白井義男は、都合10度も後楽園球場のリングに上がりました。

1955年5月30日に世界王者を奪われたパスカル・ペレスとのリターンマッチも、やはり後楽園球場。残念ながら5ラウンドKOで返り討ちに会ってしまいましたが、TV視聴率は96.1%。 この驚異的な数字は歴代最高視聴率、日本のテレビ史に残るアンタッチャブルレコードとして今も更新されていません。

国破れて10年も経たない時代。荒廃に打ちひしがれた日本人が、世界王者として戦い続けた白井の姿にどれほど勇気づけられたか、その感動と興奮は想像に難くありません。

村田諒太がリング上でどんなパフォーマンスを演じても、視聴率96.1%は不可能です。何よりも今や、世界で戦う日本人を渇望する、身も心も打ちのめされた国民など、どこを探しても存在しません。

それでも、条件が整えば村田は東京ドームで興行を打てます。

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東京ドームは、収容能力4万6000人(当初はそれまでの慣習から5万5000人とかなりサバを読んだ数字を公表していましたが)、フィールドにも客席がセットアップされるボクシングやコンサートでは5万7000人のキャパがあります。

村田は、有明コロシアムと両国国技館、1万人スケールの会場をフルハウスにしたとはいえ、5万7000人とはかなりの隔たりがあります。

ボクシング界はもちろん、スポーツ全体に視界を広げても村田諒太は日本屈指のスポーツセレブですが、この超弩級のハコで興行を打つには、まだまだ知名度は足りません。

30年前に東京ドーム興行を立て続けに成功したマイク・タイソンは、世界王者になる前から日本でも多くのメディアが取り上げていました。

「史上最年少でヘビー級王者になる男」「ロッキー・マルシアノの記録を更新する」「カス・ダマトの最高傑作」…まだ何も成し遂げていないばかりか、耳目を集めた連勝も、軽いクラスを主戦場とするボクサーや、低レベルの相手ばかりと戦い造られたものだったにもかかわらず。

村田も専門誌だけでなく一般メディアに数多く登場、ベストジーニストやイクメンオブザイヤー、ベストファーザーなどを受賞、昨年末にはゲスト審査員として紅白歌合戦に招かれました。

スポンサーも、先日発表されたウェラブルIoT開発のミツフジをはじめ数多く抱え、アンダーアーマーやすき家などではCMキャラクターとしても起用され、プロボクサーとしては異例の存在となっています。

タイソンも一般メディアでも頻繁に登場しましたが、そのテーマは全て「ボクサーとしていかに凄いか」に集中するもので、そのことが東京ドームの試合への関心に直結しました。

またテレビ CMでも、30年前にタイソンが出演したトヨタやサントリーは、それぞれ最大3000GRPレベル、今の村田はその十分の1にも満たない露出にとどまっています。

東京ドーム興行を現実のものにするには、もっと村田諒太の認知度を上げていかなければなりません。それも「ボクサーとしていかに凄いか」という方向で。

現時点の村田は、多くの一般人には「かっこいいプロボクサー」、ボクシングファンには「ミドル級は凄いけど現時点の村田は平凡な王者」という認識でしょう。

ボクサーとしての実力は、一般人はよくわからず、ファン・マニアの目からは「まだまだ」という評価なのです。

今の時点でも、ミドル級のトップと戦うとなればファン・マニア層はもちろん、ボクシングに興味のない一般層もある程度取り込めるでしょうから、「有明や両国+α」の観客動員が見込まれますが、東京ドームは厳しいですね。

東京ドームのリングは遠くないとはいえ、アルファベット団体の〝偽〟世界ランカーではなく、リング誌やESPNのランキングで上位に名前を連ねる世界ランカーに明白な勝利を収めて、一般メディアが「ボクサーとしても凄い」ことを報道、一般層のボクサー村田への関心度を高め、マニアも納得させる実力を証明することが必要です。

リング誌、ESPNいずれも村田の評価を上回っているのはゲンナディ・ゴロフキン、カネロ・アルバレス、ダニエル・ジェイコブス、セルゲイ・デレビャンチェンコ、ジャーマル・チャーロ、デビッド・レミューの6人。

ジャーマルと同じく、無敗のままジュニアミドル級王者からミドル級に進出してきたデメトリアス・アンドラーデも加えた7人に勝てば、村田株は高騰、東京ドームへの駒を一気に進めることが出来ます。

トップ2のゴロフキンとカネロは、5月5日にリマッチを行うことで調整に入っていると報道されていますが、すでに地位と人気を確立しているこの二人にとって、堅牢な防御と強烈な右を持つ村田は評価は下でも危険な相手です。簡単には戦ってくれないでしょう。

ジェイコブス、デレビャンチェンコ、チャーロ、レミュー、アンドラーデは、トップ2と戦うために危険を冒してでもさらなる評価アップが必要です。彼らにとって「アッサン・エンダムを初めてストップした金メダリスト」は、リスクはあっても評価のリターンも十分見込める相手です。

日本のリングに呼ぶのは難しいでしょうが、この5人の誰かを年内に明白な形で倒したいですね。

「有明、両国+α」の現在地点から、東京ドームの特設リングまでの距離を埋めるには、露出と評価をさらに引き上げることです。露出といってもジーニストやイクメンという横顔はもうお腹いっぱいです。

ミドル級のプロボクサーとしての凄みを見せること、そのことでボクサーとしての顔を真正面からとらえる露出が増え、評価も上がります。

前述の5人のうち一人でも倒したら、電通は東京ドームのスケジュールを確認、リングのポジション、アリーナ席のレイアウトを考え始めるでしょう。

とんでもない夢に思えるかもしれませんが、世界王者のワンピースとはいえ〝不倒不屈〟のアッサン・エンダムをストップした時点で、東京ドームへのアプローチは始まっていたのです。

次は巨大スタジアムを舞台にしたメガファイトに、村田の夢、ボクシングファンの夢をオーバーラップさせていきます。