昨日は、東京駅で人のお出迎え。
いつもの仕事関係ではなく、高校時代の先輩。石川優子さん(もちろん仮名)。
もういつ以来になるのか、2年じゃないな、思い出せないくらいの再会です。
この年になって、しばらく会っていない学生時代の友人知人と会うのは、至福の時間です。
この世にタイムマシンなんてないはずなのに、間違いなくそれに乗ってしまった時間を過ごせることがあるんです。
こういう感覚は誰にでもあるでしょう。
優子先輩は、主将をつとめていた陸上競技の混成でインターハイ、ハイジャンで近畿大会まで進出した万能型のアスリートでした。
柔道部のエースでもあったので、それも凄みのオーラを発散させる原因だったのでしょう。
柔道着を背中に引っ掛けて、トラックに入る前に必ず一礼する姿が本当に格好良くて、男子も女子もみんな憧れていました。
性格が豪放磊落なのに、グラウンドを出て黙ってたらすごい美人のお姉さん、他の高校でも有名人でした。
しかも、私が通うようなバカ高校にもかかわらず、嘘みたいに勉強が出来て、運動でも何でも学校が用意したものは完璧にこなしてしまうすごい人だったんです。
「学校が用意したものは何でも完璧にこなすんですね」。
そこまで直截じゃなくても、そんな意味のことをぽろっと口にしてしまったときがあって「君、おもろいことゆうやん」と凄まれてビビった思い出もありました。 もちろん悪気は全くなかったのですが。
まだ、若いのに今は関西の有名大学の偉い教授。
街中で声かけて来る男も少なくなく、なんと試合を終えたジャージ姿の先輩が二人組の男にしつこく声かけられてたことなんてことがありました。
後から追いついた、私たち他の部員が駆け寄る前に、優子先輩は二人の腕をネジ伏せたか、足を払ったのか、その場で簡単に倒すと、カバンの中から砲丸を出して、男のすぐ頭の横のアスファルトにドコンッ!と叩き落としたのです。
お行儀の良い環境で育っていないので、暴力は珍しいことじゃなかった私でも、女性が男二人をあっという間に組み伏せたのを見たのは初めてで、度肝を抜かれました。
その所作が本当に、とにかく格好良くて。
私たちの中では永遠に語り継がれる「茶ぁシバキに行こうやと声をかけたばかりにシバかれた事件」でした。
監督先生もよく分かってて、優子先輩を心配することなく、最初の言葉が「石川!砲丸を何に使ぅとんねん!もう一回やったら退部やからな!」でした。
一方で、私たちは優子先輩への尊敬と畏怖の念をますます膨らませるばかりでした。
私はクズ部員で野球部との兼部と言うこともあって、意地の悪い男の先輩とかもいて「俺がいて誰かが嫌な思いしてるのなら陸上部にいる必要もないな」と、考えてたときに声をかけてくれたのも、やはり兼部していた先輩でした。
そんな先輩から、数週間前に今日仕事で東京入るからお昼でもと電話を頂いたので、断る理由なんてありえません。
一緒に食事してると、当たり前ながら高校時代の記憶が湧き上がるように思い出されて…よくよく考えると、この先輩には結構いじめられてた思い出が…。
▶︎先輩「そういや昔、二人でデートしたことあったよね?まさか、君に告白されるなんて想像もしてなかったから、びっくりしたわぁ」。
▶︎私「ありえないです。なんちゅう思い違いしてるんですか。僕なんかが先輩に告白とかデートに誘うとか、ありえないでしょ。雲の上の存在でしたし」。
▶︎先輩「でも、誘われて鶴橋に焼肉食べに行った覚えあるよぉ。あれ、絶対君が誘ったんやん」。
…段々、記憶が蘇ってきます。忘れたい苦い記憶までが。
中学時代に、外国人学校のチームと野球部の試合でちょっと乱闘寸前になった試合がありました。
とにかく凶暴で有名な学校で、試合中も喧嘩腰。私たちの中学校も凶暴でしたが、そんなレベルではなくて「いくら相手校の監督と知り合いでもこんな試合組むなよ」と監督を恨んだものでした。
ちょっと今では信じられない柄の悪さでしたが、あのエリアがちょっとおかしいんだとはっきり気づいたのは東京出て来てからです…。
そのときの相手数人と、その試合以来何年かぶりかに梅田で偶然会ってしまい、声かけられた私は、まさか、中学時代の遺恨をまだ引きずってるとかないよな、と思いつつ「どうやって逃げようか」と身構えていました。
しかし、嬉しそうに「何してるん?」「野球、やってんの?」「俺らの高校は甲子園なんて予選も出られへんし、もうやめた」みたいな話をフレンドリーにしてきて、ちょっとホッとしたのもつかの間「週末、両親がやってるうちの店来ぇへん?」と誘ってきたのです。
「結構流行ってんねんで。二人テーブル取っとくから最大3人まで座れるから」と強引に誘う勢いに、つい約束してしまったのでした。
野球部のチームメイトにそのことを話して「誰か一緒にけぇへん?」と声をかけると…。
「その外国人学校、めっちゃやばいとこやん!」「中学のときトラブルあったって?それ殺されるで」「なんで、行くゆうてん。その場で断われよ!」「誰がそんなわかりきった地獄めぐりに付き合うか!」。
もちろん、行かないという手もありましたが、すっぽかしたら更に面倒で恐ろしい事態が待っている予感がムクムクと湧き上がってきた私は、一人で行こうと覚悟を決めました。
そんなときに、部活で優子先輩が「鶴橋に焼肉食べに行く相手探してるねんて?」と聞いてきたのでした…。
▶︎私「思い出した!誘ったの優子先輩ですよ。どっから聞きつけたか、1回鶴橋で焼肉食べたかったって言うたでしょ」。
▶︎先輩「違う、違う。あんたが『怖いから一緒に来て下さい』って泣きついて来たんやん!」。
▶︎私「ああ、また思い出しました。先輩、勝手に脚色して僕に『付き合って下さい』って告白されたって言いふらしたでしょう。あれで、どんだけ恥ずかしい辛い思いしたか。あの頃から、性格、全く改善されてませんね、先輩」。
▶︎先輩「改善ってなんやねん、違う言い方ないんかい」。
…そうなんです。次の日、みんなから「いつもおとないしいのに、優子先輩誘うって、お前すごいなあ」「その身の程知らず、ちょっと尊敬するわ」「前からムッツリな感じやったけど、気色悪ッ!」「優子さんの作った味噌汁が飲みたいとかダッサダサなこと言うたってほんま?」と冷やかされまくりました。
教室では空気みたいな存在の私だったのに、ほとんど話したことがない女子からまで「ひゅーひゅー」と冷やかされるのは、多感な高校生にとっては恥ずかしくて消えていなくなりたいトラウマでした。
もうここでは生きていけない、そこまで思いました。
無意識のうちに記憶の奥底に葬り去っていた、苦い思い出です。
焼肉食べて、最寄り駅まで戻って、私は「今日のこと誰にも言わないで下さい」とお願いしたことも思い出しました。
先輩は「当たり前やん。こんな時間までビールまで飲んで焼肉食べてたなんて、口が裂けても誰にも言われへんわ、停学もんやん」とご機嫌に酔って上気した顔で約束してくれたはずなのに…。
そうです、その再会の食事会は何事もなく無事で、元試合相手の彼らも僕のことよく覚えてくれてて。
向こうのお母さんも「この子らロクなもんちゃうから、そんなん何年も前に試合した人を誘っても来てくれへんでってゆうてたのに、こんなベッピンさんの彼女まで連れて来てくれた!」と大歓迎してくれました。
高校生だから本当はダメですが、けっこうな量のビールと酎ハイも飲んで試合の話で盛り上がりました。
彼らとはたった1試合、7イニングだけの思い出なんですが「(1塁走者の私に)走ったら殺す、と脅してもすぐ二盗、三盗したからすごい度胸あるやつやと思った」と、ちょっと気持ちの良い話をしてくれても〝良い話の腰は必ずヘシ折らなきゃいけない〟というのが信念の優子先輩は話をそこで終わらせません。
「こいつに、度胸なんてないですよぉ!それ、サイン出たから仕方なく泣きながら走ってたはずです。今日も泣きそうな顔して、怖いから一緒について来て下さいって泣かれたから。男の涙に弱いんです、私」。
「部活やクラスでは人気者やろ?」と私に気を使ってくれても、先輩は「人気者?とんでもない、いつも暗い感じで図書館に引きこもって、そのまま授業出てこないとか、部活の時しか声出さない気持ち悪いやつなんです。そもそも勉強は全くできなくて学年で下から一番ですから」と全否定、良い話が出ると必ず潰しにかかります。
「でもお付き合いしてるんだから仲いいんでしょ?」「こんな綺麗で明るい彼女、羨ましい」という勘違いは否定せず「何回もしつこく告白されて、私、救いようがない人とかを救ってあげたいと思うマリア様なタイプかも」「でも二人きりになるとエッチなことしようとするからそれが嫌で」と、もう酔いが回ると好き放題いじり倒されました。
「エッチなことってなにしたん?」と、全く身に覚えのないことを問い詰められた頃には、この女を連れて来たことを、完全に後悔していました。
▶︎私「一緒に来てくれると言ってくれたときは、正直ちょっと嬉しかったですよ。優子先輩を好きとかそんなん恐れ多いですけど。でも、途中で、地球上で一番連れてきたらあかん人を連れてきてもうた、とものすごく後悔しました」。
▶︎先輩「めっちゃ、おもろかったやん!あの鶴橋の夜ぅ。あれからも、ときどきおじゃましてんねんけど、君は全く顔出さないって、怒ってたよ」。
…もう30年以上も前のことなのに、二人で話してると、あの頃に完全に戻ってるんです。高校時代の先輩、後輩に。会話のリズムも二人の距離も、当時と全く同じです。
少し前にも書きましたが、中学時代から同じ高校に進んだ水原裕子さん(もちろん仮名)って同級生もいて、彼女の話になりました。
▶︎先輩「そういえば、水原は元気?こっちにいるんでしょ?」
▶︎私「え?知らないです。こっちにいるんですか?」
▶︎先輩「あれ?あんたら付き合ってたんと違うん?」
▶︎私「それ、どこネタの話ですか、付き合ってるわけないでしょ」
▶︎先輩「ほんまに知らんの?」
▶︎私「知るわけないじゃないですか」
▶︎先輩「さすが、水原が惚れただけのことあるなぁ。口が固い」
…水原さんは何度かクラスが一緒になった程度で、中学時代から生徒会長だったり水泳部でも活躍してたりと、陰気で部活のときしか声出さない気持ち悪いやつの私とは、対極キャラでした。
高校でも彼女はそのまんま正義の味方の女子で、グラウンド裏でジンギスカンしてた優子先輩とトラブルになったことがあったと聞いてました。
社会人になってまもない頃に、仕事で不動産取引のトラブル処理の先兵みたいな役割で、交渉の場で再会してしまったのが水原さんでした。
あれから何十年も時間が経ってますが、ときどき連絡を取り合って「一緒に酒でも飲まないか?」と誘ったことはありました。
▶︎先輩「先月、勤務先の大学に水原が訪ねて来てくれて。君の話もいっぱいしたんよ。水原、困ってたよ、めっちゃ誘ってくるから迷惑やって。男ってほんま最低やな。君も妻子ある身やのに、節操のない」
▶︎私「水原のやつ、ベラベラと…。しかし、女ってほんまにおしゃべりですよね。そんなつもりで誘ってるわけがないでしょ」。
▶︎先輩「今日は笑いすぎて仕事、でけへんわ。それでな、水原は私が君と付き合ってたとずっと思ってたんやて」
▶︎私「あいつもしっかりしてそうで、相当思い込み激しいですからね。そもそも、僕、高校時代まで彼女なんて一度も出来たことないし。っていうか優子先輩と水原って、学年も部活も違うのにそんな仲良かったんですか?」
▶︎先輩「悪ぅないよー、向こうは学校の有名人で、みんな知ってるし。仲が悪いって言う人らがいるの知ってたけど、わけわからへんかった。先月かて強面のボディガード5人も引き連れて会いに来てくれてんから」。
…彼女が結構危うい仕事の大物になってることを知っていた私は、そこで絶句してしまいました。
▶︎先輩「あー、やっぱり水原のこと勘違いしとんなぁ。マフィアの大親分か、闇社会のフィクサーかと思ってた?」
▶︎私「いや、そんなんじゃないと思うけど、本当によく知らないから」
▶︎先輩「今度、その話もしよな、水原も一緒に。しかし、君の方がマフィアに向いてるわ。口固いし、オメルタの掟やん」「しかし、めっちゃ飲んだねぇ。昼間から女性にこんな飲ませるか?」
▶︎私「ビール頼んだの僕ですが、焼酎は先輩ですからね」
▶︎先輩「最初にビール頼むのと、その流れに巻き込まれて焼酎頼むの、法律的にはどっちが罪重い?」
…なんとお昼の12時前に会って、もう3時間近くも経っていました。「仕事、大丈夫ですか?」と聞く私に「仕事は明日で、簡単な打ち合わせがこれから」と先輩。
「またぜひ」と挨拶を交わして、お店を出ると、一気にもとの社会人に逆戻り。
さっきまで高校時代の面白くてちょっと意地悪な優子先輩が、偉い大学教授の顔になった気がしました。
お座敷に、まだ下げられていない二人で飲んだ空き瓶をゴロゴロ残して。そういえば、お店の人が用意してくれたボトルキープ用の首かけにはネームを入れずに席を立ちました。
そりゃそうです。全部飲んじまったから。最初から全部飲むぞって、目でわかってましたから。
。。。。それにしても「水原さん」の話だけは続きは書けない、続きはない、と思ってましたが…。生きてると面白いことがあります、いくらでも。
いつもの仕事関係ではなく、高校時代の先輩。石川優子さん(もちろん仮名)。
もういつ以来になるのか、2年じゃないな、思い出せないくらいの再会です。
この年になって、しばらく会っていない学生時代の友人知人と会うのは、至福の時間です。
この世にタイムマシンなんてないはずなのに、間違いなくそれに乗ってしまった時間を過ごせることがあるんです。
こういう感覚は誰にでもあるでしょう。
優子先輩は、主将をつとめていた陸上競技の混成でインターハイ、ハイジャンで近畿大会まで進出した万能型のアスリートでした。
柔道部のエースでもあったので、それも凄みのオーラを発散させる原因だったのでしょう。
柔道着を背中に引っ掛けて、トラックに入る前に必ず一礼する姿が本当に格好良くて、男子も女子もみんな憧れていました。
性格が豪放磊落なのに、グラウンドを出て黙ってたらすごい美人のお姉さん、他の高校でも有名人でした。
しかも、私が通うようなバカ高校にもかかわらず、嘘みたいに勉強が出来て、運動でも何でも学校が用意したものは完璧にこなしてしまうすごい人だったんです。
「学校が用意したものは何でも完璧にこなすんですね」。
そこまで直截じゃなくても、そんな意味のことをぽろっと口にしてしまったときがあって「君、おもろいことゆうやん」と凄まれてビビった思い出もありました。 もちろん悪気は全くなかったのですが。
まだ、若いのに今は関西の有名大学の偉い教授。
街中で声かけて来る男も少なくなく、なんと試合を終えたジャージ姿の先輩が二人組の男にしつこく声かけられてたことなんてことがありました。
後から追いついた、私たち他の部員が駆け寄る前に、優子先輩は二人の腕をネジ伏せたか、足を払ったのか、その場で簡単に倒すと、カバンの中から砲丸を出して、男のすぐ頭の横のアスファルトにドコンッ!と叩き落としたのです。
お行儀の良い環境で育っていないので、暴力は珍しいことじゃなかった私でも、女性が男二人をあっという間に組み伏せたのを見たのは初めてで、度肝を抜かれました。
その所作が本当に、とにかく格好良くて。
私たちの中では永遠に語り継がれる「茶ぁシバキに行こうやと声をかけたばかりにシバかれた事件」でした。
監督先生もよく分かってて、優子先輩を心配することなく、最初の言葉が「石川!砲丸を何に使ぅとんねん!もう一回やったら退部やからな!」でした。
一方で、私たちは優子先輩への尊敬と畏怖の念をますます膨らませるばかりでした。
私はクズ部員で野球部との兼部と言うこともあって、意地の悪い男の先輩とかもいて「俺がいて誰かが嫌な思いしてるのなら陸上部にいる必要もないな」と、考えてたときに声をかけてくれたのも、やはり兼部していた先輩でした。
そんな先輩から、数週間前に今日仕事で東京入るからお昼でもと電話を頂いたので、断る理由なんてありえません。
一緒に食事してると、当たり前ながら高校時代の記憶が湧き上がるように思い出されて…よくよく考えると、この先輩には結構いじめられてた思い出が…。
▶︎先輩「そういや昔、二人でデートしたことあったよね?まさか、君に告白されるなんて想像もしてなかったから、びっくりしたわぁ」。
▶︎私「ありえないです。なんちゅう思い違いしてるんですか。僕なんかが先輩に告白とかデートに誘うとか、ありえないでしょ。雲の上の存在でしたし」。
▶︎先輩「でも、誘われて鶴橋に焼肉食べに行った覚えあるよぉ。あれ、絶対君が誘ったんやん」。
…段々、記憶が蘇ってきます。忘れたい苦い記憶までが。
中学時代に、外国人学校のチームと野球部の試合でちょっと乱闘寸前になった試合がありました。
とにかく凶暴で有名な学校で、試合中も喧嘩腰。私たちの中学校も凶暴でしたが、そんなレベルではなくて「いくら相手校の監督と知り合いでもこんな試合組むなよ」と監督を恨んだものでした。
ちょっと今では信じられない柄の悪さでしたが、あのエリアがちょっとおかしいんだとはっきり気づいたのは東京出て来てからです…。
そのときの相手数人と、その試合以来何年かぶりかに梅田で偶然会ってしまい、声かけられた私は、まさか、中学時代の遺恨をまだ引きずってるとかないよな、と思いつつ「どうやって逃げようか」と身構えていました。
しかし、嬉しそうに「何してるん?」「野球、やってんの?」「俺らの高校は甲子園なんて予選も出られへんし、もうやめた」みたいな話をフレンドリーにしてきて、ちょっとホッとしたのもつかの間「週末、両親がやってるうちの店来ぇへん?」と誘ってきたのです。
「結構流行ってんねんで。二人テーブル取っとくから最大3人まで座れるから」と強引に誘う勢いに、つい約束してしまったのでした。
野球部のチームメイトにそのことを話して「誰か一緒にけぇへん?」と声をかけると…。
「その外国人学校、めっちゃやばいとこやん!」「中学のときトラブルあったって?それ殺されるで」「なんで、行くゆうてん。その場で断われよ!」「誰がそんなわかりきった地獄めぐりに付き合うか!」。
もちろん、行かないという手もありましたが、すっぽかしたら更に面倒で恐ろしい事態が待っている予感がムクムクと湧き上がってきた私は、一人で行こうと覚悟を決めました。
そんなときに、部活で優子先輩が「鶴橋に焼肉食べに行く相手探してるねんて?」と聞いてきたのでした…。
▶︎私「思い出した!誘ったの優子先輩ですよ。どっから聞きつけたか、1回鶴橋で焼肉食べたかったって言うたでしょ」。
▶︎先輩「違う、違う。あんたが『怖いから一緒に来て下さい』って泣きついて来たんやん!」。
▶︎私「ああ、また思い出しました。先輩、勝手に脚色して僕に『付き合って下さい』って告白されたって言いふらしたでしょう。あれで、どんだけ恥ずかしい辛い思いしたか。あの頃から、性格、全く改善されてませんね、先輩」。
▶︎先輩「改善ってなんやねん、違う言い方ないんかい」。
…そうなんです。次の日、みんなから「いつもおとないしいのに、優子先輩誘うって、お前すごいなあ」「その身の程知らず、ちょっと尊敬するわ」「前からムッツリな感じやったけど、気色悪ッ!」「優子さんの作った味噌汁が飲みたいとかダッサダサなこと言うたってほんま?」と冷やかされまくりました。
教室では空気みたいな存在の私だったのに、ほとんど話したことがない女子からまで「ひゅーひゅー」と冷やかされるのは、多感な高校生にとっては恥ずかしくて消えていなくなりたいトラウマでした。
もうここでは生きていけない、そこまで思いました。
無意識のうちに記憶の奥底に葬り去っていた、苦い思い出です。
焼肉食べて、最寄り駅まで戻って、私は「今日のこと誰にも言わないで下さい」とお願いしたことも思い出しました。
先輩は「当たり前やん。こんな時間までビールまで飲んで焼肉食べてたなんて、口が裂けても誰にも言われへんわ、停学もんやん」とご機嫌に酔って上気した顔で約束してくれたはずなのに…。
そうです、その再会の食事会は何事もなく無事で、元試合相手の彼らも僕のことよく覚えてくれてて。
向こうのお母さんも「この子らロクなもんちゃうから、そんなん何年も前に試合した人を誘っても来てくれへんでってゆうてたのに、こんなベッピンさんの彼女まで連れて来てくれた!」と大歓迎してくれました。
高校生だから本当はダメですが、けっこうな量のビールと酎ハイも飲んで試合の話で盛り上がりました。
彼らとはたった1試合、7イニングだけの思い出なんですが「(1塁走者の私に)走ったら殺す、と脅してもすぐ二盗、三盗したからすごい度胸あるやつやと思った」と、ちょっと気持ちの良い話をしてくれても〝良い話の腰は必ずヘシ折らなきゃいけない〟というのが信念の優子先輩は話をそこで終わらせません。
「こいつに、度胸なんてないですよぉ!それ、サイン出たから仕方なく泣きながら走ってたはずです。今日も泣きそうな顔して、怖いから一緒について来て下さいって泣かれたから。男の涙に弱いんです、私」。
「部活やクラスでは人気者やろ?」と私に気を使ってくれても、先輩は「人気者?とんでもない、いつも暗い感じで図書館に引きこもって、そのまま授業出てこないとか、部活の時しか声出さない気持ち悪いやつなんです。そもそも勉強は全くできなくて学年で下から一番ですから」と全否定、良い話が出ると必ず潰しにかかります。
「でもお付き合いしてるんだから仲いいんでしょ?」「こんな綺麗で明るい彼女、羨ましい」という勘違いは否定せず「何回もしつこく告白されて、私、救いようがない人とかを救ってあげたいと思うマリア様なタイプかも」「でも二人きりになるとエッチなことしようとするからそれが嫌で」と、もう酔いが回ると好き放題いじり倒されました。
「エッチなことってなにしたん?」と、全く身に覚えのないことを問い詰められた頃には、この女を連れて来たことを、完全に後悔していました。
▶︎私「一緒に来てくれると言ってくれたときは、正直ちょっと嬉しかったですよ。優子先輩を好きとかそんなん恐れ多いですけど。でも、途中で、地球上で一番連れてきたらあかん人を連れてきてもうた、とものすごく後悔しました」。
▶︎先輩「めっちゃ、おもろかったやん!あの鶴橋の夜ぅ。あれからも、ときどきおじゃましてんねんけど、君は全く顔出さないって、怒ってたよ」。
…もう30年以上も前のことなのに、二人で話してると、あの頃に完全に戻ってるんです。高校時代の先輩、後輩に。会話のリズムも二人の距離も、当時と全く同じです。
少し前にも書きましたが、中学時代から同じ高校に進んだ水原裕子さん(もちろん仮名)って同級生もいて、彼女の話になりました。
▶︎先輩「そういえば、水原は元気?こっちにいるんでしょ?」
▶︎私「え?知らないです。こっちにいるんですか?」
▶︎先輩「あれ?あんたら付き合ってたんと違うん?」
▶︎私「それ、どこネタの話ですか、付き合ってるわけないでしょ」
▶︎先輩「ほんまに知らんの?」
▶︎私「知るわけないじゃないですか」
▶︎先輩「さすが、水原が惚れただけのことあるなぁ。口が固い」
…水原さんは何度かクラスが一緒になった程度で、中学時代から生徒会長だったり水泳部でも活躍してたりと、陰気で部活のときしか声出さない気持ち悪いやつの私とは、対極キャラでした。
高校でも彼女はそのまんま正義の味方の女子で、グラウンド裏でジンギスカンしてた優子先輩とトラブルになったことがあったと聞いてました。
社会人になってまもない頃に、仕事で不動産取引のトラブル処理の先兵みたいな役割で、交渉の場で再会してしまったのが水原さんでした。
あれから何十年も時間が経ってますが、ときどき連絡を取り合って「一緒に酒でも飲まないか?」と誘ったことはありました。
▶︎先輩「先月、勤務先の大学に水原が訪ねて来てくれて。君の話もいっぱいしたんよ。水原、困ってたよ、めっちゃ誘ってくるから迷惑やって。男ってほんま最低やな。君も妻子ある身やのに、節操のない」
▶︎私「水原のやつ、ベラベラと…。しかし、女ってほんまにおしゃべりですよね。そんなつもりで誘ってるわけがないでしょ」。
▶︎先輩「今日は笑いすぎて仕事、でけへんわ。それでな、水原は私が君と付き合ってたとずっと思ってたんやて」
▶︎私「あいつもしっかりしてそうで、相当思い込み激しいですからね。そもそも、僕、高校時代まで彼女なんて一度も出来たことないし。っていうか優子先輩と水原って、学年も部活も違うのにそんな仲良かったんですか?」
▶︎先輩「悪ぅないよー、向こうは学校の有名人で、みんな知ってるし。仲が悪いって言う人らがいるの知ってたけど、わけわからへんかった。先月かて強面のボディガード5人も引き連れて会いに来てくれてんから」。
…彼女が結構危うい仕事の大物になってることを知っていた私は、そこで絶句してしまいました。
▶︎先輩「あー、やっぱり水原のこと勘違いしとんなぁ。マフィアの大親分か、闇社会のフィクサーかと思ってた?」
▶︎私「いや、そんなんじゃないと思うけど、本当によく知らないから」
▶︎先輩「今度、その話もしよな、水原も一緒に。しかし、君の方がマフィアに向いてるわ。口固いし、オメルタの掟やん」「しかし、めっちゃ飲んだねぇ。昼間から女性にこんな飲ませるか?」
▶︎私「ビール頼んだの僕ですが、焼酎は先輩ですからね」
▶︎先輩「最初にビール頼むのと、その流れに巻き込まれて焼酎頼むの、法律的にはどっちが罪重い?」
…なんとお昼の12時前に会って、もう3時間近くも経っていました。「仕事、大丈夫ですか?」と聞く私に「仕事は明日で、簡単な打ち合わせがこれから」と先輩。
「またぜひ」と挨拶を交わして、お店を出ると、一気にもとの社会人に逆戻り。
さっきまで高校時代の面白くてちょっと意地悪な優子先輩が、偉い大学教授の顔になった気がしました。
お座敷に、まだ下げられていない二人で飲んだ空き瓶をゴロゴロ残して。そういえば、お店の人が用意してくれたボトルキープ用の首かけにはネームを入れずに席を立ちました。
そりゃそうです。全部飲んじまったから。最初から全部飲むぞって、目でわかってましたから。
。。。。それにしても「水原さん」の話だけは続きは書けない、続きはない、と思ってましたが…。生きてると面白いことがあります、いくらでも。

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