スポーツ好きで、いろんな雑誌を定期購読していますが、その中で自宅に届けられるのが最も楽しみな一冊がリング誌です。

ボクシングの世界は、日本と米国が凋落一途ですが、米国は隣接するメキシコ、自治領プエルトリコがボクシング大国、歴史的・政治的につながりの深い英国でも空前の盛り上がりを見せており、その活況を皮膚感覚で伝えてくれるリング誌の記事は読み応え満点です。

2007年にゴールデンボーイプロモーション傘下になって(もう10年も経つのですね)、記事が偏向するという危惧もありましたが、その心配も杞憂なようです。

さらに、美しい全ページカラーというのもファンには嬉しいところです。福田直樹さんの素晴らしい写真も拝見できますし。

残念なのは、2年前から月間ではなく年9冊発行となり、総ページ数も98ページと薄くなってしまったことでしょうか。先週届いたのは、まさにその9冊目、今年最後の12月号でした。

それでも日本の「ボクシングマガジン」「ボクシングビート」と比べると、広告が圧倒的に少ないため、内容的には盛り沢山です。

価格的には、日本で年間購読するとなると$105、今は年9回発行ですから一冊あたりだと$11.66(¥1100)もしてしまいます。クリスマス期間などは年間購読で半額レベルに下がりますが、コストパフォーマンスでは自信を持ってお薦めできる雑誌ではなくなりました。

内容的にもアジア、日本の記事は突発的、思いつきで、そのボリュームも薄いです。


【デジタル版は¥480で手軽に購入できますが、クリスマス期間なら同じレベルの価格で雑誌が購読できます(デジタル版もサービスで付きます)。つい2年ほど前までは、年間12冊でもずっと安価な価格設定だったのですが。】

海外のメディアがリアルタイムでアジアのボクサーを見ることが出来るネット時代になって、ポンサクレック・ウォンジョンカムや山中慎介、井上尚弥がリング誌のPFPランキングにその名を連ねるようになったのは大歓迎ですが、さすがに自分の目で取材していない試合は大きく取り上げるわけにはいかず、アジアの強豪が自国で戦う姿をレポートする記事が大きく扱われることはありません。

日本人では、五輪金メダルという世界的に文句無しの実績を残している村田諒太の注目度が高いとはいえ、今回の「エンダム2」の扱いは、同じミドル級の中堅レベルのマッチアップ「ガブリエル・ロサドvsグレン・タピア」のノンタイトルにも大きく劣るのが現状です。

村田vsエンダム、中量級の本場、米国でやれば注目度は上がったでしょうが、興行的には日本開催の方がはるかにメリットがありますから、難しいところです。日本でベルトを獲ってから、本場に上陸という道筋は理にかなっています。

なにはともあれ、ミドル級です。

西岡利晃のように、軽量級にもかかわらず米国が本場だと無理やり西海岸で興行を打った残念な例とは、真逆のケースになります。

村田もまた、ある意味、無理やり、ミドル級の世界挑戦を2試合続けて、日本でやるわけです。まあ、こんなことは、2度とないでしょう。ミドル級の五輪金メダリストが、またこの国から輩出できるとしたら、それはまた別の話ですが。

日本の専門誌・メディアが、米国の試合を大きく取り上げているのは、中量級やヘビー級のメガファイトが桁外れに興行規模がデカいから仕方ない側面もあるのですが…。それでも、なんだか、片思い的で悔しいですね。

この12月号でも、WBA Jr.バンタム級王者、カリド・ヤファイが大きく特集されているのは、複雑な気分です。


10月28日に英国カーディフで石田匠を迎えて2度目の防衛戦のリングに上がるのですが、オッズは8倍と無敗の石田を負け犬扱い、「来年は米国のsuperfly2興行でローマン・ゴンザレスと戦う」とか勝手なことを言ってるんです。

石田、絶対に勝て!木村翔に続いて大番狂わせ起こしてくれー!!!というか、ヤファイは普通に苦戦するでしょう。

もちろん、イエメンの内戦で艱難辛苦を強いられた両親が英国に逃れて、そこで生まれたカリが過酷な環境から二つの拳で這い上がってきたことは、平和ボケ日本からは想像も出来ないことです。

しかし、スポーツの世界ではそんなもの全く関係ありません。

スポーツの世界は本来、そんなサイドストーリーなんて一番縁遠くて、全く関係がないはずなのに、まあ、みんな好きなんですよね、特にボクシングでは。

ファンベースが無いどころか、貧困で国を出るしか競技を続ける術がなかったアッサン・エンダム。国籍をフランスに移してプロ活動を続ける彼が、カメルーンの同胞を勇気づけられることが出来るとしたら、五輪の舞台しかありません。

日本のボクシングファンの目からは奇異に映った、昨年のリオ五輪挑戦は、エンダムの胸の中ではきわめて自然なロジックが成立していたのです。もし、カメルーン国籍での出場が許されなければ、エンダムが五輪に出ることはなかったでしょう。

一方で、衣食住に困ることなく、世界屈指の経済大国で複数の大企業から絶大な支援を受けて、母国の国旗を背負い、挑戦者の立場でありながらミドル級の世界戦を2度も自国に用意された村田。

もし、明日、エンダムが村田に勝ったとしても、母国カメルーンで世界戦を出来る日など、永遠に訪れないでしょう。

経済原理、と言ってしまえばその通りです。五輪もサッカーW杯も、開催国は経済原理で決まります。

そういう意味では、プロボクシングの世界はほとんど例外なく「日本で世界戦」が行われます。経済大国、万歳です。

ただ、軽量級とは一線を画す、中量級は例外、ミドル級の桧舞台は欧米、カネロが屹立する今は北米です。

村田諒太は、極めて近い将来、エンダム同様、敵地でしか戦えない、過酷な季節を迎えなければなりません。

軽量級は間違いなく、日本が本場です。トップファイターの平均的な報酬を見れば、それだけで明らかです。

しかし、ミドル級になると世界の報酬が極東の島国をはるかに凌駕してしまいます。そして、その世界的な注目度も。

村田諒太を応援せざるをえない理由は、日本人ではよほどの幸運が重ならない限り、アルファベットタイトルですら世界王者になるのは絶対不可能だと思われていたミドル級で、彼がモンソンやハグラーのように覇権を打ち立てる潜在能力があると期待するに値する才能の持ち主だからです。

軽量級ならいくらでも王者や挑戦者を引っ張って来ることが出来るこの経済大国をもってしても、ミドル級は別格です。

帝拳の本田会長が、村田vsエンダム初戦について「タイソンの試合を除けば、日本で開催した最も大きな興行」と言い放ったのは、けして大風呂敷ではありません。

今夜、両国で世界王者になる村田諒太が、再び日本で試合することはないかもしれません。

ミドル級の五輪金メダル。米国ならとんでもないセレブです。米国ほどではないにせよ、中量級の免疫が無い日本なりには、村田は十分に厚遇されてきました。もちろん、それに値する才能と人物です。

明日こそ村田諒太の旅立ちのリングになるでしょう。温室のビニールを打ち破る時が、ついにやって来ました。

これからは、明後日からは、そのテーマ曲のまま、パイレーツ・オブ・カリビアン、海賊になるしかありません。

威風堂々、太平洋を渡る倭寇になって下さい。

カネロ・アルバレスや、ゲンナディ・ゴロフキンらが抱えている金銀財宝を根こそぎ奪ってきて下さい。やつらのサポーターが吐き出す怒涛のブーイングを全身に浴びながら。

そして、そのときには、アジア軽視、日本軽視のリング誌も、日本を本気で振り返るはずです。