私が、世界のプロボクシングに興味を持った1980年代中盤。

その舞台のど真ん中にはマービン・ハグラーが屹立していました。

「Undisputed Middle weight Champion of the world!」 。リングに上がったハグラーの、なんと猛々しかったことか、なんと格好良かったことか。

あの時、ボクシングはハグラーを中心に回っていました。

傑出した身体能力と、不断の努力によって具現化された、怪物的な黒人の強さに、私たちは戦慄するしかありませんでした。

そして、トレーナーのペトロネリ兄弟との〝仁義〟は「パッキャオとローチの18年」ですら陳腐に見えるほどの筋を通した、あれこそサムライの関係でした。

当時の日本にも優秀なミドル級のプロボクサーはいました。一つ下のジュニアミドルは世界王者を何人も輩出した、日本人にとっては身近な階級です。 

そして、日本人よりも大柄で頑健な肉体でミドル級の名選手を抱えていた韓国を代表する朴鐘八は当時、議論する余地のないアジア最強のミドルとして君臨していました。

その朴が世界ランカー、ベネズエラの怪人フリー・オベラに惨敗したとき、ハグラーが日本人には超えるどころか触ることも許されない壁であることを思い知らされました。

「アジア人じゃ、ダメだ。太刀打ち出来ない」

オベルは1981年5月から1982年8月までの1年3ヶ月で8戦全勝8KOと快進撃を続けます。その犠牲者の一人が朴だったのです。

オベルは1980年11月のジェイムズ・ワーレ戦までもデビューから30戦全勝27KO、未来の世界ミドル級王者を期待された強豪でした。

オベルが31連勝を阻まれた相手。復帰後の破竹の8連勝8KOを止められた相手。どちらも同じ相手でした。(※)

マーベラス・マービン・ハグラー。彼は戸籍上も「マーベラス」をつけたのですが、そんなもの嫌みたらしく付けなくても、マーベラスなのはわかってるっちゅうねん!とイラッとするほどの強さでした。

ミドル級の世界王者がどれだけ気高いか。どれほど強いのか。体の芯まで思い知らされました。

偉大な竹原慎二が、その王座を獲得した時ですら「日本人が勝てるミドル級王者は今夜のホルヘ・カストロ以外は歴史上一人もいない」「竹原は誰と防衛戦を戦っても相当な確率で必ず負ける」と、リング誌などに書かれても何も反論できませんでした。

セルヒオ・マルティネスがケリー・パブリックを下して「私はカルロス・モンソン以来のアルゼンチンの王者だ!」と雄たけびをあげたときも「おいおい、カストロは王者じゃなかったのか…」と悲しい気持ちで聞いていました。

リネラル王者、まともな世界王者、という物差しではカストロは王者では間違いなくありませんでした。WBAというアルファベットのピースを拾った「王者の一人」でした。

その意味では、村田諒太も「王者の一人」、a Champion に過ぎません。よりタイトルの価値が暴落している状況を考慮すると、カストロや竹原よりも現時点では下かもしれません。

ただ、世界のどのメディアもファンも「村田は誰とやっても負ける」とは考えていません。

アベル・サンチェスのように「村田はアッサン・エンダムを初めてストップしたが、GGGに勝てるかといえばノーだ。それでも…エンダムは激戦で劣化して強豪ではなくなっていた、という声も聞くが、村田戦の直前に無敗の強豪アルフォンソ・ブランコをKOして年間最高KO賞を受賞しているんだぞ。これは特別なことだ。全盛期のピーター・クイリンやデビッド・レミューにも恐れずに立ち向かったエンダムを一方的に下がらせた村田は、どう考えても(スレッキを持て余した)ジェイコブスよりも強い」と、米国では「プロテクトされている」「劣化エンダムにたまたま勝っただけ」というマニアの声も多い村田を高く評価しています。

まあ、ボクシング界は魑魅魍魎ですから、サンチェスも「村田のスターパワーはカネロ並み」とも語ってます。カネロ以外は人気のないボクサー揃いのミドル級で村田が別格であることに気づいて、カネの匂いを嗅ぎつけての発言かもしれませんが…。

いずれにしても「ゴロフキン戦」は、もはや驚くことではなくなっています。

贔屓目はもちろんありますが、十分勝ち目はあると思います。ジェイコブスを押し込めないGGGは、村田のプレッシャーを少なくとも前半はさばけないでしょう。

村田は東京ドームでGGGを倒したら「それで引退でもいい」なんて謙遜してますが、本心は違いますね。

もし、そのときが来たら村田諒太はマイクを取るはずです。

23
「ホームでしか戦わない50戦無敗の銭ゲバの人!東京ドームにカネ落ちてますよ、引退やめて拾いに来ませんか?それともアウエーやミドル級が怖いからやめますか?キャッチウェイトの相談はいつでも受け付けますよ」


51
「ミドルを取ったら9階級制覇、もう誰も近づけません、やりましょう。9階級制覇させるつもりはありませんが、アジア人同士で、どつき合いしましょう!もちろんキャッチウェイトでも構いません」


※ボクサーの戦績は本当にいい加減なところがあります。とくにアマチュア戦績は眉唾が多いですね。普通に考えたら、例えば陸上競技だと競技を始めたばかりは将来どんなグレートになろうが、普通に負けます。リゴンドーやロマチェンコの神がかり的なレコードは「競技を始めたばかり」の敗北は、自己申告してません。

ボクシングは世界的なスポーツで、草拳闘との境界線が曖昧な試合もあります。全ての戦績は拾えないので、自己申告が通用していまう世界です。

さらに映画や小説でも取りあげられる題材ですから〝誇大広告〟は当たり前です。朴鐘八は沢木耕太郎の名作「一瞬の夏」でも登場します。

空位の東洋太平洋ミドル級王座をカシアス内藤と争ったときの朴は11戦9勝8KO1敗(KO負け)でしたが、小説の中では「9戦9勝9KO」です。よくある話です。