ボクシングには、歴然とした階級差別が存在します。

富裕な欧米で注目度が高い中量級やヘビー級のボクサーは、機会に恵まれれば1試合10億円単位の報酬を手にできますが、貧しいアジアや中南米で主流の軽量級のボクサーでは1億円を稼いだボクサーですら歴史上数えるほどしか存在しません。

だからといって軽量級のボクシングがつまらない、そんなわけはありません。

闘牛や闘犬以上に、闘鶏が世界的に人気がある背景には軽量ゆえのダイナミックさを楽しめるからです。

軍鶏のクラスを楽しめるボクシングファンこそ、この競技の深淵を知っているのです。


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…プロボクシングは、全17階級中、上から7番目に当たるウェルター級(147ポンド、66.68kg)が競技人口が最も多く、それに比例して最も競技レベルが高く、競争が激しいクラスとなっています。

このウェルター級を核とした、周辺階級も当然ハイレベルなクラスになります。

下の階級の人気者はウェルターへの進出を目指し、ウェルター級を制した実力者はさらに上の階級への侵略を試みる…シュガー・レイ・レナード、オスカー・デラホーヤ、フロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオ、近代のスーパースターは例外なくこの道程を進撃してきました。

村田諒太のミドル級は、ウェルターからの侵略を受けて立つ階級、注目度も報酬も軽量級の比ではありません。

 マニアの評価が最も高いのは井上尚弥ですが、世間一般の認知度や注目度、メディアの露出、報酬、ステイタスは、村田のそれに遠く及びません。

レベルの高い階級で戦うがゆえに村田にはいつ負けるかわからないリスクがつきまとう一方で、井上は今後も中長期にわたって世界のトップ戦線のリングに上がる可能性が高いにもかかわらず、企業スポンサーが村田へ傾倒するのは、五輪金メダリストという文字通りの金看板だけではなく、 ミドル級が持つ蠱惑的なまでの魅力のおかげです。

ボクシングにおける階級差別のような目線は、どんなスポーツにもあります。 陸上競技ではマラソンで活躍する選手は注目され、スポンサーも集まりますが、競歩の選手が世界陸上でメダルを取ってもその名前が一般にまで浸透することはありません。

井上尚弥が転向を発表したバンタム級も、最軽量のミニマム級から数えて5番目、マイナー階級と言い切って差し支えありません。

「井上はラスベガスで1試合で20億円を稼ぐボクサーになる可能性もある」なんて書き立てる無責任なメディアも散見されますが、現状ではそんなことは絶対にありえません。

ほんの一部のヒスパニックや英国の人気者は、フェザー級以下でも1億円レベルの報酬を稼ぎますが、そんな例外でも1億円です。

井上がパッキャオのようにウェルターまで征服して、強力な複数のライバルに恵まれれば「20億円」はありえますが…。

ただ、ボクシングの面白さは、注目が集まりやすい度肝を抜かれる興行規模や報酬ではありません。

当たり前ですが、ボクシングの面白さはリングの上だけに凝縮されています。 莫大な額の入金記録が印字されたメイウェザーの貯金通帳には下世話な興味は注がれても、ボクシングの深遠な世界についてはたったの一文字も読み取ることは出来ません。

スピードとパワーが最高レベルで結晶したウェルター級とは違い、井上尚弥が上がるバンタム級のマトリクスはスピードに偏っていますが、一打必倒のパンチャーも数多く生み出してきた肥沃な歴史を紡いで来ました。

軽量級の純粋なスピードに乗って、ヘビー級よりも衝撃的なKOシーンを量産してきたバンタム級のグレートをおさらいし、彼らの系譜に井上尚弥の名前が新たに刻まれる、その膨らむ期待を語ります。