プロボクシングには、階級の壁が厳然として存在します。

それは、多くの場合フェザー級以下の軽量級において明らかです。

団体と階級がシュールなまでに増殖した現在でも、軽量級で「本当に強い王者」に勝って複数階級制覇することは至難の技です。

階級間の体重差が3〜4ポンドと微小にもかかわらず、軽量級という性格から元々の体重に対する増量の割合が大きくなるという事実に加えて、多くのボクサーが中重量級よりも過酷な減量を強いられてているがゆえに、一定の時間が必要となる複数階級制覇には、ダメージの蓄積・経年劣化との戦いも強いられてしまうのです。

「Lineral Champion=世界チャンピオン」が当たり前だった1960年代に、軽量級史上初の二階級制覇を成し遂げたファイティング原田が欧米で特別な評価を獲得しているのは、“黄金のバンタム”を駆逐したからだけではありません。もし、あの時の相手がエデル・ジョフレでなかったとしても、原田の一発殿堂は揺るがなかったでしょう。

時は移ろい、軽量級でも複数階級制覇は犬の糞のように珍しいものではなくなりました。毎年のように三階級制覇王者が誕生し、2年に一人は四階級制覇が達成される時代です。

それでも、細分化された階級を無視して現実の体重差だけを見ると、「本当に強い王者」に勝っての二階級制覇は稀で、現代の一流ボクサーの多くは10ポンドまでに挫折してしまっているのです。

これまで、ローマン・ゴンザレスとビック・ダルチニアンに代表される「急ブレーキ型」の蹉跌を振り返りました。

今夜からは、階級の壁に対するより自然なリアクションと思える「ジリ貧型」の一流ボクサーを見て行きます。


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💀ジリ貧型《相手は強く自分は弱くなる》💀💀💀

ノニト・ドネアは、フライ級史上屈指の大番狂わせでダルチニアンをKO、欧米では王者と認められない暫定も王者とカウントすると、フェザー級(126ポンド)までの五階級制覇を達成しました。

フライ(112ポンド)から数えると、14ポンドです。

フィリピンの閃光は、今回のテーマ「10ポンドの壁」を見事に打ち破ったのか?となると答えはNOです。

ドネアの五階級制覇は、「本当に強い王者」に勝ったのはフライ級のダルチニアンだけという現代特有のマジックによって成し遂げられました。
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フライ級時代のドネア。いや〜若いですね、二人とも。特にドネアは少年のようです。

ドネアの五階級制覇の陰には、「団体と階級の増殖」だけでなく「リバウンド体質」というリングの外で勝負が決まってしまう、現代の問題が浮かび上がってきます。

バンタム級でデビューしたドネアが、どうしてフライまで一気に落としたのか?

一部の信者や日本のメディアが盲目的に支持する井上尚弥は、それほど強いならどうしてジュニアフライで 世界を狙ったのか?

長谷川穂積は、足が痙攣するなど試合に影響が出るほど過酷な減量に身を削り、井上はバンタム転向を「減量の限界」と語りました。

そもそも、格闘技は強さを目指すはずなのに、どうして弱体化する減量を過剰なまでに追求してしまうのか?

ワシル・ロマチェンコは「リバウンドで上の階級のボクサーのように圧倒的な力量差を見せるボクサーと一緒に語らないで欲しい。私の戦いかたの美しさを見なさい。下品なリバウンダーとは違うのがわかるはずだ」と語り、現代ボクシング、前日計量の問題点を喝破しています。

長谷川や井上の強さは技術以前に、圧倒的なパワーの裏付けがあってこそです。ロマチェンコは「私の強さは(体重差を生かしたパワー勝負ではなく)純粋に技術だけだ」と主張しているのです。

ゲンナディ・ゴロフキンがIBFルールに従い、前日計量からの増量を10ポンド以内にコントロールしていることに関して、マービン・ハグラーは「今のボクサーは大変だな。もし私が現代のボクサーならウェルター級で戦わされていただろう」と笑いました。

そうです。前日軽量のリング上では、同じ階級なのに、二階級も三階級も体重差が開いた二人が対峙していることも全く珍しくないのです。

前日軽量から短い時間で、頑丈な胃袋に栄養と水分を一気に吸収できる体質のボクサーが圧倒的に有利なのが、現代のボクシングです。

もちろん、これはルールに則った戦略です。

ドネアの成功譚を語るには、前日計量とリバウンド、そして栄養コントロールによる減量は、避けて通れないテーマです。

そして、ジリ貧で階級の壁に苦しんだように見えるドネアもまた、強い相手と戦っていれば100%、10ポンドの壁に弾き返されていたのです。

思い入れのあるボクサーの話は、当たり前ですが、長くなりそうです。