世界的な統括団体が存在しないプロボクシングでは、選手評価は成績やタイトルではなく「誰に勝ったのか?」に集約されます。


「日本史上最高のボクサーは誰?」という問いかけに、世界評価はファイティング原田一択にもかかわらず、国内では「無敵の3階級制覇」井上尚弥や「史上最多4階級制覇」井岡一翔、「連続13回防衛」具志堅用高、「バンタム10連続防衛・3階級制覇・王者のまま引退」長谷川穂積…原田はベスト3にも入らないかもしれません。

そのギャップの最大の理由は、原田が活躍した時代から60年近くの長い歳月が流れて、当時の記憶が希釈化されていることよりも、「誰に勝ったのか?」という評価基準から離れてしまっていることです。

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2019年、2度の単独カバーを含めて3度もリング誌の表紙を飾った井上は、その年11月にWBSS優勝を飾り、さらなる活躍を見せたにもかかわらず、4度目の登場はないままリング誌は廃刊…。

井上や井岡らの「最高の理由」は、いずれも「誰に勝ったのか?」とは関係がありません。

「現代の日本人最高 」という問いかけでは、井上が圧倒的支持を集めると思われますが「誰に勝ったか?」という視点で井岡と比較すると、実は極めて微妙です。

井上も井岡も「旬の強豪・勢いのあるホープ(これもかなり曖昧な基準です)」と戦い快勝していますが、「旬の未来の殿堂選手」はもちろん、「現役PFPファイター」でも一人もいません。 

もしかしたら、エマヌエル・ロドリゲスやフェリックス・アルバラード、田中恒成が殿堂入りするかもしれませんが…。

ロドやアルバは冗談にしても、恒成は怪しいですねぇ。その意味でここは井岡が一歩リードか?

「プライムタイムを過ぎた未来の殿堂選手」なら、ノニト・ドネア。

ドニー・ニエテスも可能性ありですが、井岡は1勝1敗。ドネアに明白に連勝、再戦では見事粉砕している井上に軍配です。

井上の評価の高さの源泉は〝ここ〟です。英国ボクシングニューズ誌は長谷川を「バンタムのタイソン」と呼び、井上も「ミニタイソン」と表現しましたが、まさにその通り。対戦相手の質を忘れさせるタイソン的な鮮烈な勝ち方が特徴です。

長谷川はもちろん、タイソンの後世での世界評価がどうなったかは言わずもがな、です。

「未来のPFPファイター」という点では井岡の対戦相手にはアムナット・ルエンロンとドニー・ニエテスがいますがいずれも敗北。二人とも「井岡に勝ってPFP入り」という背景はあるにせよ、負けてたら意味がありません。ここでも、恒成が不気味です。

返す返すも、あの勝利は「戦うメリットがない」(井岡)なんて試合どころか、井岡のキャリア最高の勝利と言い切っても差し支えないでしょう。

そして井上は「未来のPFPファイター」もゼロ。

さらにハードルを「過去のPFPファイター」まで引き下げると、井上はドネア、井岡はニエテス(再戦時)。

これ以上ハードルを下げると訳が分からなくなりますが、井上のオマール・ナルバエス(当時39歳)の〝老人殺し〟と、井岡のキービン・ララ&ハビエル・シントロンの〝過大評価のホープ潰し〟も挙げておきます。

辛辣な表現になってしまいましたが、井上はドネアも含めて〝ベテラン・デストロイヤー〟、井岡は恒成も入れて〝若手ピッカー〟の性格が見えてきます。

突き止めてしまうと、井上が勝った最高の相手は「39歳のドネア(再戦)」であり、井岡は「恒成」ということです。これは、誰も異論がないでしょう。

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「誰に勝ったのか?」が、すぐに思い浮かぶのは悪いことではありませんが、良いことでもありません。この問いかけをパッキャオに当てはめると、喧々諤々になるでしょう。

タレントが少ない、欧米の関心が低い軽量級では、ただでさえ難題の「誰に勝ったのか?」のテーマはさらに厳しいハードルになるのは当然です。

パッキャオはわずか3年余りで3人の「未来の一発殿堂」「現役PFPファイター」を相手に延べ6試合を戦い4勝1敗1分をマークしましたが、あれは軽量級なのになぜか超ビッグネームが3人も雁首そろえて待っててくれたという幸運でしかありません。

そして、軽量級とはいえ、そのパッキャオのパフォーマンスですらフェザー級〜ジュニアライト級にかけて演じられたということも見逃せません。

井上が「(MGMグランドガーデンアリーナでメインを張る夢を叶えるには)最低でもフェザー」と語ったのは、あながち間違いではありません。

しかし、それは「ありえないレベルのビッグネームがなぜかフェザー級なんかにいる」という超がいくるも付く幸運が絶対条件です。

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スポーツイラストレイテッド(SI)誌に特集されたファイティング原田。電子版のSIでもいいから、井上が取り上げられる日が来るでしょうか?バンタム級を完全統一したら、一般スポーツメディアでも扱われることを期待したいです。


60年前なら事情は違います。

1団体10〜11階級の時代に活躍した原田の時代にPFPランキングがあれば、原田が何人もの現役PFPに勝っていたのは間違いありません。そのうちの一人が1位のエデル・ジョフレです。

目の前にまっすぐ伸びる一本道を突き進んでいけば、必ず栄光がある。勝ち続けていれば必ず頂点にたどり着き、「誰に勝ったの?」なんて言われる筋合いもない時代。

原田もまた、パッキャオ同様に幸運に恵まれたファイターでした。