具志堅用高が打ち立てた13連続の防衛記録。

この記録は、その時代背景を抜きにしては語ることはできません。

完全2団体(最も説得力があるリング誌タイトルは2002年のフルモデルチェンジの前で有名無実化、今なら欧州で存在感のあるIBOなどのマイナー団体も事実上存在しない時代です)、13階級しかない時代に、具志堅は13連続防衛を成し遂げたのです。

ライバル王者は一人だけ、WBAとWBCも今日ほどは商売優先のインチキランキングではなく、両団体が発表するランキングには多くの強豪選手がオーバーラップしていました。

リング誌とESPNのランキングがほとんど同一なことからもわかるように、普通なら大きなズレは生じないはずですが、現在の4団体ランキングはもはやズレとかいうレベルはありません。

翻って現在、いよいよ来週拳を交える、亀海喜寛とミゲール・コットが典型ですが、各団体が承認料目当てで人気選手を囲い込む構図が色濃くなっています。

亀海の一件は、世界レベルでの勝利経験が一度も無い亀海が6位、2年近くリングから遠ざかっているコットが1位という、もはや誰が考えても狂乱のランキングです。

WBOからしたらファイトマネーの額に応じて徴収できる承認料が欲しくて、ビッグネームのコットを囲い込んだだけです。ボクシング界には世界的な統括団体が存在せず、承認料目当て、それに付随するベルト販売を生業とする承認団体だけが跋扈しているのですから、仕方がないこととはいえ、これは酷すぎます(もちろんコットという超ビッグネームと日本人が戦うという意味は大きなものがあります)。


【エンジの布地に金糸でカンムリワシが刺繍された専用のチャンピオンベルトも新鮮でした。新設階級に回すベルトの余裕がなく、のちの井岡弘樹(ストロー級)も日本製の専用ベルトを腰に巻いていました。】

単純に、2団体→4団体という構図なら「今の10度防衛は、具志堅時代の5度に相当」と推測することが出来ますが、階級の増設、同一団体の中でも王者を増殖させていること、そして何よりもランキングが商売優先で歪に操作される傾向が強まっていることまで考慮すると「5度に相当」も限りなく怪しくなってきます。

さらに、2団体時代、というより1階級2王者時代と言った方が良い具志堅の時代は、世界一を証明するために本物の強豪を求めて他団体王者との統一戦を模索したり、複数階級制覇に船出する必要性は現在よりもはるかに低く、ウェルターやミドルのような人気階級でなくとも、タイトルを長期防衛することは世界的にも自然でした。

具志堅が13度の防衛を重ねたのは、現在とは全く景色の違う時代で成し遂げたからこそ偉業だったのです。

今の強豪、人気選手は評価の高い相手を求めて階級どころかベルトにもこだわらないケースまであります。山中が対戦を熱望したレオ・サンタクルスも、バンタムを踏み台にして、100万ドルファイターとなった今はフェザー級でビッグファイトを繰り広げています。

世界の風景が激変したというのに、どうして日本では防衛回数がクローズアップされるのか?

簡単な話です。階級を上げて、王者に挑戦するリスクを冒すよりも、高い承認料が目当ての承認団体と世界王座を手放したくないジムの思惑が一致するからです。安全安易な防衛戦を重ねる方が、双方ともに儲かるからです。

そして、日本の人気選手で際立つのはメディアとファンが優しすぎることです。海外では、カネロ・アルバレスやフロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオらでも批判の嵐に晒されてきました。

パッキャオがアントニオ・マルガリート相手に史上初の世界8階級制覇に挑む、とぶち上げたときは典型でした。日本なら大偉業!なんでしょうが、特に専門メディアからは集中砲火を浴びました。

4団体時代になって、防衛回数や階級制覇数をいたずらに増やすことの意味が全くなくなっているというのに、日本のメディアが人気選手を批判するのは聞いたことも読んだこともありません。

それどころか、歯の浮くような賛辞、ありもしない軽量級のラスベガスでのメガファイトなどを並べ立て、専門メディアに至っては提灯記事しか書きません。広告利害関係のない、亀田兄弟には容赦がなく批判の矛先を向けましたが、やってることは全く同じだとわかっていたはずです。

今の時代に生きるボクサーは不運です。もはやボクシングは「世界と戦う日本人を応援できる唯一の舞台」ではなくなったばかりか、世界王者濫造によってその価値は失墜しています。

具志堅のように、目の前にある防衛戦ロードを突っ走っていれば評価される時代はとうの昔に終わりました。世界王者を名乗りながら、けして世界では戦わない、聞いたことのないボクサーとの世界戦…ファンにも虚構と欺瞞が気づかれてしまっています。

もちろん、興行主をトレーニングジムが兼ねる日本のスタイルでは、危険なマッチメイクは実現しにくい環境が出来上がっています。

「借金して世界戦を打って、なんとか勝って防衛を重ねて、やっと借金も整理できたのに、そこでさらに莫大な借金して統一戦や世界的評価の高い強豪と戦う?こっちは金持ちの道楽でやってるんじゃない」。

「防衛回数を伸ばすとスポンサーも増えて、ボクサーもジムに恩返しが出来る、後輩に良い環境を用意してあげられる、もちろんその間にボクサーは年を取る、劣化する、そのうちに評価の低い挑戦者に負ける…そのことを誰が責めることができるのか?」。

「今の金で1試合で軽く億を稼いでいた具志堅までの時代とは違う。だからこそ、ボクシングが低迷した時代だからこそ日本のボクサーは防衛回数を伸ばさなければ儲からない。『ボクシング一流世界王者>>>>>>プロ野球の一流選手』の時代はとっくに終わってる。食うためには冒険なんて出来ない」。

「パッキャオは無一文からスターダムの頂点まで登り詰めた?同じことが、日本人に出来ると思うな。パッキャオと日本人の共通点はアジア人という以外には一切無い。夜祭りの草拳闘で3試合勝ち上って100ペソ(約2ドル:220円)もらって大喜びする11歳の小学生が日本のどこにいる?」。

※パッキャオは極貧のため小学校を途中退学、路上で物売りをしながら家族を支えましたが、1日に10ペソ、22円も稼げませんでした。路上の縄張り争いで、恐ろしいほど喧嘩が強いと評判のパッキャオに、草拳闘のバイザーが「それを祭りでやれば100ペソ稼げる。しかも祭りのリングは1対1だ」と声をかけると、パッキャオは「1対1の喧嘩に勝ったら金がもらえるのか?」と驚き、喜びますが、この小さく痩せた少年がわずか11歳だと聞いたバイザーはもっと驚きます。「その年齢で(ゼネラルサントスで最も治安の悪い)この路上の縄張り争いを、たった一人でやるなんて狂ってる、お前はとんでもない大物かバカか、そのどっちかだ」。


【パッキャオの〝プロデビュー〟はなんと11歳、その報酬ははわずか220円でした。25kgもないガリガリに痩せた極貧の少年が3倍近い体重の大きな相手を次々とぶっ倒したのです。(〜Sports Illustrated「怪物は本当に何も無いところから生まれた」)。かつて、具志堅はOPBFフライ級王者時代のパッキャオの踏み込みに「親指だ、親指にバーンって力を入れて、蹴って、踏み込むの、パッキャオはわかってる、出来ている」と感心していましたが、確かに二人の一気の踏み込みには同じ香りが漂っています。】

無借金で世界戦を打てるのは、一部の大手ジムだけです。ビッグファイトとなると大手ジムでも足元を見られてしまいます。西岡利晃がノニト・ドネアに挑んだ試合で手にしたのは、過去の世界戦でも最低のわずか10万ドルでした。

ボクシング人気が健在だった時代、国内で防衛戦を重ねることを誰もが応援してくれていた時代、そのキャリアを世界も評価してくれた時代。具志堅は幸せでした。

もちろん、今の時代にカンムリワシが降臨したら、ミニマム級でローマン・ゴンザレスを粉砕して、念願のPFP1位の座を奪取していたかもしれませんが…。

まだまだ、続きます。