ケース③内山高志の憂鬱(成功?)

成功か失敗か微妙なケースです。

27勝(24KO)2敗1分。

WBAスーパーフェザー級の王座を11度防衛した相手には、大番狂わせとはいえ、ホルヘ・リナレスをKOしたファン・カルロス・サルガド、のちにWBCで対立王者となる三浦隆司、マニー・パッキャオやユリオルキス・ガンボアとも戦ったホルヘ・ソリス、暫定王者のブライアン・バスケスらの名前が目に付きます。

もちろん、サルガドやソリス、バスケスは強豪と呼ぶには微妙な選手です。

そして二つの敗北はいずれも無名のジェスレル・コラレスに付けられました。

中量級に進出するスターにとって橋頭堡となる130ポンドは、軽量級とはいえタレント豊富なクラスです。

下の階級からはガンボアやマイキー・ガルシア、ワシル・ロマチェンコらが攻め上がり、この階級からもジャーボンタ・デービスらがさらなる高みを目指しています。

130ポンドは世界のトップシーンではないものの、そこに至る通過階級であることは間違いありません。オスカー・デラホーヤもフロイド・メイウェザーもこの階級から進撃を開始し、パッキャオはこの階級を通ってスターダムに駆け上がりました。

内山は華やかな祭りの眩しい光景を、手を伸ばせば届きそうな距離の、薄暗いスーパーフェザー級からずっと眺め続けていたのです。

もし、内山がガンボアと戦っていたら?ニコラス・ウォータースと激突していたら?マイキーとのビッグファイトが実現していたら?

ビッグパンチャーの内山なら、勝ち目はあったはずです。
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 “(交渉中のウォータース戦について)もし今度もなくなったら?いや、そうなったらもう、何を考えて練習したらいいか、ちょっとわからない”

“ちょっと勝ったからっていい話が舞い込むような甘い世界じゃない。へたしたら(弱い相手に)5回、10回防衛させられるかもしれないけど、その先に何かあるかもしれないって信じてやるしかない。プロはそういうものだと僕は思う”

【2016年ボクシングマガジン3月号:ウォータース戦も結局流れてしまいます…「5回、10回防衛させられるかもしれない」これはすでに11度防衛したときに内山が発した言葉です。悲しい響きです。このあと、世界基準では雑魚のジェスレル・コラレスとの対戦が決定したとき「モチベーションが下がった」と珍しく不満を吐き出してしまいました。あらためて読み返すと、偉大な王者に失礼な表現ですが、可哀想です。強豪と戦う姿、見たかったです。】

 
ただ、コラレス戦でも露呈した打たれ弱さ(脳震盪を起こしやすいということ。起き上がりこぶしのアッサン・エンダムのようなボクサーは打たれ強い)は、ビッグネームがもれなく持ち合わせている強打の餌食になる可能性が高かったですね。

しかも、内山がスピードのあるボクサーを苦手にしているのは明らかで、スピード以外は凡庸なマイケル・ファレナスにも手を焼き、やはりスピードしかないコラレスにあっさり転がさられた姿を目の当たりにすると、スピードだけじゃないマイキーら強豪との対決は危険極まりない挑戦になったでしょう。

渡辺均会長が口先だけで、強豪との対決を徹底的に避けたのは、チキンというだけでなく鋭い嗅覚を持っていたと思います。半分嫌味ですが。

内山は、そのキャリアで2億円前後の報酬を得たと思われますが、もし早い段階で強豪と戦っていたらその大半は霧散していたでしょう。もちろん、マイキーやロマチェンコに勝っていたら、2億なんて1試合の報酬ですが。

渡辺会長が内山を世界王者にするまでの収支は、トントンか赤字だったでしょう。 そして、何度も防衛してジムに恩返しが出来るようになると、ジム側は次の選手を育てたくなるものです。

もし、内山の長期政権が無ければ、田口良一ら後に続く世界王者への投資が出来なかったかもしれません。

世界王座がいくつもなければ、渡辺会長も腹をくくって勇気の橋を渡ったのでしょう。

ボクシングファンの多くは渡辺会長を批判しましたが、どこのジムでも事情は全く同じです。やってることも同じです。内山の階級が世界に密接していたがゆえに、強豪との対戦を回避している様が目立っただけなのです。

本気で世界最高になりたいのなら、日本のジムを飛び出して裸一貫でアメリカに乗り込むしかありません。 

内山だけでなく、本物の世界一を渇望する全ての日本人ボクサーは、共通のジレンマを抱えています。