カテゴリ: 世界最強の女

自分が負けるのは耐えられる。自分の責任だから。何を言われても自分で受け止めればいい。

それでも、自分のせいで仲間が負ける、獲れたはずのメダルをんオガしてしまうのは、耐えることのできない。



2022年の北京冬季五輪。高梨沙羅はスーツの規定違反で失格、取り返しのつかないことをしてしまったと号泣した。

しかし、人々がスポーツに惹きつけられるのは、悪魔が大きく口を開けたその上を、アスリートが飛んでいくからだ。

魔物が棲んでいない大舞台など存在しない。ましてや、それがオリンピックなら、最凶の魔物が4年間も牙を研いで待っているのだ。



彼女が何者であるか、日本のスポーツファンはみんな知っていたのに、もう忘れている人もいる。

スキージャンプ・ワールドカップで男女通じて史上最多の63勝、男女通じて史上最多の表彰台113回、女子市場最多のシーズン個人総合優勝4回。2017年にはスキー界で最も権威ある賞の一つであるホルメンコーレン・メダルまで贈られた、生きる伝説そのものだ。

レギュレーションの変更に引き金をひかれた長いスランプ、29歳の高梨が再びかつてと同じ世界を照らすような輝きを取り戻すことは、もうない。そのことは、飛んでいる本人が最もわかっていることかもしれない。

それなのに、彼女はなぜ飛ぶのか。



ミラノ・コルティナ五輪ノルディックスキー・ジャンプ混合団体・決勝 2月10日〜プレダッツォ・ジャンプ競技場


4年前の悪夢の種目。

日本は丸山希、小林陵侑、高梨沙羅、二階堂蓮の布陣をスタート台に並べた。

全員がメダリストという最強のメンバーは、4年前にするりとこぼれ落ちた銅メダルを獲得してみせた。

競技中、ずっと穏やかな笑みを浮かべていた高梨はどんな胸中だったのか、もはや誰も想像もできない。

しかし、4年前の団体戦でともに戦いながら、今回のメンバーに入れなかった伊藤有希に抱きしめられると、ついに涙がこぼれた。20秒以上もハグは解けなかった。

何度も高梨の頭をなでつづけた伊藤は、どんな言葉をかけていたのかはわからない。



涙を拭いた高梨はマイクを向けられると「みんなのおかげです」力強く語った。

そして「有希さん、幸椰さん」と4年前のメンバーの佐藤幸椰の名前も口にし「本当に一緒に飛んでくれた仲間、日本チームのみなさんのおかげで練習、個人戦以上にいいジャンプができた」と感謝した。  

4年前とは違う涙。

「毎回チーム戦となると、足を引っ張ってしまう試合が多く、団体戦の苦手意識が、硬くなって自分のジャンプができないことが続いていて選ばれたときは自信もなくて、コーチに相談したこともあったが、トレーニングで自信を持って試合に臨めて、自分だけの力だけじゃなくまわりのみなさんの支えもあって、メダルも取れて本当に感動しました」。



このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

スクリーンショット 2026-02-09 23.07.00


リング誌3月号は、97界目を数えるリング誌表彰の特集号。

表紙は史上最高のスイッチヒッター、テレンス・クロフォード。

日本人がらみでは、KO of The Yearに〝選ばれてしまった〟佐々木尽(vsブライアン・ノーマン)。Trainer of The Year に井上真吾。Round of The Year に堤聖也vs比嘉大吾の第9ラウンド。

そして、そして、FEMALE FIGHTER OF THE YEAR に輝いた晝田瑞希が6ページにわたって大きく特集。

2023年に井上尚弥が受賞したとき、特集号が発行されるはずの2024年は残念ながら休刊状態。

しかし、潤沢なオイルチャージを受けたサウジ版リング誌は29歳の日本人ファイターをしっかりフィーチャー。


スクリーンショット 2026-02-09 23.23.34


東京五輪の金メダリスト、入江聖奈に敗れてプロに転向。ここまで、10戦全勝2KO。

昨年はWBOジュニアバンタム級のタイトルを4度防衛、井上と同じように戦うチャンピオンとしての存在感を示しました。

ロスアンゼルスを拠点に活動、「私だってスーパースターになりたい」とドジャースの大谷翔平や山本由伸らへのライバル心も隠さないファイターです。

米国では女子ボクシングへの注目度がじわじわ上がっています。

「統一したい、階級を上げて注目されたい」という願いを叶える、ビッグファイトをいつの日か!
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

WBA /IBF /WBOジュニアフライ級王者イベリン・ベルムデス、WBA /WBCジュニアウエルター級王者ミカエラ・メイヤー、WBC /IBF /WBOジュニアフェザー級王者エリー・スコットニー、IBF /WBOジュニアウエルター級王者ケイティ・テイラー、とんでもないビッグネームを向こうに回してリング誌/WBOジュニアバンタム級王者晝田〝MIMI〟瑞希がリング誌のFemale Fighter of the Year に選出されました。

MIMIはリング誌PFPランキングには数えられていません。しかし、2025年シーズンはロスアンゼルスで4試合の世界戦を戦い、ほぼ完璧な内容で全勝。

ロスといえば、NFLでもNBAでもなくMLBのドジャースが圧倒的な存在感を見せています。そして、29歳の日本人ファイターは恐れ多くも彼らへのライバル心を隠そうとしません。

“I admire them, but I cannot just admire them.I have to be like them. They showed that we can go there.” 

もちろん、彼らを尊敬しているけど、それだけじゃいけないのもわかってる。私も彼らのようにならなきゃいけない。彼らは(日本人でも)そこへ行けるんだということを教えてくれたんだから。

「彼ら」とは、大谷翔平や、同郷(岡山)の山本由伸のこと。

このブログでも仕事関係で付き合いのある米国人らで「大谷を知らない普通の米国人は掃いて捨てるほどいる」と書いてきましたが、ロスでのドジャースのステイタスと、ポストシーズンの全米での注目度は日本にいる私の想像以上でした。

晝田はそれをもっと強烈に感じていたでしょう。





"I don't think I'm recognized very well, and then to have that, I have to unify titles and also move up the divisions, so that way I can be a superstar. I want to be a superstar." 

まだまだ無名なのはわかってる。名前を売るためにはタイトルを統一、階級も上げなきゃいけない。その先にスーパースターの座が待っているはず。私はスーパースターになりたいんだ。

ライバルに恵まれれば、専門メディアから飛び出た人気を獲得できるかもしれませんが、それでもユニコーンの領域は遠すぎる…いやいや、そんなこと言ってはいけません。

MIMI、スーパースターになるまで戻ってくるな!!!




このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

彼女は北海道中川郡幕別町で1994年5月22日に生まれた。

私の娘と全く同じ誕生日なので、彼女の誕生日も忘れることはない。





きょう長野市エムウェーブで行われた全日本距離別選手権最終日。

彼女は1500メートルで10年連続10度目の優勝を果たした。


あと100日に迫ったミラノ・コルティナ五輪へ向けて、彼女は両足のブレードを研いでいる。


それにしても。

どうして、彼女は挑戦するんだろう、挑戦し続けるのだろう?

彼女が氷の上に残した忘れ物など何もないはずだというのに。

いまさら、何を証明しようとしているのか?

スクリーンショット 2025-10-26 20.13.23

不吉なことを言うつもりはないが、彼女はイタリアで失望の涙を流す。



「一筋縄ではいかないんだろうなという感じがある。めげずに向き合っていきたい」という彼女の言葉は、世界で戦うパフォーマンスが出せない現状を自覚しての本音だろう。

「1500mの金メダル」ではない。

また「死に場所を探している」というのでもない。



高木美帆はロベルト・デュランやマニー・パッキャオのような純度100%のファイターなのだ。


往生際の悪いファイターほど面倒なアスリートはいない。

ハッピーエンドではない最後が待ち構えているのをわかっていながら、私たちは応援し続けるしかないのだから。


このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

国を背負って戦うとき、アスリートが特別な重圧を背負うのは当たり前だ。

そのどうしようもなく、悲しくなるほど大きくて重い期待を一身に背負うアスリートが、ときとして現れる。




◾️1984年のロスアンゼルス。

当時、日本列島は今では考えられないほどのマラソン人気に沸いていた。

フランク・ショーターやビル・ロジャース、ワルデマル・チェルピンスキー、ジュマ・イカンガー、ロバート・ド・キャステラ、アルベルト・サラザールらは、マイク・トラウトやアーロン・ジャッジよりもスポーツファンに知られたトップアスリートの名前だった。

当時、日本から見る景色で最も近くて最も輝いていた「世界」はマラソンだった時代。

日本スポーツ史上、最も大きな期待をかけられた瀬古利彦は最後の力を振り絞ってゴールすると、ロサンゼルス・スタジアムの曇り空を茫然と見上げた。




◾️1994年のリレハンメル。

平成の日の丸飛行隊は優勝候補の筆頭だった。その通りにシナリオは進み、最終ジャンパーが飛ぶ前に2位とは大差がついていた。

嘘みたいな失速ジャンプだった。

両手で顔を覆ってその場に崩れたままのビッグジャンパーに仲間たちが駆け寄って、抱き起こした。ようやく見えた男の顔は、きっと号泣していると思ったら、笑っていた。

4年後に、リレハンメルがまるでドラマの演出だったかのような大ジャンプで金メダルの立役者となったが、そのときは最終ジャンパーの名前を祈るように絞り出し嗚咽していた。

彼は、どれほどの重圧と戦っていたのだろうか。




◾️1996年のアトランタ。

試合後の記者会見場は屋内のはずなのに、彼女の前髪は、風に揺れていた。

窓が開いて風が抜けているのか、空調の風なのかはわからなかったが、彼女にだけ柔らかい風が吹いているようだった。

試合終了のブザーが鳴ると、アトランタに敷かれた畳の上に座り込んだまま、彼女はしばらく動けなかった。

「世界で2番目です。胸を張って日本に帰って来て、美しいメダルを見せて下さい」。そんな言葉は、1億2000万人の誰も口に出来なかった。

それほどまでに、田村亮子は強かったのだ。





◾️2004年のアテネ。

多くのブックメーカーの金メダル予想は「日本が獲れるのは一つだけ」だった。

戦前予想は芳しくなかった…というよりもそのたった一つの金メダルは、世界中の誰の目から見ても鉄板だったのだ。

賭け屋の見る目の無さを笑うように、田村亮子や室伏広治、野口みずきらが、なんと16個もの金メダルを五輪発祥の地で奪い獲ってみせた。

そして、賭け屋の予想が当たっていたなら、日本は17個の金メダルを獲っていたはずだったのに。賭け屋の大馬鹿者どもの予想は、何一つ当たらなかったのだ。

ーーーあの井上康生が背負い投げで沈められ、敗者復活戦でも大内刈りを返されて一本負けしたその光景は、誰も信じられなかった。


0d700-17230428391142-1920.jpg

パリの天空に大放物線を描いた彼女の槍は、東京で力無く落ちた。

チケットの売れ方を見れば一目瞭然、この大会は世界女王の凱旋だった。

笑顔の内側にどれほどの重圧が沈澱していたことか。

世界最高峰の舞台…五輪や世界陸上、ダイアモンドリーグ…そのセンターポールに日の丸を何度も掲揚してくれた英雄が、世界でやってのけたことを日本でも見せてくれるはずだと日本中が待ち焦がれていた。

しかし、直前の国際大会を見ても女王が本調子でないのは明らかで、それよりもなによりも、世界最強の右腕は深刻な故障を抱えていた。

怪我を治すために大会をパスするーーーそんな選択肢は最初からなかった。

それでも、彼女は助走路に立った。その時点で、彼女は敗者ではない。

彼女が現役のうちに、東京で大きな世界大会が開催されることはないだろう。

それでも、ゆっくり怪我を治して彼女が戻ってきたら、私たちはまた、彼女が世界中の空に描く大きな放物線を見上げているはずだ。

「外弁慶な女やなあ」と、少し笑いながら。




このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

World Athletics Championships

普通に訳すと「陸上競技世界選手権」です。

これを「世界陸上」と訳したのは、名訳です。

「世界陸上」だけでは本来、何のことやらわからなかったはずですが、それが「陸上競技世界選手権」であることを、日本のスポーツファンなら誰でも知っています。

記念すべき第1回大会は、1983年に陸上競技が盛んなフィンランドの首都ヘルシンキで開催。

ロス五輪の前年に旗揚げされた世界陸上は、カール・ルイスのお披露目会でした。

FullSizeRender

カール・ルイス。

40年以上が経った今なお、日本で最も有名な外国人の陸上競技選手かもしれません。

IMG_3205
伝説になりました。

FullSizeRender
星を見てね、自分だけの星を探していたんです。

トップアスリートの孤高の香りが漂う名言ですが、室伏広治ってこんな言葉口にしてましたっけ…?


秋らしくなってはきましたが、今週末は相当に熱いですなぁ。

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

全米オープンがいよいよクライマックスに突入します。

ベスト4の優勝オッズは、女王アニカ・サバレンカがEVS(2倍)。

準決勝でサバレンカと対戦するのがジェシカ・ペグラで8/1(9倍)。

そして、大坂なおみが5/2(3.5倍)で対戦相手のアマンダ・アニシモワが9/2(5.5倍)。


IMG_3857

ウィリアム・ヒルの見立て通りなら、9月8日の決勝、ビリー・ジーン・ナショナルセンターでサバレンカの前に大坂なおみが立ちはだかっているはずです。
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

ヘビー級は多くの意味で特別なクラスです。

例えば、オールタイムPFPを語るとき。

井上尚弥とエデル・ジョフレ、ウィルフレド・ゴメスを仮想対決させるように、タイソン・フューリーとロッキー・マルシアノを戦わせるのは無理があります。

バンタム級の井上とジョフレ、ジュニアフェザー級の井上とゴメス、前日計量と当日軽量という差はあれども、秤の上では同じ118ポンド、122ポンドです。

IMG_0118 (1)


しかし、190ポンド未満の体重のマルシアノと260ポンドを優に超えるフューリーの無視できないまでのサイズの違いは、妄想の大きな障害となってしまいます。

そして、現代では小兵のオレクサンデル・ウシクですが、過去のほとんどの時代においてその体重だけでなく、身長191㎝もリーチ198㎝もけして見劣りしない堂々たるヘビー級になります。

スクリーンショット 2025-05-27 23.39.24


1973年1月22日、ジョージ・フォアマンが王者ジョー・フレイジャーを破壊した〝キングストンの惨劇〟。

あのときのフォアマンの体重は〝わずか〟217ポンド1/2(98.66kg)、ダニエル・デュボアを轟沈させた先月のウシク(227ポンド1/4=103.1kg)より約10ポンドも軽かったのです。

そして「サウスポーはヘビー級王者になれない」というジンクスはマイケル・モーラーが1994年4月22日にイベンダー・ホリフィールドに勝利して溶解されますが、過去のグレートたちはサウスポーとの対戦経験が乏しく、仮想対決で対峙するウシクはまさにジンクスとなって彼らを蝕むことになるはずです。

さてさて、そんな前置きを踏まえて、続きます。

rocky-m-title-770x628


【VS ロッキー・マルシアノ】

ANBER’S INSIGHT…エンジンのかかりが遅いマルシアノは、テンポの速い12ラウンド制は不向き。

それでも、あの勝負強さはウシクにとっても脅威になるだろうが、自在にパンチの角度を操るサウスポーはマルシアノでもコントロールできない。

MY VERDICT…過大評価と過小評価が渦巻く伝説のヘビー級、マルシアノは49戦全勝の記録を打ち立てた。

ウシクが同じ偉業を達成できるか?私の見立てはYES。ただ、マルシアノの勝負根性は別格、ウシクは苦戦を強いられるだろう。



image


【VS ソニー・リストン】

ANBER’S INSIGHT…全盛期のリストンは史上最強と恐れられたが、ウシクならモハメド・アリと同じことをやってのけるだろう。

ただし、ウシクがリストンとの打撃戦に応じる色気を見せたら、KOされる。

MY VERDICT…全く勝敗予想がつかない。

60年代ヘビー級のトップ選手の何人かは、ウシク相手でも勝機がある。リストンもその1人だが、ウクライナ人の精神力とスタミナに中盤以降で振り落とされるのではないか。




スクリーンショット 2020-06-03 23.50.35

【VS モハメド・アリ】

ANBER’S INSIGHT…スタイルを考えると、ウシクにとってアリは悪夢だ。

ウシクにハートの強さで勝てるファイターは全時代を通してもほとんどいないが、アリはそんな稀有の1人。

ウシクはテクニックだけでなく、ハートでも初めて翻弄されることになる。

これは、兵役拒否で大きなブランクを作ってしまう前の全盛期のアリだったら。全盛期のアリには誰も勝てない。それほど卓越したヘビー級だった。


MY VERDICT…全盛期のアリならウシクをポイントアウトするだろう。

1970年代の劣化版アリの場合は、アリがどれだけ真剣に練習して試合に臨むかにかかっているが、僅差でウシクに競り勝つのではないか。

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

Friday 11, July 2025

Madison Square Garden, New York, New York
commission:New York State Athletic Commission
event name:Taylor vs. Serrano 3
promoter:Nakisa Bidarian (Most Valuable Promotions),
      Jake Paul (Most Valuable Promotions)
matchmaker:Mike Leanardi
media:Netflix






初戦は2022年4月30日のマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)のスポーツアリーナでメイン。ボクシングを超えて大きな話題となりました。

再戦は、ジェイク・ポールとマイク・タイソンのセミファイナルながら、テキサス州ダラスのAT&Tスタジアム(カウボーイズ・スタジアム)。

そして、明日ゴングが打ち鳴らされる第3戦は再びMSGで、なんとアンダーカードも含めて全て女子の試合。

同じ日に同じNYで行われるシャクール・スティーブンソンらのイベントがテニスコートがキャパ1万4000ですから、完全に女子ボクシングに飲まれてしまいました。

アイルランドのテイラーと、プエルトリコのアマンダ。東海岸にファンベースを持つ血統と、生粋のファイター・スタイル。人気を集めるのも頷けます。

男子と比較すると、全体の市場規模は比べようもなく小さいものの、ワシル・ロマチェンコやゲンナジー・ゴロフキンでもシアターが精一杯、スポーツアリーナはチケット販売が見込まれず上階席封鎖したMSGで、女子ファイターが堂々のメインを張るのです。

フォーブス誌が指摘しているように「男子は完全に衰退した米国ボクシングでも、女子はサッカーのようにメジャーの扉を開く可能性がある」という、The Beginning。

冗談でもなんでもなく、井上尚弥ら米国で名前を知ってもらいたいなら、彼女たちや、カネロ・アルバレスのアンダーカードに出場するのが近道です。

5月の欺瞞のTモバは、米国へ向けたものではなく、日本に向けた〝フェイク〟だったから、後に繋がらない「あの大失敗興行はなんだったのか?」で終わってしまいました。

女子ボクシングと軽量級、米国でも偏見の目が向けられることが多い〝種目〟のミックス興行、悪い発想ではありません。



それにしても。

新時代の扉を開くメガイベント「Taylor vs. Serrano 3」を、男子ボクシング衰退の象徴であるジェイク・ポールがプロモートするというのも奇妙な因果を感じてしまいます。



このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック


最も八百長が横行しているスポーツは?

答えは「犯罪組織が絡むことが多い八百長は明るみにでていないものが多く、正確な統計がないのでこの質問に答えはない」。

しかし、推測はできる。

頂点と底辺の光と影のギャップが大きなメジャースポーツで、チームごと買収する必要のない個人競技だ。

テニスはその典型で、選手1人を丸め込めば勝敗だけでなくさまざまな八百長を仕込むことができる。

トップに立てばフォーブス誌の眩いWorld’s Highest-Paid Athletes(アスリート長者番付)に名前を刻む大富豪に、底辺に沈殿する選手は1試合で100ポンド(2万円)も稼げないから、あちこちでアルバイトをしなければ生活が成り立たない。


女子テニス協会(WTA)主催の公式トーナメントのうち、最もグレードの低い大会は賞金総額1万5000ドル。シングルスの優勝賞金は2200ドル(約33万円)。

初戦で敗れれば100ドル(約1万5000円)ほどしか手に入らないから、道具代や交通費を差し引くと大きな赤字だ。

そんなときに「八百長で負けたら1000ドル」と耳元で囁かれたら?

「いま特に経済的に厳しいから1回だけなら…」。そんな気持ちはわからないでもないが、闇の世界は一旦足を踏み入れると引き返せない。


もちろん、そんな暗闇から聞こえる声には耳も貸さずに、ひたすら貧窮と戦いながら、歯を食いしばりながら、七転八倒しながら頂点を目指す、往生際の悪いテニスプレイヤーも、少なからず、いる。



A sneak peak inside The All England Lawn Tennis Club



カーソン・ブランスタインはまさに、そんな1人だ。

南カリフォルニア在住のカナダ人女性は24歳。「ガソリン代を払うと食べ物を節約しなければならない」ほど物価の高い米国でテニスプレイヤーを続けることに少しだけ疲れていた。

今年2月にメキシコ・カンクンで行われる大会に向けてトレーニングに励んでいたある日の朝、破産する夢から覚めてベッドから飛び起きると、彼女はあわてて銀行口座を確認した。

「残高は25ドル(約3700円)しかなかった。破産する夢じゃなくて、現実に破産しているようなものよね。全財産が25ドルなんだから。朝から涙があふれて止まらなかった」。

「いい年して変な夢見て、テニスなんてしてる場合じゃない。生活が破綻してしまう」。泣きながら友達に電話して、惨めな自分を曝け出した。

友達も「もうやめなさい。こんなことしてるのはあなただけ。あなたはもう十分頑張ったよ。まだ若いんだしいくらでもやり直せる」と励ましてくれたが、そのとき彼女の中で何かが火花を散らした。

テニスをやめるなんて、絶対に受け入れられない。

どんなに貧乏でもテニスだけはやる、やり続ける。もしかしたら、多くの普通の人から軽蔑されるかもしれないけど、テニスをやめたら心の中のもう1人の私が私を絶対に許さないだろう。

泣くだけ泣いて、涙が出なくなって、カーソンは友達に宣言した。「ありがとう。もう、泣き言はしない。私、テニスはやめないよ、絶対に。私、バカだから、テニスが好きで好きでたまらないんだよ」。

友達は「そうだろうと思ってたよ。あなたからテニスを取ったら何にも残らない」とケラケラと笑った。

両親に話したら無理矢理にでもテニスをやめさせられると思ったから、電話しなかった。友達からお金を借り、Uber Eats の配達員として働いた。



そして。

カーソンはテニスの世界で最も権威のある大会、ウィンブルドンの本戦出場を目指して予選3試合を見事にクリア、伝統のAll England Lawn Tennis and Croquet Clubの芝生の上に立った。

相手は、アリーナ・サバレンカ。世界ランキング1位の絶対女王だ。

ストレート負けの予想とオッズの通りに、カーソンは敗れ去った。

本戦1回戦進出で6万6000ポンド(約1300万円)を獲得したが、悔しい試合だった。


第1セットを1−6で落としたが、第2セットはタイブレークまで喰らいついて5−7で力尽きた。

しかし、スコアが示す通り、どうしようもない惨敗ではない。

あのサバレンカ相手にフルセット直前まで、粘り抜いたのだ。

いかにも彼女らしい、往生際の悪い闘い方だった。

そして、世界は初めてカーソン・ブランスタインを見た。

Had never seen branstine but she’s actually a pretty decent player 
ブランスタインを初めて見たが、かなり素晴らしいプレーヤーだ。

It was a match that showed her way of life.
コートの中に彼女の生き様を見た。




女王に最後まで挑み続けたカーソンの姿は、世界中に感動をふりまいた。

経済的にも、しばらくテニスに集中できるだけの大きなものを手に入れた。

それでも、彼女はただただ悔しかった。

スマホには祝福のメールが溢れていたが、大きなチャンスを逃してしまったと、悔しさだけが募った。

電話で泣きついた友達からもメールが届いていたが、それはお祝いの言葉ではなかった。

しかし、それを見たカーソンはようやくクスッと独り笑いした。そこには、こう書かれていた。


「6万6000ポンドって9万ドル?10万ドル?とにかく、すぐにカネ返しに、戻ってこい!」


このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ