならお祭り騒ぎです。

それなのに、自分たちの足音しか聞こえないようなシラけきった会場を見渡して、フルトンは考えたのです。

もしかしたら、ここから脱出する方法があるんじゃないかと。

「トレーナーに、井上に勝つしかないと言ったのはよく覚えているさ。井上が日本の大きな会場を満杯にして、百万ドルファイターだってことを知っていたからね。米国じゃ考えられないことが、日本では起きるんだ」。


2年前、井上と対戦するなど雲をつかむような話でしたが、昨年暮れからとんとん拍子で話がまとまろうとしています。

もう、ボクシング人生を「諦観」する必要はありません。

「勝てば米国でも注目されるはずだ」(フルトン)。

ESPNはトップページで「トーキョーでフィラデルフィアの無名ボクサーが大番狂せ」と報じてくれるかもしれません。

CNNニュースでも「ジャパニーズドリーマー」と取り上げられるかもしれません。

28歳の黒人ボクサーキャリアは「諦観」する必要はなくなりました。

絶対に差し込まないはずの陽が、当たったのです。

しかし、これで終わりではありません。軽量級ボクサーとしては破格の大金を手にしても、負ければ何も変わりません。

フルトンは「覚悟」を決めているはずです。

2年前の夜、彼は「大金を稼ぐには井上とやるしかない」とは、一言も口にしていません。

「スターになるため」「米国で尊敬されるため」には「井上に勝つしかない」と語ったのです。

そう覚悟したのです。

オッズは1-3で、井上にしては接近した数字ですが、フルトンにとってはキャリア初のアンダードッグ。

そして、専門家予想はもっと辛辣です。ボクシングマニアの中には「黒い肌のポール・バトラーになるだけ」と諦めきったコメントも散見されます。

ただ、フルトンと家族、チーム・フルトンは「諦観」などしていません。

We’ve been treated unfairly by the boxing community, the media,

「米国で、私たち(軽量級)は冷遇され続けて来た。小さいからだ。しかし、井上も小さいが日本では尊敬されている」。


「日本に行くのが怖くないかって?まさか!ずっと行きたかったんだ。夢が叶おうとしているんだから!」。

そう、夢は叶おうとしているだけです。まだ、夢は完結していません。

勝つしか、ないのです。勝って、夢は完結するのです。

フルハウスのさいたまスーパーアリーナ。大番狂せに悲鳴が飛び交い、騒然とする会場。

リングを降りてロッカールームに向かって歩くフルトンは、あの夜のように振り返ってラヒムに話しかけるかもしれません。

「おい!!すごい歓声だ!俺たちの足音が聞こえないぞ!!!」

ラヒムは聞き返すはずです。

「スティーブン!何を言ってるのか聞こえない!!!もっと大きな声でしゃべれ!!!!」。




…フルトンが井上に勝てるとは思えません。

しかし、チームフルトンは軽量級に諦観せずに、覚悟を決めて日本に乗り込んでくるのです。

「井上を倒すことが米国で尊敬されることにつながるはずだ」。そう信じて。

2年前から井上に勝てば人生が変わると、覚悟を決めていた男が、自らの尊厳のために日本に乗り込んでくるのです。



スティーブン・フルトン、上等です。