サブローシローや新加勢大周、能年玲奈、SMAPらが私たちに教えてくれたのは芸能界の理不尽な因習です。

この因習は、芸能界にとどまらず、野茂英雄に見るようにスポーツ界にも深く根を下ろしています。

旧態依然のボクシング界も全く同じです。

所属事務所から独立するタレントには、後足で砂をかける恩知らずのイメージが付きまどうことがあります。「独立したタレントは干される」ことが多いのは誰でも知っています。

事務所やプロ野球球団との契約が、何のルールもなければ奴隷契約になってしまうのは当然です。

日本のボクシング界に根付いている独特のジム制度も「芸能事務所とタレント」と酷似した関係を構築してきました。

明文化されている日本ボクシングコミッション(JBC)のルールでは日本プロボクシング協会(JPBA)に加盟しているジムと契約しなければ国内の公式戦には出場できません。

そして「ボクサーとジムの契約は最大3年」の3年縛りでした。「双方に異議がなければさらに3年が自動更新される」。

ルール上は最大3年の契約期間を終えると、フリーエージェントになれるはずでした。

しかし、因習には必ず不文律があります。明文化されていないunwritten rules、暗黙の了承です。

契約期間内での移籍には移籍金(後述の移籍金とは違う)が発生するだけでなく、晴れて3年契約を満了しても移籍する際には「ジムの承諾書を伴う移籍届けをJBCに提出しなければならない」という、ルールブックに書かれていない不文律が存在していました。

これではジムの承認がなければ、移籍できないことになります。

SMAPメンバーの独立・移籍が社会問題になったことを契機に、公正取引委員会がタレントや選手側に著しく不利な契約関係に注目、改善を促したことでJBCも「3年縛り」を2019年から撤廃しました。

ルール上は、いつ何時でも移籍の自由が保障されることになったのです。

選手が移籍を考えるのは、トップ選手の場合は練習環境やマッチメイクに不満があるケースもありますが、古今東西共通して言えるのはファイトマネー、カネの問題です。

一般的に知られている「4回戦は6万円」は、各都道府県の最低賃金のように明文化されている金額ではなく、あくまで相場です。

ファイトマネーは所属ジムや選手によって変わってきます。那須川天心が4回戦デビューで6万円はありえません。

明文化されているのは「ジム側が33.3%以下のマネジメント料を取る」こと。
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はっきり記録に残る日本史上最高額のファイトマネーは1994年の「辰吉丈一郎vs薬師寺保栄」の両者合わせて320万1500ドル(当時の為替で3億4200万円)ですが、この数字は村田諒太がすでに何度も更新しているというのが通説です。

しかし、村田の世界戦のファイトマネーは「200万ドル以上」(リング誌)と見られ、先日のゲンナジー・ゴロフキン戦は6億円という報道もありました。

ただし、これらはいずれも推定金額。

また、このブログでも指摘している井上尚弥の「ラスベガスの謎の100万ドル」も、大橋秀行会長が「このまま防衛を重ねると天文学的数字になる」と口にしただけで、ネバダ州アスレティック・コミッションが課税対象として発表した信頼できる数字ではありません。

こんな不透明なファイトマネーも、マイナスイメージでしかありません。

正確な数字を発表すると、選手に「どうして俺があいつより少ない?」という不満を引き起こし、報酬の全体的な引き上げを招きかねないというプロ野球界にも共通する、ジム(球団)側の都合が横たわっています。

それでも、プロ野球は正確ではないにせよ「推定」という形でトップ選手の大体の年俸が知られています。

それすらも知らされず、100万ドルポッキリの数字だけが口先で騙られ「天文学的数字」になるはずのラズベガスから撤退する…こんな迷走茶番劇を見せられると、不信感しかわいてきません。

さて、このファイトマネーもご存知の通り、未だにチケットで支払われるケースが当たり前に横行しています。

内山高志のチケットを自ら完売する営業マンぶりが美談として語られるなど、トップ選手の伝説はファイトマネーのチケット払いを正当化、助長する一因にもなり、個人的には感心しません。

さらに、このチケット払いとマネジメント料にも明文化された規定がありません。

通常のチケット払いは、例えば4回戦なら6万円分のチケットが選手に渡されるわけではありません。多くのケースで2倍の12万円分が渡され、マネジメント料は6万円にかかり33%なら1万9800円。

もし、12万円分のチケットを完売すると選手の取り分は10万200円になります。これは、因習のまだ良い側面かもしれません。

しかし、現実には2倍のチケットはおろか、6万円分も渡さなかったりするジムもあります。さらには2倍以上のチケットを渡され、その金額の33%をマネジメント料として抜かれる選手もいます。

12万円のチケットの33%は3万9600円、半分の6万円分をさばいても手取りは2万400円。チケットが3万円しか売れなければ9600円の赤字です。

もちろん、選手から搾取しているジムはほとんどないでしょう。そもそもが儲からないビジネス。ジムも苦しいのです。

「4回戦の選手に現金で6万円も払っていたら潰れる」のが、多くのジムの現状です。

3年縛り撤廃も「手塩にかけて、多額の投資をして育てた選手に簡単に移籍されたら小さなジムは一つ残らず潰れる」「3年でも短すぎるのに撤廃なんてありえない」というジム側の理屈も正論です。

とはいえ、野球では7〜8年でフリーエージェントになれます。より競技生命が短いボクシングでは「3年でも長い。撤廃で良かった」というのが選手の本音でしょう。

ただし、野球の場合は巨額の契約金の前払いがあります。ボクシングで契約金をもらってジム入りする選手は極めて少数派、その額も多くは引越し費用の域を出ません。

しかし、「弱小ジムにとって移籍の完全自由化は死刑宣告に等しい」というのは違います。大手ジムの引き抜きには、従来通り移籍金(前段の契約期間内の移籍金とは別)が支払われるのが因習・慣例です。

選手に不利な不文律が横行している中で、多くの才能がボクシングを諦めてしましました。

ボクサーにとってより良い仕組みが構築するのは、ボクシングがマイナースポーツであるという危機感を持つなら、進むべき当然の方向です。

ボクシングはサッカーや野球のように才能が集まってきてくれる人気スポーツではありません。

才能をスポイルする可能性のある行為は、すべからく全面的に排除すべきなのです。



それにしても、今回の亀田和毅の移籍は、カネやしがらみが一切絡んでいないと思われる点で非常に珍しいケースでした。