「ケガが完治する2020年3月までに米国での興行に出場する」(ボブ・アラム)。

アラムの言葉を真に受けるボクシングファンは、世界中のどこを探してもいません。

そして、WBSSに振り回されたこの2年間で私たちはますます疑い深くなっています。

実際に契約成立、スケジュールが確定したことを意味する黄色にハッチングされたBoxRecを目にするまでは信用できません。

WBA/IBF王者の井上尚弥がトップランクデビューで迎え撃つ相手は「相思相愛の」ジョンリール・カシメロになるのか?


今日更新されたリング誌電子版のバンタム級ランキングは、チャンピオンの井上を頂点に1位ノニト・ドネア、2位ノルディーヌ・ウーバーリ、3位カシメロ、4位エマヌエル・ロドリゲス、5位ゾラニ・テテ、6位ジェイソン・マロニー、7位カルロス・クアドラス、8位ジョシュア・グリーア、9位井上拓真、10位ジョシュア・フランコとなっています。

直近の試合で明白な敗北を喫しているドネア、ロドリゲス、テテがトップ5に残っていることが層の薄いバンタム級の現状を如実に表しています。

トップ10の誰が相手でも井上の圧倒的有利は動かないでしょう。

ドネア戦でこれまで隠されてきた欠点をいくつか露呈しましたが、それを言うとリング誌ランカー10人ともに井上以上に深刻な欠陥を、井上以上に数多く抱えています。


となると、月並みですが井上尚弥の敵は井上尚弥です。

周囲から持ち上げられても、世界的な高評価を得ても、井上がそれに溺れることはないでしょう。

今も座間に住み計量後にはコンビニ前でカップヌードルをすする26歳に、マイク・タイソンが悲劇的に内包していたような意味での「自分の敵は自分」という死角は見当たりません。

ドネア戦で見せた未熟な防御、まっすぐ下がる癖、接近戦での精度の低さなどの欠点も、そこを的確に突いて勝利まで手繰り寄せる能力を持つ118パウンダーはいません。


あの試合で見せた「ドネアの打たれ強さ」には二つの背景がありました。

一つ目はもちろん、ドネアが本質的に打たれ強いボクサーだということです。これが井上の壁になることは十分予想できました。

ただ、ロドリゲスを転がしたような左フックやファン・カルロス・パヤノを失神させたジャブクロスがドネアに炸裂していたらフィリピーノフラッシュもその瞬間消灯していたはずです。

ドネアが井上のパンチに耐えられたもう一つの背景、それは井上自身が初めて体験する強打者を前にして冷静にパンチを打ち込めなかったからです。

井上の最大のストロングポイントについて長谷川穂積は「誰でも100で打ちたいけどカウンターが怖いから80か70でしか打てないが、井上は練習のように100で打てる」と喝破しています。
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きっちり体重を乗せて思い切りパンチを打つ。

それを早い段階で見せることで相手の警戒レベルをマックスまで引き上げる。「攻撃は最大の防御」の見本です。

相手は硬くなり、自身は「何かが降りてくる」ほどまでに冷静に戦える状態。

この〝井上ゾーン〟を初めて破ったのがドネアでした。

初体験のパワーボクサーに後退を余儀なくされ、バックペダルに常に足を乗せた井上は「100で打つ」態勢を完全に失ってしまいます。

2ラウンドに「それだけを警戒している」と語っていたドネアの左をクリーンヒットされて負傷した右目の影響はもちろんあったでしょう。

しかし、あれほど警戒していたはずの左を序盤でもらってしまったのは油断であるはずがありません。以前から指摘されていたディフェンスの隙です。

「100」でない井上のパンチは特別ではありません。

そして、後ろ重心でドネアの強打を警戒する井上の頭の中は赤信号が消えることなく、冷静とは真逆の状態、ミスブローも目立ち「何かが降りてくる」余裕もありませんでした。

来年の米国で迎えるプロ20戦目は、ある意味〝復帰戦〟になります。

そのリングに立っているのが、ドネア戦で見失ったゾーンを取り戻した「18戦目までの井上尚弥」なのか。

それとも。井上にとって19戦目が重大な節目になってしまうのか。

カシメロはそのリトマス紙として格好の素材かもしれません。