今夜は、米国Yahoo!Sportsからベアナックルのお話です。

ベアナックル、この原始ボクシングがクイーンズベリー・ルールによって表舞台から退場を余儀なくされ、1世紀以上が過ぎました。

しかし、米国ではいまだに小さな組織が小さな興行を繰り返しています。

ボクシングやMMAのようにスポーツとして承認する州はノースダコタとワイオミングしかないのが現状ですが、SNSの普及もあって格闘技ファンの注目度は低くありません。

米国では長年無視され続けているキックボクシングよりも、ベアナックルのほうがボクシングとMMAを追いかけるプロ格闘技として、その可能性があるとも考えられています。

一度絶滅したはずのベアナックルが、第3勢力になる日が果たして訪れるのでしょうか?

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1993年11月。日本でも馴染み深い一人の格闘家がコロラド州デンバーの地に立ちました。

ケン・シャムロックです。

UFC 1: The Beginning に参加するためでした。

それがどんな格闘技なのか、誰も正確にはわかりませんでした。おそらくは主催者も、選手も。

ジャッジもラウンドもなく、ルールブックにあるのは「嚙みつき」「目潰し」「急所攻撃」を禁じるということだけ。

(注)「ラウンドがない」というのはYahoo!Sportsの誤解です。実際には5分1ラウンドの無制限。

シャムロックだけでなく、キックボクシングのパトリック・スミス、極真空手のジェラルド・ゴルドー、元幕下二枚目の高見州ら日本でも活躍した名前がトーナメントに出場した8人のリストに見つけることができました。

大会は世界的には全く無名のホイス・グレイシーが優勝。シャムロックはホイスのチョークスリーパーに締め上げられ、準決勝で敗退してしまいました。

優勝候補の大きな相手を次々と倒したホイスが操るグレイシー柔術は、大きな衝撃でした。

このイベントが「将来ボクシングに並ぶ格闘技に成長する」とは誰も考えなかったものの、格闘技関係者には巨大なインパクトを与えたのです。

日本でもグレイシーのルーツである前田光世と、グレイシーを破った木村政彦が再評価されるとともに、プロレスラーを中心としたガラパゴス的な発展を進めていた日本の総合格闘技界に深刻な影響を与えることになります。

この大会はグローブやジャケット(柔道着)、シューズなどの制限もなく、プロボクサーのアート・ジマーソンは左手にグローブを、右手はバンテージを巻いただけのベアナックルのスタイルで登場します。

そして「バーリ・トゥード=何でもあり」の戦いではグレイシーのメソッドが「正解」に近いことが明らかになり、その後のMMAの発展に大きな方向性も与えました。

倒れた相手の顔面を蹴りつける、馬乗りになって殴りかかる…ルール無用の残酷で野蛮な戦いには厳しい批判の目も向けられました。

ボクシング愛好家のジョン・マケイン議員もその一人で「こんなものを認めてはならない」と廃止を訴えましたが、ルールが整備されファンが増えると「ファイターの安全や健康を守らなければならない」と存続を支持します。この辺りの良い意味での変節、切り替えの早さがマケインの素晴らしいところです。

あれから26年。

たった26年でMMAはボクシングに次ぐ(並ぶ)格闘技として世界に認知されています。一部のファイターはトップボクサー並みの報酬を獲得、女子に至ってはボクサーよりも報酬(もしかしたらステイタスも)は上です。

日本でスポーツとして認知されている格闘技はボクシングだけ。そして、一般紙には相手にされないプロ格闘技として MMAとキックボクシングが並走(迷走?)している状況ですが、米国ではボクシングとMMAがスポーツとして認知されています。

そして、米国で第3勢力と呼べるパワーハウスはまだ見当たりませんが、その候補は昔も今も米国では全く相手にされないキックよりも、ベアナックルの可能性の方が大きいようです。

実際にここ数年、米国ではベアナックルの大会が間歇的に開催されてきました。

そして、MMAファイター時代の初期にベアナックルで戦っていたシャムロックもベアナックルの組織を立ち上げたのです。

それが Valor Bare Knuckle Inc.です。

日本時間の21日に開催されたVBK1にはイシェ・スミスやマイティー・モーが出場。ノースダコタ州の4ベアーカジノにセットされた4000席のチケットは完売。

PPVの単価は29.95ドル(約3300円)、売上世帯数はまだ発表されていませんが相当に強気の設定金額です。

シャムロックは「批判されているのは知っている。新しいことを始めたら、古い人間が拒否反応を起こすのはどこの世界でも同じ。ただ、この大会を見たいという観客が大勢いる。中継するプラットホームも、スポンサーもいる。100年以上も止まっていたベアナックルの時計が再び動き出すんだ」と大きな手応えを感じているようです。

そして、アルティメット・ヒーローは「グローブを着けた戦いは安全ではない」と断言、ベアナックルこそがより進化した〝ボクシング〟の形態だと主張しています。

「近代ボクシングではグローブをはめることで拳が保護されるから、骨折を心配しないで強いパンチを打つことが出来る。その結果、3分間に100発のパンチが打ち込まれることもある」。

「100発のパンチが頭蓋骨を直撃し、その度に脳を揺らす。グローブを着けているから見た目のダメージは比較的小さく、ときには打たれたボクサーもその重篤に気づかない〝低温火傷〟が繰り返されるわけだから危険極まりない」。

「しかし、ベアナックルでは正確にソフトゾーンに打たなければならない。つまり、鼻や頬、顎、胴体だ。やみくもにパンチを振い、分厚い頭蓋骨を叩いて大怪我するのは拳の方だ。一発のパンチをよく考えて打たなければならないから、低温火傷は起こりえない」。

シャムロックは「最初はUFCなんて誰も認めなかった。大会開催を承認するのは2〜3の州に限られていた。しかし、MMAが残酷な見世物ではなく真の強さを競うスポーツだと多くの人が知るようになると潮目は変わった。同じことがベアナックルにも起きるだろう」と自信を示しています。

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今年6月にポール・マリナッジの参戦で話題となったBare Knukle Fighting Championship(BKFC)では、剥き出しの拳が相手の顔を切り裂き、グロテスクな流血戦になりやすいことからも多くの批判が集中しました。

「この試合を見て、なぜベアナックルが滅びたかがよくわかった」「ボクシングやMMAの引退選手や落ちこぼれを集めても成功しない」。

しかし、これはUFC 1: The Beginningで聞かれた批判と全く同じです。

「古代ローマで盛んだった残酷な格闘技の見世物が滅んだのは必然」「落ち目のボクサーや無名の柔道家、相撲レスラーを集めても誰の関心も引けない」。

そんな否定的な意見を嘲笑うように、現在のMMAは古代ローマの殺し合いとは別のステージに昇華しています。

19世紀末にクイーンズベリー・ルールによって抹殺されたはずのベアナックルも、21世紀に洗練されて蘇生するなんてことがありうるのでしょうか?

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個人的にはベアナックルには歴史的な存在としてしか関心がありません。

6月のマリナッジ出場の興行は観ましたが「ベアナックルではスポーツとして面白い試合は期待できない」と痛感しました。

グローブファイトでも拳に慢性的な不安を抱えていたマリナッジは案の定、右手を骨折。互いの顔面を切り裂くベアナックルは流血必至です。

UFC 1: The Beginning を観たときも「ボクシングに並ぶコンバットスポーツの誕生の瞬間」なんて微塵も思い至らなかった私が言うのも何ですが、ベアナックルは難しいと思います。

UFCの場合はグレイシーによって洗練のベクトルがまだ見えましたが、ベアナックルはこれからどうやってスポーツライクなルール整備を進めていくのかが全く見えません。

UFCが古代ローマの殺し合いではないスポーツになる目的を果たしたのに対して、現在のベアナックル団体がやっていることはクイーンズベリー以前の原始ボクシングとほとんど同じです。

様々な試行錯誤が行われるのは間違いなく悪いことではありませんから、これから単純な復古の枠を超えた展開に期待しています。