アンディ・ルイスJr.vsアンソニー・ジョシュア。

“Clash on the Dunes” 「砂漠の激突」と銘打たれた注目のリマッチの会場がサウジアラビアに決まりました。

モハメド・アリの大ファンであるジョシュアはキリスト教徒でありながら、かつてメッカのモスクでムスリムの友人と祈りを捧げたことで心無い誹謗中傷を浴びました。サウジアラビアにとっては親近感の湧くキャラクターでしょう。

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エディ・ハーンは、ボクシング界の異端で破壊者です。彼は常に自分優先、我田引水を貫き巨額のカネを生み出し、数々の成功を収めて来ました。

11月7日 、サウジアラビアの首都リヤド郊外の町ディルイーヤで行われるメガファイトのために、1万2000人収容の特設スタジアムが建設されるといいます。

BBCは、サウジは4000万ドルの招致フィーをマッチルームに支払ったと報じて居ます。。

Where there is money, there is Hearn. Where there is Hearn, money follows.

金があるところにハーンあり。ハーンを見かけたら、そこで大きなカネが動いているということだ。

彼の傲慢な言葉は、その通りです。

しかし、彼の行動は常に物議を醸し出してきました。

今回はアムネスティ・インターナショナルからハーンとマッチルーム宛に抗議文が送られたのです。

「著名なジャーナリストであるジャマル・カショギ氏を残酷な方法で暗殺したこと。小国イエメンを空爆して多くの市民の生命を奪ったこと。それ以外にも数え切れない人権侵害や戦争犯罪を犯しながら、全てを無かったことにしているのがサウジアラビアという国。ここで大きなイベントを行うことは、彼らの姿勢を肯定することに他ならない」。

日本で考えると招致能力はないでしょうが、北朝鮮でプロ野球やJリーグの試合を行うようなものでしょう。

もちろん、スポーツに政治を持ち込むことは厳禁です。しかし、人権侵害を平然と続ける国で大きなスポーツイベントを開催するのは控えなければなりません。

大きなスポーツイベントは世界と自国民の目をそらせます。

1974年の「ジャングルの決闘 」 “Rumble in the Jungle” は、悪名高い独裁者モブツ大統領が支配するザイールで行われています。

それでも45年経った今も、人権を踏みにじる国家でゴングが鳴ったあのイベントはボクシング史上に燦然と輝く偉大な試合としてスポーツの枠を超えて記憶されているだけです。

「モハメド・アリvsジョージ・フォアマンはザイールの圧政を敷く独裁者の国威発揚に利用された。あんなことは2度と繰り返してはいけない」とは誰も言いません。

巨額のカネが動くとき、深刻な人権侵害は当たり前のように看過されます。「人命は地球より重い」という言葉よりも空虚な言葉が他にないことは、物心ついた子供でも理解できるでしょう。

ハーンが明らかな国家レベルで人権侵害と戦争犯罪を犯しているサウジアラビアと取引したことを非難する人はほとんどいない。

それどころか「その仕事に一枚噛ませてくれないか?」という輩が、ハーンの前に列を作っている有様だ。

ハーンはアムネスティからの抗議文を見ていないのか得意満面。

「この試合は世界中から引く手あまただったが、ボクシングの未来を考えてサウジアラビアを選んだ。F1にヨーロッパ・ゴルフツアー、イタリア・スーパーカップ、WWE…この国で開催されたスポーツのビッグイベントに並ぶか凌駕するメガイベントになるのは間違いない」。

「全世界がこのファイトを注目することになる!」。

自信に満ち溢れたハーンには申し訳ありませんが、世界中は見ません。ボクシングと誇大広告は切っても切り離せない関係ですが、それにしても「世界中」はあり得ないのです。

確かにDAZNはこの試合を世界に配信するでしょう。 

しかし、試合開始は米国では西海岸では午前1時半。東海岸では午前4時半。みんなベッドの中で夢を見てる時間です。誰もボクシングなんて見ません。

マニアは寝ないでゴングを待つかもしれませんが、もし東海岸ゴールデンタイムで配信していたら前回の興奮を憶えているファンもまた見たいと思うでしょう。

もしかしたら一般のスポーツファンでも見ようとしてくれるかもしれません。

でも「砂漠の激突」ではなく「真夜中の激突」になったことで、誰も見ないといっても過言ではない状況です。

さらに11月7日というカレンダーも米国を無視しています。

ボクシングとは違うメジャースポーツの大学アメリカンフットボール選手権が同じ日に開催。

NBAはその夜に5試合が、NHLに至ってはスタンレイ杯を賭けたトロント・メイプルリーフとセントルイス・ブルースが対決する大試合もあるのです。 

ジョシュアもルイスも米国では無名です。米国のスポーツファンがなんとか名前を搾り出せるのは、マニー・パッキャオとフロイド・メイウェザー、そしてシルベスター・スタローンとテカテビールのCMで共演しているカネロ・アルバレスくらいです。

ジョシュアの顔写真を見せたら多くの人がNBAかNFLの控え選手じゃないか?と答えるかもしれません。

もちろん、ボクシングメディアだけでもサウジアラビア開催を批判する声が上がっているのは最悪の話ではありません。

最悪は無視されることです。「WBSSの試合が米国無視の時間帯だ」と文句をいうボクシングファンはいません。WBSSはスポーツファンはおろか、ボクシングファンでも知らない人が大多数でしょう。

It’s gonna be on my terms… on our terms. We’re gonna bring it back here in the United States.

そして、日本時間で今日になってルイスが「主導権はこっちにある。再戦は米国でやることになる」とインスタグラムに書き込みました。
 
ルイスは昨年からアル・ヘイモンのプロモート下に入り、レオナルド・エルベもアドバイザーに名前を連ねています。

ハーンが新進気鋭、傍若無人の若き開拓者なら、ヘイモンとエルベは魑魅魍魎のボクシング界に巣食う代表的な悪霊です。

ハーンに大恥をかかせたい気持ちは半端じゃないでしょう。

ジョシュアvsルイスが砂上の楼閣、蜃気楼だったなんてことは十分起こり得そうな気配です。