スポーツ教本は、そのスポーツを始める人や上達したいと考える人が読むものです。

「教本=入門書」です。

当然、どんなスポーツ教本でも最初のページを開くと「ようこそ!」とウェルカムなムードが発散されています。

「それでは一緒にイチローを目指そしましょう!」な感じですね。

しかし、ボクシングマガジン1989年3月号から連載が始まった「渡辺二郎のボクシング講座 HOW TO BOXING」は「ボクシングを始める前に」と書きながら、第1回から「ボクシングはやるな」とばかりに突き放すのです。
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「まず肝に銘じておいてほしいのは、非常に厳しいスポーツであること」。

「野球やテニスのような楽しみながらやることが可能なスポーツもある。が、ボクシングは違う」。

「弱ければ弱いほど血を流さなくてはいけない」。

「そういう心構えを持った上でジムの門を叩いても、必ず成功するとは限らないし、それどころか途中で挫折することの方が多いのである」。

どう読んでも「野球やテニスをやるような感覚で始めようと思ってるならボクシングはやるな」「下手くそでも楽しめるスポーツとは違い、下手な奴が一番辛くて惨めな目にあう」「どんなにやる気があってもまず挫折するから、今のうちにやめとけ」…そう言っているとしか思えません。

こんな「入門書」がありますか?

せっかく「ボクシングをやってみようかな」と思った若者の心を、ヘシ折るような言葉です。

しかし「HOW TO BOXING」や現役時代の渡辺の言葉を読み直すと、そこに透けて見えてくるのは優しさです。

私も、甘噛みもいいところでしたが、部活やジムに何度か顔を出したことがありました。高校や大学の選手、アルバイトしながらプロとしてリングに上がる人もいました。

新鮮でものすごく楽しかった反面、センスのない負けてばかりの年配のプロの方には「誰かちゃんと言ってあげないとダメだ」と怒りに似た感情がこみ上げてきました。

思い返すと、負けプロの方は中高生の私から見ると年取ったおっさんに見えてただけで、まだ20代だったかもしれません。

それでも、渡辺がジムの会長だったり、トレーナーなら彼をプロで続けさせなかったと思います。

当時は、入門書なのに何を書き出すんだと思ってしまいましたが、何度か読み直すといろんなものが正確に見えてた人なんだと、あらためて思い知らされました。



なのに、どうして。

だったら、なぜ…。