いよいよあと1週間を切ったIBF世界ウェルター級タイトルマッチ。

王者エロール・スペンスJr.に、マイキー・ガルシアが挑むメガファイトです。

舞台はNFLダラス・カウボーイズの本拠地AT&Tスタジアム。

2010年に、マニー・パッキャオがジョシュア・クロッティとアントニオ・マルガリートを相手に巨人狩りをした、あの巨大スタジアムです(2016年にカネロ・アルバレスがリーアム・スミスの脇腹を抉ったのもこのスタジアムでした)。

リング誌PFPで7位のマイキーと10位のスペンスが激突するPFP対決には、IBFだけでなくWBCダイアモンドベルトもステイクされ、FOXがPPVで生中継します。

マイキーとガルシア、二人ともにPPVデビュー、販売件数がどこまで伸びるかも注目ですが、ファンとメディアの関心を最も集めているのは二人の体格差でしょう。

かつて同じリングでパックマンが易々とやってのけた巨人狩りには及ばないものの、生粋のウェルター級であるスペンスの身長177㎝/リーチ183㎝に対して、フェザー級上がりのマイキーは168㎝/173㎝。

その体格差は明らかです。

戦前の予想も「階級を上げるにつれてパワーが低減しているマイキーに、ウェルター級最強のスペンスは荷が重すぎる」と王者の防衛を推す声が圧倒的。

オッズも王者勝利が2/7(1.28倍)、挑戦者13/5(3.6倍)。

ボクシング史上、パッキャオとファン・マヌエル・マルケスの二人しか達成していない「フェザー、ジュニアライト、ライト、ジュニアウェルターの〝難関〟4階級制覇」という超エリートクラブに〝入会〟したマイキーですが、キャリア初の圧倒的不利予想でリングインすることになります。

もちろん、この試合は「生粋ウェルターvsフェザー級」という図式に当てはまりません。

そのことは、デラホーヤvsパッキャオを「ジュニアミドルvsフライ級」と見誤ったメディアとファンはよく理解しています。

さらに、マイキー陣営はこの一戦に強力なスタッフを招聘しました。

〝ドーピング・グル〟として知られるビクター・コンテです。

これまでにも多くのボクサーが「怪しく特異な専門家の指導」を仰いできました。

1939年、ヘビー級の世界ランカーだったルー・ノバは、ニューヨークの医師ピエール・バーナード博士からヨガの呼吸法を学び、宇宙とシンクロした「コスミック・パンチ」は多くの人々の耳目を集めました。

しかし、コスミック・パンチを習得したノバでもジョー・ルイスやトニー・ガレントには粉砕されてしまいます。

それでも、ノバは生涯、ヨガを信奉し続けました。

また、1970年から3年間、ケン・ノートンは催眠術の大家マイケル・ディーンを雇い、精神面の強化を図りました。

その催眠術がどこまで効果があったのかは定かではありませんが、ノートンはモハメド・アリを相手に歴史に残る大番狂わせを起こすのです。

ディーンとは金銭面で揉め、ノートンは催眠術師を解雇しましたが、数年後にナイトクラブで催眠術を処方していたアーサー・エレンを雇います。

エレンは様々な〝ポジティブ・シンキング〟の方法を彼に植え付け、ノートンは殿堂入りを果たすボクサーになりました。

今回のマイキーと酷似しているのが、マイケル・スピンクスです。

1985年、ロッキー・マルシアノの49戦全勝にあと「1」に迫った長期安定王者ラリー・ホームズに挑戦するにあたり、スピンクスは無名のフィットネスコーチ、マッキー・シルストーンの指導を仰ぎます。

「優秀なライトヘビー級は平凡なヘビー級に駆逐される」と信じられ、ヘビー級を制したライトヘビー級王者はただの一人も存在していなかった時代です。

シルストーンのトレーニングで、効果的にバルクアップしたスピンクスはライトヘビー(175ポンド)から200ポンドへの増量に成功「体重がこんなに増えたのにスピードは全く落ちていない」と語りましたが、その言葉を信じる人はほとんどいませんでした。

そして、1985年9月21日、ラスベガスのリビエラホテル&カジノの屋外特設リングで、スピンクスの言葉が嘘ではなかったことに世界中の人々が度肝を抜かれるのでした。

シルストーンの名は世界に轟き、MLB(オジー・スミスら)やテニス(セリーナ・ウィリアムスら)スポーツ界だけでなく、ジョン・グッドマンら俳優女優のクライアントも殺到しました。
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もちろん、ボクシングでも2003年のロイ・ジョーンズのヘビー級王座(vsジョン・ルイス)挑戦、2006年のバーナード・ホプキンスのライトヘビー級王座(アントニオ・ターバー)挑戦など、歴史に残る階級超えをサポート、昨年10月にはワシル・ロマチェンコもその指導を受けています。


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今なおウェイトトレーニングを否定する傾向もあるボクシング界は、自分の体重を使った腹筋や腕立て伏せなどに「コンバットブーツで砂浜を走る」「斧で薪を割る」という〝オールドスクール〟が幅を利かせている、特殊なスポーツです。

その一方で、シルストーンのフィットネスや、サプリメントのコンテと、先進的な異文化を積極的に吸収する気鋭の精神も持ち合わせています。

対極の二面性を併せ持つのは、ボクシングの魅力の一つです。

オールドスクールと異文化吸収、 どちらが好きかと聞かれたら…答えに迷ってしまいます。

どちらも、このスポーツ独特の特徴的なカラーです。

しかし、もしかしたらこの二つは対極ではなく、光と影、コインの表裏のように実は隣り合わせ、同じ一枚なのなのかもしれません。

どちらが光でどちらが影か。どちらが表で、どちらが裏か。

一筋縄で答えが出るような、単純なものではありません。