あと28日に迫ったバンタム級のUndisputed Championship〜完全統一王者決定戦 。

1988年のWBO設立によって幕開けしてしまった4団体時代でUndisputed Championship=完全統一王者になったのは、34年の歴史の中で9人だけ。

その8人のグレートをおさらいすると、以下のとおりです。

【1人目】2004年9月18日=バーナード・ホプキンス(オスカー・デラホーヤ)

【2人目】2005年7月3日=ジャーメイン・テイラー(バーナード・ホプキンス)

【3人目】2017年8月19日=テレンス・クロフォード(ジュリアス・インドンゴ)

【4人目】2018年7月21日=オレクサンダー・ウシク(ムラト・ガシエフ)

【5人目】2021年5月22日=ジョシュ・テイラー(ホセ・カルロス・ラミレス)

【6人目】2021年11月6日=カネロ・アルバレス(ケイレブ・プラント)

【7人目】2022年5月14日=ジャーメル・チャーロ(ブライアン・カスターノ)

【8人目】2022年6月5日=デビン・ヘイニー(ジョージ・カンボソスJr.)

【9人目】2022年12月13日=井上尚弥(ポール・バトラー)


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先週4日の日経新聞夕刊に取り上げられた井上尚弥と父・慎吾の〝父子鷹〟の物語。

4つの承認団体はWBAと、WBAから分離した3団体という出自を持ち、収益のほぼ全てを承認料収入に依存する、ライバル企業どうしです。

「世界王者がたくさん存在することを大前提としたビジネス」なのです。

そんな営利団体にとって、王者の数が減ることは承認料ビジネスの存続に関わる一大事です。統一戦を認めることは、彼らの存続を脅かす自殺行為です。

ましてや、世界王者がたった1人になってしまう4団体統一戦など、承認団体にとっては悪夢以外の何物でもありません。

4団体時代になってから、2004-2005年ホプキンス〜ジャーメイン以来、12年間も誕生していなかった4団体統一王者=Undisputed Championがわずか7年の間に井上尚弥もカウントして7人、今年だけで3人も輩出されているのは何故なのでしょうか?

明らかに潮目が変わったのは、たまたまの偶然ではありません。

かつての承認団体は、他団体王者との統一戦に乗り出すとタイトルを剥奪するのが相場でした。

しかし、ここ数年の承認団体は〝とりあえずの〟統一戦は歓迎しているようにすら見えます。

承認料は一律同額ではなく、興行規模・ファイトマネーに比例する〝累進課税〟的性格を有しています。

つまり、カネロとカシメロでは名前はちょっと似ていますが、同じ世界戦でも承認料は何百倍、何千倍も違うのです。

団体統一戦となると興行規模、ファイトマネーも膨らみますから、その「1試合限定」なら承認団体は大歓迎です。

問題は「その後」です。統一王者はスター選手であることが多く、試合は年に2試合。承認料を取る機会は激減します。

しかし、9人のUndisputed Championで王座が引き継がれたのはホプキンスからジャーメインの1例だけ。長期防衛した王者もいません。

安易な複数階級制覇が横行する4団体17階級時代は、ゲンナジー・ゴロフキンのような長期政権を築く王者はレアです。

さらに、完全統一王者が誕生しても、指名挑戦者は〝完全統一〟されないという大きな矛盾があります。

ゴロフキンのような同一階級に居座る統一王者への対抗措置として、承認団体は「指名挑戦試合を受け入れない」という大義名分で王座を剥奪することが出来ます。

承認団体にとって、団体統一戦は承認料獲得の機会喪失につながるのではなく「大興行で承認料を稼ぎ、統一王座はスクラップ&ビルドを繰り返して承認料獲得機会も増える」という、新しいビジネスモデルになりつつあるのです。

井上も「(完全統一したあと)バンタム級でもう1試合するかも」と含みを残してますが、「やって1試合」です。承認団体としては大歓迎です。タイトルの〝焼畑農業〟です。

メガファイトが約束されているカネロならUndisputed Championでも美味しいかもしれませんし、下手に剥奪してカネロ様のご機嫌を損ねるようなことがあると一大事です。マウリシオ・スライマンが〝土下座〟したようなボクシング版カノッサの屈辱は、どの団体にとっても避けなければなりません。

さて、すでに【9人目】のUndisputed Champion、その予約が入っている井上です。

12月13日のUndisputed Championshipには、これまでの8例とは大きな違いがあります。

▶︎第一に「バンタム級」という、欧米目線では超軽量級であること。

承認団体にとって超軽量級は、興行規模・ファイトマネーが人気階級と比べると何百分の1、何千分の1しかないことも当たり前な小さなビジネスです。

統一戦は日本人など、軽量級としては破格のファイトマネーが用意されるケースにとどめたいというのが本音でしょう。

井上vsバトラーは、承認団体にとって最高のカードです。井上は軽量級ではありえない100万ドルファイターで、バトラーはカシメロとの競争入札で約10万ドル、バトラーは約2万5000ドルという、カネロに贈られるWBCの特製ベルトのベルト半分も買えない報酬でした。

井上の場合は、実際に承認料がかかるファイトマネーがいくらかは不明です。つまり、スポンサー収入などの名目で、最終的に4億円、承認料にかかる部分は1億円とかではないでしょうか。

この辺りの数字も、やはり承認料を徴収するJBCが米国のように、詳細公表してくれると良いのですが…無理ですね。まだまだ、そこまでの組織じゃありません。


▶︎そして、次に過去の8例と大きく違う点は試合予想が一方的であることです。

その8例では「カネロvsプラント」を除いて絶望的なオッズや予想はありませんでした。「カネロvsプラント」でも、カネロが1/10(1.1倍)、プラント7/1(8倍)。

ところが、井上vsバトラーは1/33(1.03倍)、バトラー10/1(11倍)。

もちろん、バンタム級のレベルが落ちている、その象徴のようなバトラーが、PFPファイターの井上に挑むのですから、10-1という〝咬ませ〟犬水準のオッズでも英国人に好意的に映ります。

4団体17階級時代、レベルの落ちているバンタム級といっても、井上はリング誌と3つのベルトを束ねて最後の一つがWBOのバトラーだったという巡り合わせです。

Undisputed championshipで10−1なんて掛け率は、なかなかお目にかかれません。しかも「バトラーに10に1つの可能性があるか?」というのが、多くの人の実感でしょう。

3ポンド以上も体重オーバーして「英連邦のコミッションでは急激にリミットまで落とすのは危険だからこれ以上の減量はする必要がない。エマヌエル・ロドリゲスが受け入れたら、明日はリングに上がる」と笑っていたバトラーを、この試合で引退するくらいの破壊劇で屠っていただきたい。