アントニオ猪木の死去。海外メディアではESPNのMMAコーナーが報じましたが、決して大きな扱いとは言えませんでした。

「世界」というキーワードで猪木が何を仕掛けたかとなると、あのモハメド・アリ戦だけ。

プロレスラーとボクサーの対決では、アンドレ・ザ・ジャイアントvsチャック・ウェプナー(ニューヨーク・シェイスタジアム)も盛り込まれた「格闘技オリンピック」の1試合として米国でもクローズドサーキットで流されますが、興行的には失敗に終わります。



猪木とアリは「異種格闘技(総合格闘技)」と「一般大衆を刺激するショー(エキシビション)」という観点からは、間違いなく現在隆盛しているMMAや茶番劇のルーツでしたが、あまりにも先取りしすぎていました。

米国視点では「格闘技オリンピック」は「単発の余興」、瑣末な「点」で終わってしまいます。

しかし、日本では猪木によって創られたプロレスのスペシャルマッチ「異種格闘技戦」は、「MMAへの導火線」、文字どおり「線」として未来につながっていきました。

「猪木さんがいなかったら、前田日明もタイガーマスクも、リングスも修斗も総合格闘技もK―1もPRIDEも何もなかったよ。全ての始まりですよ」(前田日明)。



日本では、誰もが認める「巨星」。米国では実質無名でしたが「地上の星」でした。

「地上にある星を誰も覚えていない。人は空ばかり見ている」(中島みゆき)。

高い空に輝く星と、地上の星。どっちが好きですか?

私は、足元にある、人々がその輝きに気づいていない星が好きです。



しかし、人が空ばかり見るのも理解できます。

高い空に光り輝く星、その象徴的なアスリートのニュースが、飛び込んできました。

Shohei Ohtani to make $30 million in 2023, record amount for arbitration-eligible player

猪木が亡くなったちょうど24時間後、ロスアンゼルス・エンゼルスが大谷翔平と、3,000万ドルで単年契約を結んだと電撃発表しました。

今季の550万ドルから約5.5倍。

MLB選手の中でもエンドースメント(スポンサー収入)が桁外れに多い大谷の来年の年収が、アスリート世界一になった公算大です。スポンサー収入の契約更新、契約料の引き上げも続々決まっています。

エンドースメントのほとんどが日本企業のため、米国で把握しにくいこと、ドル換算だと円安で萎むことからフォーブス誌のアスリート長者番付で1位になるかどうかはわかりませんが、人々が見上げる空で一番大きな星になろうとしています。

大谷が二刀流で大きな成功を収めた最大の原因は、規格外の才能と根性ではありません。

2017年オフに日本ハムファイターズが、二刀流をプロでも認めたからです。それが全てです。

もし、大谷の希望通りにあの年、即MLBに挑戦していたなら、打者大谷は永遠に封印されていました。

もしかしたら、サイ・ヤング賞を何度も獲っていたかもしれませんが、全米メディアが「ユニコーン」と大騒ぎすることはなかったでしょう。

大谷翔平も、地上の星たちから空に向けて送り出されたのです。




そして、今夜。地上の星たちが育み続けた悲願が、また一つ叶うかもしれません。

第101回凱旋門賞。

今年はフルゲートの20頭が出走します。そのうち〝日の丸〟を付けるのは過去最多の4頭。

ウィリアム・ヒルのオッズで一番人気はルクセンブルクの4.5倍。

横山和生が手綱を取るタイトルホルダーは4番人気の9倍。武豊のドウデュースは21倍。川田将雅のディープボンドは81倍。クリストフ・ルメールのステイフーリッシュは、20頭中最低の101倍ですが、今年は101回、「101」というのは不気味な符号ですねぇ。

そもそも、日本からパリロンシャン競馬場まで馬と騎手が遠路行かねばない〝ハンデキャップマッチ〟。

それでも、世界で注目される、空に輝く星になるためには乗り越えなければならない壁です。日本の軽量級ボクシングとは真逆の構図です。



地上の星と、高い空に輝く星は無関係ではありません。

米欧でUFCのメガファイトに熱狂する、ほとんど全ての人は、アントニオ猪木を知りません。

それで、いいのです。

それにしても、日本では空高くに輝く巨星、世界では地上の星。アントニオ猪木とは、実に面白いグレートでした。



もう一度、聞きたくなりました。

高い空に輝く星と、地上の星。どっちが好きですか?