当日軽量と前日計量。

「当日」は試合までの回復時間が短い、「前日」は回復時間が長いがゆえにより苛酷な減量に走りがちで、リバウンド体質が有利…どちらも一長一短です。 

IBFのように二つを組み合わせと、当日の超過リミット10ポンドを設けることで、リバウンドによる不公平を一定範囲内に抑えることが出来ます。

現在一律の10ポンド超過リミットも階級によって、差別化するなど改定の必要もありますが。

2回計量によって、体重超過のリスクも倍になるという意見もありますが、これは杞憂でしょう。当日計量はリバウンドした状態で、万一超過しても落としやすい状態なはずですから、リスクは2倍以下の筈です。

2回計量と当日のリバウンド制限によって、アーツロ・ガッティやブランドン・リオス、ダニエル・ジェイコブスのような、あまりに不公平な体重差でリングに上がる〝リバウンドチャンピオン〟を排除することが出来ますが、それはまた2回計量に適した体質のボクサーが有利になるという新たなジレンマも生み出してしまいます。

公平性だけを追求するなら、当日計量が最も正しいことになります。 

現在、ほぼ全てのプロボクシングの試合で前日計量が採用されていますが、ペンシルバニア州は世界戦を除いてIBF方式を採用しています。

ペンシルバニア州体育協会の元管理責任者グレグ・ サーブは「もっと管理を徹底して7日前、前日、当日の3回計量にすることによって公平性と安全性の両方がよりプロテクトされる。もっと言えば階級を減らすべきだ」と3回軽量と、階級の削減を提案しています。

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ネバダ州体育協会の医療責任者でリングドクターを務め、反ドーピングの任意団体VADAを創設したマーガレット・グッドマンは「減量したほぼ全てのボクサーが陥る脱水症状は、実は脳への直接的なダメージは考えられているほど重大ではない。ただし、反射やバランスは極端に悪化、それが普通なら受けないパンチを食らってしまうのが問題なのだ」と、減量とイコールで結びつく脱水症状の危険性を指摘しています。

さらに、グッドマンは「栄養や水分を遮断、利尿剤など薬物まで使われた肉体は一気に脆弱化、全ての機能が落ちてしまう。それでも〝減量によってより弱い相手と戦える〟という誤った信念が、ボクサーを理不尽な減量に駆り立てている。八階級制覇したマニー・パッキャオが特別なボクサーであることは間違いないが、彼のベスト階級が過剰な減量を必要としないライト級前後であることについては、あらためて考目を向けるべきだ。大きな減量を強いられないのがベスト階級という理屈は、彼にだけ特別なことではない。多くのボクサーが自分のベスト階級を間違って認識してしまっていることにこそ、問題の根源があるのだ」と、盲目的な〝減量信仰〟を非難しています。

計量についてグッドマンは「ペンシルバニアが提案している3回方式が理想だが、減量信仰がまかり通っている限り、どんな計量でも危険は伴う。州によってまちまちの計量も問題がある。一本化しないといけない」と統一ルールの必要性を訴えています。

一方で、ネバダ州体育協会の管理責任者キース・カイザーは、当日のリング上での体重差は「現実的には大きな問題ではない」と注目すべき発言もしています。

ネバダ州の統計では1990年代から、体重で有利なボクサーの勝率は約50%だというのです。

これは、おそらく体重超過の不平等マッチだけでなく、通常の試合での両者の体重の重軽も入れた数字でしょう。

メガファイト、ビッグファイトを引き寄せて、多くのギャンブルマネーと税金をかき集めたいネバダ州のロジックです。

カイザーは「154ポンドのボクサーが147ポンドのスター選手からのオファーを断ることはありえない。魅力的なイベントに何かしらの歪みは付き物」と本音も漏らしています。

表層的な魅力に浮き足立つファンの責任もあります。

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パキャオの前人未到の八階級制覇、その最後の八階級目はジュニアミドル(154ポンド)でしたが、相手はアントニオ・マルガリート。154ではパッキャオ同様に何の実績もありません。

そればかりか、この二人は空位のWBC154ポンド級のタイトルを150ポンドのキャッチウェイトで争ったのです。正規のリミットから4ポンドも軽く、ウェルターの147ポンドにより近い数字です。

そして、計量ではマルガリートが150ポンドのリミット一杯でパス、パッキャオの秤は驚くなかれ144ポンド1/2とウェルターでさえ大きく下回ったのです。

この矛盾に満ちたジュニアミドル級タイトルマッチは、興行としては大きな成功を収めましたが、もしこのスポーツに世界を統轄する団体があれば、こんな試合は許さなかったでしょう。

プロボクシングでは、スーパースターが一番偉いのです。もし、パッキャオが145ポンドを突きつけたとしてもマルガリートは喜んで干からびて衰弱した肉体でリングに上がったでしょう。

世界的な統轄団体が誕生して、どのボクサーにも公平な階級・計量システムを樹立するべきですが、腐敗承認団体が跋扈し、米国ではネバダ州やカリフォルニア州が統轄団体として莫大な既得権益を獲得している現状では、世界的な統轄団体など望めません。

では、絶対公平な計量システムは?

考えられるとしたら、やはり前日と当日の2回計量です。そして、そのボクサーが得意とする当日のリバウンドでも階級を付けるのです。

リバウンドの大きいボクサーは「前日118ポンド(バンタム級)、当日135ポンド(ライト級)」級、増量幅が小さなボクサーは「前日118ポンド、当日122ポンド」級、といった具合です。

現在の17階級だと、理屈では「前日105ポンド(ストロー級)、当日ヘビー級(200ポンド超)」の組み合わせもあるので、17×17=289階級にまで細分化されることになります。

この「バンタムライト級タイトルマッチ」の考え方なら、自分のリバウンドの幅に合わせて公平な階級を289階級×4団体=1156の中から選ぶことができます。実際にはリング誌、暫定、スーパー、ダイアモンド、休養などの王者も存在しますから、5000人以上のチャンピオンが生まれるかもしれません。

そうなると、5000人の王者の名前を諳んじることが出来る記憶力の天才の方が、世界チャンピオンよりもはるかに貴重な存在になりますね。


コメントいただきありがとうございます

山田さん、tanutaさんがいう「サッカー選手」については、アスリートとしてほぼ1年通して節制する姿は理想だと思います。テニス選手も同じですが、過酷なシーズンが長いということだと思います。

シュガー・レイ・ロビンソンら1950年代頃まではスター選手でも、年間10試合前後をこなしていましたから、常にビルドアップ、シェイプアップした状態だったはずです。

〝比嘉大吾〟にしても「前戦から2ヶ月という間隔が短すぎた」とみられていますが、ダメージが残っていないのに試合間隔が短いと減量に都合が悪い、というのは、どれほど無理やりな減量をしていたのかということです。

試合が終われば暴飲暴食する傾向のあるボクサーは、なんだかなぁです。減量のストレスが半端じゃないことは理解できますが、やはり「そこまで肉体を弱体化させてまで、弱い相手、階級を求めるか?」という幻滅に行き着いてしまいます。

もちろん、Undisputed Championになった村田に、メイウェザーが「155ポンドのキャッチウェイト」を突きつけて衝撃復帰、統一タイトルマッチを要求してきたら、これはもう過酷な減量に向き合って欲しいですが、こういう考え方がもうダメなんですね…。

「水抜き」については、今月号の「ボクシングビート」でも検証されていましたが、減量の基本は「カロリーの収支を赤字にすること」、つまり「摂取カロリー(食事)を消費カロリー(運動)が上回る」ことです。

荒川仁人が語っているように「食べるものに気を付けて、しっかりトレーニングしていけば体重は自然と落ちていくもの」です。

試合の直前に水分を一気に抜く減量は、決して新しいものではありません。「脱水症状の時間を短くする」という利点がある反面、「急激に脱水症状に陥る」ことや、ルイス・ネリのように「思うように汗が出ないため減量失敗」という危険もあります。

さらにビート誌で指摘されているように、間違った理解の水抜きも横行しているようです。

昔ながらの食事も水も遮断して、衰弱してほとんど運動もできない状態で、体重を落としていくのは自殺行為です。

偉大なレジェンドの中にもファイティング原田や、ロベルト・デュランのような、こと減量に関しては尊敬できないエピソードが多いボクサーも散見されますが、〝荒川流〟からさらに無理やり筋肉や骨を削るような減量は格好悪いし、何より危険です。

減量は、それによって鋭利に研ぎ澄まされて強くなるのが理想です。減量によって弱体化したボクサーの戦いなど、誰が見たいでしょうか。