マニー・パッキャオは、ボクシング界では至上のビッグネームです。

日本のボクシングファンで彼のことを知らない人がいるとしたら、日本人ボクサーにしか興味がないからでしょう。それでも、その名前は聞いたことがあるはずです。

リング誌やESPNでも彼は A demigod (ほとんど神)、A cultural icon(スポーツを超えた社会的英雄)、The greatest offensive fighter ever(史上最高の攻撃型ボクサー)、The fastest hands in the world (世界最速の拳)、The greatest of all greats(史上最高のボクサー)と最高級の表現で賞賛されてきました。

過去形で書きましたが、最近はまた息を吹き返しつつありますね、有名アナウンサーのマックス・ケラーマンらパック信者らが活動を始めました(私は信者ではなくマニアです)。
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どこの国でも、刑務所に収監された囚人たちが見れるテレビや聞けるラジオは制限されています。

特にスポーツ中継は囚人たちを興奮させてしまう危険があり、慎重に扱われています。しかし、フィリピンでのパッキャオの試合は例外中の例外です。=画像はマニラ南部マカティ・シティの刑務所でパッキャオの試合をテレビ観戦する囚人たち。

フィリピンでのパッキャオの存在はA demigod、A cultural icon という表現に誇張はありません。しかし、それは地球的には非常に局地的な事象に過ぎず、米国では「有名人」かどうかも微妙なラインです。


フィリピンを訪問取材したレノックス・ルイスは「パッキャオの存在感は英国や米国におけるモハメド・アリを遥かに凌駕する。ノーベル平和賞のネルソン・マンデラとしか比肩できない」と現地の英雄ぶりに驚き「米国でも外国人がメガファイトでAサイドのメインを張るなんてロベルト・デュランでも不可能だった。フィリピンの小さな青年は米国で最も有名なアスリートの1人になった」と絶賛しました。

辛口の歴史家バート・シュガー(1936 – 2012)ですら2009年にパッキャオがミゲール・コットを圧倒して史上初の7階級制覇に成功した後に、歴代PFP最高になると語っています。

Pacman have already be the greatest left-handed fighter ever . He should be easily the best ever. パックマンは(コット戦前の段階で)史上最高のサウスポーだった。(そしてこの試合結果で)史上最高のボクサーと考えるべきだろう。

「オンタイムの熱狂の中では誰も冷静な判断は下せない」。私がボクシングを見はじめてからでもマイク・タイソンやロイ・ジョーンズJr.が「史上最高」と騒がれました。

ただ、タイソンとロイの場合はその大喧騒の中でも「本物の強豪には1人も勝っていない」という批判は常について回っていましたが、パッキャオのケースは「本物の強豪に何人も勝っている」という点で先輩の2人とは一線を画していました。
それが、錯覚を増長しやすい厄介な伏線にもなっているのですが。

しかし、そうだとしても冷静に考えたらパッキャオと互角の戦いを繰り広げたエリック・モラレスとファン・マヌエル・マルケスが歴代2位、3位にランクしてもおかしくないはずですが、信者たちはそういう発想は持ちません。

信者たちはシュガー・レイ・ロビンソンやヘンリー・アームストロング、モハメド・アリを抜いたパッキャオの後には、彼らの名前が続くPFPリストを欲しがるのです。

それらは全て個人の主観で、妄想です。



Is Manny Pacquiao the Most Popular athlete in the world?


では、知名度は?レノックスが感動したように「ネルソン・マンデラ級」なのでしょうか?

「パッキャオは米国で最も有名なアスリートの1人」。これなら差し支えない気もしますが、それでも間違いです。

たとえそれが one of them という婉曲表現だとしてもとんでもない間違いなのです。

現在、米国でのボクシングは完全マイナー競技です。日本で例えると、スポーツファンに「カバディの現役選手を挙げろ」と問われて、1人でも思いつく人がいるでしょうか?テコンドーならいますか?フットサルなら1人くらいはいますか?

「テコンドー界では知らない人がいない生ける伝説だから、日本で最も有名なアスリートの1人」というのはロジックが破綻しています。リング誌などの読者投稿欄で「パッキャオは世界一有名なアスリート」と勘違いしている人々の理屈も同じです。

それでも彼らは「フォーブスのスポーツ長者番付の常連なんだから有名でないとおかしい!」と言い張ります。

そう思うかもしれませんが、残念ながら国民のほとんどがトランプ脳以下の米国ではフォーブスなんて誰も読みませんし、そもそも多くの人がフォーブスも知りません。

フロイド・メイウェザーJr.は自国開催のアトランタ五輪メダリストですから、その一点で知名度はパッキャオを上回りますが、やはり「最も有名なアスリートの1人」と表現するのは微妙です。
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2010年、パッキャオの全盛期にその伝記本が27週連続でニューヨークタイムス紙のベストセラーリストにアップされ続けました。

そして、紙面の記事で「Yahooの検索件数2009年でタイガー・ウッズを上回った」の見出しでアスリートの検索件数(アスリート1位は世界陸上で驚異的な記録を出したウサイン・ボルトが1位でパッキャオはリオネル・メッシやナスカーのドライバーらの後塵を排する9位)を発表。

ニューヨークタイムズのベストセラーに4ヶ月もリストアップされた伝記の主人公が有名じゃないわけがないーーーそんなわけがないことは読売新聞のベストセラー欄なんて注意したこともない、そもそも存在も知らない私たちならよく理解できるしょう。

Yahooの検索件数をパブリシティ的に記事にしたのは、明らかに意図があることです。「トランプが泡沫候補だという10の理由」を記事にしたように。

ニューヨークタイムスはトランプが怒るような「フェイクニュース」ではありませんが、事実を組み合わせて読者を意図的にミスリードさせることは珍しくありません。

彼らエスタブリッシュメントにとって、トランプが大統領になるのは絶対回避しなければならなかったのはわかりますが。

ちなみにニューヨークタイムスは地方新聞で米国での影響度(販売部数:平日休日平均約60万部)は、読売(約800万部)の10分の1にも過ぎません。


こうした誤解やメディアのミスリードが起きる原因は、現実にボクシングがメジャー競技だった時代があったことでしょう。

ボクシングと競馬と野球が、米国の三大スポーツだった時代は1950年代まで続きました。全体市場は60年代になって陰りを見せはじめますが、その影を吹っ飛ばすに余りあるモハメド・アリの登場でボクシングが斜陽産業であることが実感できなかったのでしょう。

アリは世界で飛び抜けて最も有名で、圧倒的に最も稼ぎ、ボクシングの枠を超えて最も人騒がせなアスリートでした。それでも、アリの時代にクローズドサーキットが常態化、ファンの囲い込みとボクシングのブラックボックス化は着々と進行していました。

Davie-Brown Index が2010年に実施した認知度調査=celebrity attitudes & name recognition(セレブとしてのポジションと知名度)=でパッキャオは女子バスケのタミカ・キャッチングスとプロゴルファーのY.E.ヤングの間にランキングされました。

キャッチングスもヤングも米国ではほとんど無名のアスリートです。
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また、昨年ESPNが「過去20年間で世界を支配したアスリート20人」を選出。パッキャオは19位、メイウェザーは8位にランクされましたが、2人は「いくら稼いだか」と「当該スポーツでどれだけ傑出したか」の二点で大きくポイントを稼いだからで「知名度」はブービーと最下位でした。

あの雑誌を見た人でメイパックを純粋想起はできなくても「2015年に3億ドルを分け合ったボクサーか。PPVが高額だから再放送で見たけど面白くなかったなあ」と思い出す人もいたかもしれません。

しかし、2015年もボクシングに関心のなかった大多数や、若いスポーツファンは「すごく稼いでいるけど誰だ?」というリアクションしかできなかった筈です。

ちなみに1位からタイガー・ウッズ、レブロン・ジェームス、ペイトン・マニング、ジミー・ジョンソン、ロジャー・フェデラー、アニカ・ソレンスタム、ミハエル・シューマッハー、マネー、マリタ、ウサイン・ボルト、リオネル・メッシ、セリーナ・ウィリアムス、ローレン・ジャクソン、クリスティアーノ・ロナウド、ノバク・ジョコビッチ、アリソン・フェリックス、バリー・ボンズ、マイク・トラウト、パックマン、トム・ブラディとなっています。

米国のスポーツファンならマネーとパックマン以外の18名は認知度が非常に高いアスリートですので、全員知っているでしょう。ただ、日本のスポーツファンは青字のアスリートなんて「誰?」って世界かもしれません。

ボクシングファンにとってパックメイなんてド忘れすることもないビッグネームですが、ほとんどのスポーツファンは知りませんし、スポーツファンでなければ99%知りません。

そう考えると、日本で亀田兄弟はいまだに最も有名なボクサーかもしれません。現役では村田諒太になっちゃいますかね。

井岡一翔は東西の認知度の差が結構激しい気がします。田中恒成も中京エリアの認知度は相当に高そうです。

余談ですが学生時代、名古屋遠征で新幹線の駅に降りたときニューススタンドのスポーツ新聞や夕刊紙が揃って大きな文字で「立浪」と書いてあるのが目に飛び込んできて「え!立浪に何かあったのか」と思わず買ってしまったことがありました。もちろん、そこには「豪邸を買った。坪数と間取りは…」とくだらないことしか書いてませんでした。

名古屋では立浪が家を買ったら一面なんです。「家くらいゆっくり買わしたれや」と思いますが有名税ですね。

立浪ほどじゃないにしても恒成の知名度も名古屋と東京では全く違いそうです。

井上尚弥はボクシングファンを超えて、一般スポーツファンにも徐々に知られるようになっている段階でしょうか。

米国での知名度となると、日本では一挙手一投足が連日報道される大谷翔平ですらオールスターファン投票で落選するレベルです。アナハイムというローカルチームのせいもありますが、もっともっと打ちまくって欲しいですね。

まー、パックメイでも破格の収入で「有名人」の仲間入りが許される有様です。

収入が4桁(5桁?)少ない軽量級ボクサーが米国はもちろん、米国ボクシング界限定でも一旗上げる、人気者になるのはまず不可能です。 
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週刊なので速報性も嬉しい英国ボクシングニューズ誌ですが、こういう記事を読んでしまうとロンドンもフィリピン並みにパッキャオ一色だろ!?と思い込んでしまいますが、それは間違いなのです!