ノニト・ドネアが敗れたのはロセンド・サンチェス、ギレルモ・リゴンドー 、ニコラス・ウォータース、ジェシー・マグダレノ、カール・フランプトン、そして井上尚弥の6試合。

デビュー2戦目のサンチェス以外の5人は、世界基準のファイターでした。

特に、リゴンドーは当時全階級を通しても屈指のテクニシャンで、予想は五分。当時、ドネアの評価が沸騰していたことを考えると、実際にはリゴンドー有利と見られていたのかもしれません。

ちなみに、リゴンドー は今なおジュニアフェザー級のLineal championです。

ドネアはダウンも奪い健闘しますが、リゴンドーのパンチに眼窩底骨折を負うなど明白な負けでした。

WOWOWで解説した西岡利晃は、試合終了と同時にドネアの勝ちを確信していましたが、内容的には36分間の授業を受けた完敗。ダウンもダメージを与える種類のものではありませんでした。



そして、唯一のKO負けを喫したのが2014年10月18日のニコラス・ウォータース戦。こちらは惨敗でした。

この試合もオッズは拮抗、ドネア危うしの声が多く聞かれました。

ただし、傑出した技術を持つリゴンドー とは違い、ウォータースはフェザー級の強豪という域をでない世界基準で平均点ファイター。実際にはドネア戦がハイライトの、世界戦ではパッとしない過大評価のジャマイカンでした。

ウォータースはワシル・ロマチェンコ戦で、大きなダメージを負っていないにもかかわらず「このままだと倒される」と、自ら棄権、精神的に崩壊してしまいます。現在まで何度かカムバックを試みますが、練習に集中できずにハイテクに弄ばれてから6年の歳月が流れてしまいました。

そんなウォータース相手に不安要素を並べ立てられた挙句に惨敗したドネアは、専門家から「ピークを超えて下り坂」「階級制覇の限界値をさまよっている」と見られていたのです。

2ラウンド収容間際には左フックをヒット、ウォータースをヨロけさせる一瞬も作りましたが、フィジカルで圧倒された上にスピードや技術でも対抗できずに、ドネアは「オーラがあった。スピードも技術も素晴らしかった」と完敗宣言。

この試合、ドネアのパンチはウォータースに「そんなの当たらないよ」と笑われるほど見切られてしまいまい、3ラウンドにアッパーでダウンを喫し、6ラウンドには右フックをテンプルに直撃されて前のめりに沈んでカウントアウト。
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「ライト級までの7階級制覇してPPVスターになる」というフィリピーノ・フラッシュの夢は、ずっと手前のフェザー級で完全消灯してしまいました。

底意地の悪いボブ・アラムが薦め、ウォータースが乗り気満々だった再戦も、ドネアは「私が彼と戦うのは無理」と自ら放棄。

いずれにしても、ドネアは年間最高選手賞に輝いた2012年の表彰式(2013年5月)直前の4月にリゴンドー 、18ヶ月後の2014年10月にウォータースと、短い間に自らの限界を思い知らされる敗北を重ねてしまったのでした。


 


ドネアは精神的な経験値は高いものの、技術的には根本的にAプランでしか戦えないボクサーです。マイク・タイソンのように「下がったら負け」という非常に解りやすいボクサーです。

ウォータース戦ではダウンを奪われてからは完全に怖気付き、バックペダルを踏みながら闇雲にフックを振り回すことしかできませんでした。

下がらずに前に出てあれをやられると経験不足のジャマイカ人も慌てたでしょうが、相手が怖がってるのがわかると落ち着いて対応できます。

Bプランという言葉を知らないドネアは、あの状態に追い込まれると何もできないボクサーです。

しかし、井上との初戦では怖気付くどころか最後の1秒まで希望を捨てずに攻め続けて来ました。

ウォータースには怖気付いても、あのときの井上には「勝てる」という希望の灯火を最後まで消さなかったのです。

フィリピーノ・フラッシュ、その希望の灯火を消し去ることです。

「勝てる」という思いは、アンダードッグにとって勝負根性を燃やす絶好の燃料です。初戦で井上は、ドネアの灯火にその薪やら油やらをどんどん焚べてしまいました。

ドネアはデビューから22年間、Aプランだけで戦ってきたボクサーです。下がったら、ゲームオーバー。

初戦のように前に出すと厄介です。

6月7日の試合は、勝利によって手に入れるものの大きさはドネアの方が遥かに大きい、しかもビッグパンチャー。

その点で井上にとっては最悪にやりにくい相手です。

とにかく、ラウンドを追うごとに灯火が燃え盛るような展開にしてはいけません。ヒトカケラの薪も、一滴の油も与えてはいけません。

ウォータースがやったように「あの人には勝ち目がない」ということを、早い段階で思い知らせて、怖気付けさせ、下がらせることです。