王貞治の756号本塁打に沸き立ち、具志堅の連続防衛記録に拳を握りしめたスポーツファンの純真は21世紀になって完全に絶滅しました。
Jリーグの誕生により世界と無縁ではいられない最も国際的なスポーツが日本でも確固たる地位を獲得、偉大な野茂英雄が重厚な扉を竜巻のごとく吹き飛ばしてメジャーリーグを席捲して幸運な後輩たちに頂点への道筋を整備し、この国のスポーツファンは「本物」に目覚めてしまいます。
それまで、五輪を除くと世界を感じることができるスポーツはボクシングしかありませんでした。日の丸を見上げ、君が代を聞く具志堅用高を応援する1970年代のファンの気持ちは、現在ならサッカー日本代表や日本人メジャーリーガーに対する思いとなんら変わらない、もしかしたらそれ以上の熱いものが確かにありました。
しかし、時代は変わってしまいました。
サッカーとベースボールはもちろん、テニスやゴルフも日本人が世界を感じることが出来るスポーツになってしまいました。ボクシング世界戦の地位が相対的に下落するのは致し方ないことです。いろんなスポーツがメジャーになるのは、その国のスポーツ文化が豊かな証拠です。
しかし、そんな〝外敵〟だけではなく、世界的な統括団体を持てないままのボクシング界は、承認団体と階級だけをいたずらに増殖させ、自ら世界王者の価値を暴落させていく愚行に走るのです。そして、一般人は日本人世界王者の名前すら知らないのが当たり前のマイナースポーツに成り下がりました。
「王がハンク・アーロンの持つ本塁打世界記録を更新する」「具志堅が挑戦するのは〝リトルフォアマン〟の異名を持つ強豪王者」。メディアが一方的に流す情報に素直に感動し、声援を送った20世紀のスポーツファンは、インターネットの登場によって狭量で懐疑的で陰険な性格に変質してゆきます。
この時代の風が最も厳しく吹き付けたボクサーが長谷川穂積でしょう。彼が1970年代までのリングに上がっていれば、純情なファンから惜しみない声援を受けるだけだったでしょう。もちろん2団体時代は、王者はもちろん世界ランカーも現在よりも2倍濃縮になるわけですから、10度防衛はその半分の5度に…ましてや1団体時代では世界王者になるのも難しかったでしょう。
長谷川が世界王座を奪ったのは、タイのウィラポン・ナコンルアンプロモーション。14連続防衛中でしたが、世界的に評価が高かった王者だったかというと?ですね。実際に引退から5年以上経過してますが、殿堂にはカスリもしていませんし、PFPランキングでもお呼びじゃありませんでした。
ウィラポンの世界評価が低い理由は、まともな相手に勝ってないからです。世界王座を奪ったのは辰吉丈一郎、14度防衛も辰吉との再戦に西岡利晃との4戦、計5戦が莫大な報酬が得られて安パイ、ローリスク・ハイリターンの日本人相手でした。
もちろん、層の薄い軽量級は強豪も少ないという事情はありますが、西岡と4年足らずに4度もやったというのは、これはもう世界タイトルを冒涜する犯罪的な行為です。
「(本来なら優先順位が低いのに)世界戦が出来たのはスライマン会長のおかげ」(辰吉丈一郎)、「 WBCには(いといろ便宜を図ってもらって)感謝している」(長谷川陣営)。
亀田兄弟という素晴らしい教師のおかげでWBAが芯まで腐った団体であることは日本のボクシングファンに浸透しましたが、なぜか「WBCはいい団体」みたいな明らかな誤解もあります。アルファベット団体はどこも同じです。全て芯から腐ってます。
ネット時代とはいえ、スポーツ観戦するのはAIでもペッパーでもなく人間です。辰吉、西岡という人気ボクサーの挑戦を5度も跳ね返したタイ人は世界的な評価が低くても日本のボクシングファンにとっては不倶戴天の敵です。長谷川が快勝したときは誰もが拍手を送りました。
しかし、ウィラポンを返り討ちにした2度目の防衛に成功した頃からファンの間では、日本を拠点に活躍していたロシア人、サーシャ・バクティンとの対戦が関心を呼び、サーシャも長谷川への挑戦を熱望しますが、この声は無視されてしまいます。
「長谷川はサーシャから逃げている」。そういう非難は大きくなり、ついには防衛戦後に苛立った長谷川の父親が「サーシャとやったろうやないか」と激高するシーンがTVでも映されましたが、ファン待望の対決は実現しないままサーシャは無敗のまま引退してしまいます。六本木の路上で大げんかをするなど素行に問題もありましたが、この対決が実現していたら面白い試合になったと思いますね。
ネストール・ロチャら、明らかに世界水準にない雑魚を選ぶなら、サーシャと戦って欲しかったです。もちろん、長谷川の責任ではありません。これが魑魅魍魎のボクシング界です。
雑魚ばかりさばいていては、どんな名刀でも必ず錆びつきます。メイウェザーもパッキャオもハイレベルの相手に研ぎ澄まされて、あの高みに駆け上がったのです。
そして、長谷川とファンの希望の一戦が実現します。相手はサーシャではありませんでしたが、対抗王者のフェルナンド・モンティエル。WBOでフライ、ジュニア・バンタム、バンタムと3階級制覇はしていましたが、王者にもかかわらずリング誌などメディアの評価は信じられないほど低く、誰もが認める「バンタム級最弱王者」でした。
モンティエルは、ライバルのジョニー・ゴンザレスと共にメキシコのホープの一人でしたが、この二人の直接対決は皮肉なことに二人の評価を大きく下げてしまいました。互いに相手を恐れた展開は、地元メキシコのファンから罵倒されました。彼の国は、勇気=蛮勇と勘違いしてるんじゃないかというくらいに打撃戦を激愛しますからね。ラファエル・マルケスみたいなのにメロメロになってしまうのです。
いずれにしても、ジョニゴンは気の弱さを晒し、モンティエルは優柔不断さしか見せることが出来ませんでした。モンティエルの評価は、長谷川が簡単に屠ったアレハンドロ・バルデス相手に分の悪い負傷判定引き分けるなど「最弱王者」の烙印を押されても仕方がないものだったのです。
【対戦相手の質はさておき圧倒的内容で10連続防衛の長谷川と、誰もが認める最弱王者モンティエル。オッズは3−1、試合予想はオッズ以上に一方的でしたが…。】
この対決は世界的な注目度は決して高くなかったものの、日本では歴史に残る一大決戦です。世界(欧米)は日本人とメキシコの最弱王者とのバンタム級タイトルマッチなんかに興味ありません。のちに行われたモンティエルとノニト・ドネアの対決ですらチケットは20〜100ドル、HBOの視聴率(ドネアもモンティエルもこれがHBOデビュー)も芳しくありませんでした。日本のファンがクルーザー級に全く興味がないのと同じです。
日本限定とはいえ、あの試合の規模はビッグファイトでした。余計だったのは、ジミー・レノンJrに「この夢の対決のリングアナウンサーをつとめる名誉に、私は自腹で来ました」と誰にでもわかる嘘までつかせて、興行を盛り上げようとしたことです。
アメリカでは絶対に出来ない軽量級のビッグファイトを日本で実現させた、それで十分なはずです。
【2010年4月30日、日本武道館には1万1000人の大観衆が詰めかけ、高額のチケットも売り切れました。もし、このマッチメイクをアメリカで無理やりやっていたら興行規模は10分の1以下だったでしょう。】
どんな名刀もナマクラばかり斬っていたら、必ず錆びつきます。
リング上でモンティエルを見た福田トレーナーは「これは今までの相手と違う、間違いなく強い」と飲み込まれました。長谷川もモンティエルのパンチを「過去最強」と認めました。確かにモンティエルのパンチはフライ級上がりとは思えない強力なものですが、「駆け引きしてても楽しかった」と技術的にも自分とどっこいだったことも吐露してしまっています。
最弱王者というのは過小評価だったものの、モンティエルは技術的には世界王者としては見るべきものなど何もありません。厳しい言い方ですが、3階級全てでトップレベルではありませんでした。だからバンタムでも最弱ときめつけられちゃうのですが。
もちろん、モンティエルも世界王者にふさわしい武器は持っていました。それは、勝負所の嗅覚です。これが悪く出ると、vsジョニゴンみたいな凡戦になってしまいますが、長谷川戦では見事に勝機を嗅ぎつけました。
長谷川がおそらく名刀であったことは間違いありません。しかし、「絶対王者」は一度も強豪に研磨されることなく、ナマクラを斬り続けて、最後は「階級最弱王者」にKOされてしまいました。サーシャと戦っていれば、強豪と戦っていれば、モンティエルなんか簡単に倒していたかもしれませんが、サーシャや強豪と戦っていればモンティエル戦の前に負けてしまっていたかもしれません。
今となってしまっては、長谷川がどれほど強かったのか、誰にもわかりません。勝った最強の相手は全盛期でも評価が芳しくなかったウィラポンの晩年、負けたのは誰もが認める階級最弱王者のモンティエル…事実はこれしかありません。
しかし、空位のWBCフェザー級タイトルを争うリングを自国にしつらってもらい、亀田興毅に敗れたどこから見ても絶対穴王者のウーゴ・ルイスを相手に3階級制覇の花道まで用意されました。かつて、長谷川はジョニゴンを「やるなら、ごちそうさまって相手です」と切り捨ててましたが、そのキャリアは確かに、ご馳走様なものでした。
厳しいことを書いてしまいましたが、長谷川が、この苛酷なスポーツに命の炎を燃やし続けたのは事実です。皮肉ではなく、軽量級日本人ボクサーの特権を十分に享受した、幸せなボクシング人生だったと思います。
ただ、こういうことは繰り返してはいけないのです。長谷川が渇望した、軽量級で日本以上の報酬が稼げるラスベガスの舞台なんて存在しません。本当にファンが喜ぶカードはサーシャ戦であり、西岡戦でした。西岡は西岡でトンチンカンな方向に迷い込んでしまいましたが。
フェザー級以下の世界軽量級史上で最も大きな興行となったのは、マイケル・カルバハルvsウンベルト・ゴンザレスでも、ウィルフレド・ゴメスvsカルロス・サラテでもありません。
薬師寺保栄vs辰吉丈一郎です。
ファンがもっとも喜ぶカードを組む。同国人の世界戦対決もバンバンやる。現在、英国が盛り上がってる最大の要因です。メキシコがボクシング大国であり続けている理由です。
今の世界で最も盛り上がる、興行規模のデカい軽量級のビッグファイトは井上vsロマゴンじゃないでしょう。間違いなく井上vs井岡です。ビッグファイト、ビッグファイトと騒ぐのに、どうしてやらせないのでしょう。これは、星のつぶし合いを極端に嫌う日本のボクシング界の悪弊だけでなく、ジムに気を使って煽りもしないメディアや、長谷川vs西岡と同様にやるわけがないと諦めているファンも悪いですね。
井上vs井岡。やれば誰もが認める「唯一無二」になれるのですが。
Jリーグの誕生により世界と無縁ではいられない最も国際的なスポーツが日本でも確固たる地位を獲得、偉大な野茂英雄が重厚な扉を竜巻のごとく吹き飛ばしてメジャーリーグを席捲して幸運な後輩たちに頂点への道筋を整備し、この国のスポーツファンは「本物」に目覚めてしまいます。
それまで、五輪を除くと世界を感じることができるスポーツはボクシングしかありませんでした。日の丸を見上げ、君が代を聞く具志堅用高を応援する1970年代のファンの気持ちは、現在ならサッカー日本代表や日本人メジャーリーガーに対する思いとなんら変わらない、もしかしたらそれ以上の熱いものが確かにありました。
しかし、時代は変わってしまいました。
サッカーとベースボールはもちろん、テニスやゴルフも日本人が世界を感じることが出来るスポーツになってしまいました。ボクシング世界戦の地位が相対的に下落するのは致し方ないことです。いろんなスポーツがメジャーになるのは、その国のスポーツ文化が豊かな証拠です。
しかし、そんな〝外敵〟だけではなく、世界的な統括団体を持てないままのボクシング界は、承認団体と階級だけをいたずらに増殖させ、自ら世界王者の価値を暴落させていく愚行に走るのです。そして、一般人は日本人世界王者の名前すら知らないのが当たり前のマイナースポーツに成り下がりました。
「王がハンク・アーロンの持つ本塁打世界記録を更新する」「具志堅が挑戦するのは〝リトルフォアマン〟の異名を持つ強豪王者」。メディアが一方的に流す情報に素直に感動し、声援を送った20世紀のスポーツファンは、インターネットの登場によって狭量で懐疑的で陰険な性格に変質してゆきます。
この時代の風が最も厳しく吹き付けたボクサーが長谷川穂積でしょう。彼が1970年代までのリングに上がっていれば、純情なファンから惜しみない声援を受けるだけだったでしょう。もちろん2団体時代は、王者はもちろん世界ランカーも現在よりも2倍濃縮になるわけですから、10度防衛はその半分の5度に…ましてや1団体時代では世界王者になるのも難しかったでしょう。
長谷川が世界王座を奪ったのは、タイのウィラポン・ナコンルアンプロモーション。14連続防衛中でしたが、世界的に評価が高かった王者だったかというと?ですね。実際に引退から5年以上経過してますが、殿堂にはカスリもしていませんし、PFPランキングでもお呼びじゃありませんでした。
ウィラポンの世界評価が低い理由は、まともな相手に勝ってないからです。世界王座を奪ったのは辰吉丈一郎、14度防衛も辰吉との再戦に西岡利晃との4戦、計5戦が莫大な報酬が得られて安パイ、ローリスク・ハイリターンの日本人相手でした。
もちろん、層の薄い軽量級は強豪も少ないという事情はありますが、西岡と4年足らずに4度もやったというのは、これはもう世界タイトルを冒涜する犯罪的な行為です。
「(本来なら優先順位が低いのに)世界戦が出来たのはスライマン会長のおかげ」(辰吉丈一郎)、「 WBCには(いといろ便宜を図ってもらって)感謝している」(長谷川陣営)。
亀田兄弟という素晴らしい教師のおかげでWBAが芯まで腐った団体であることは日本のボクシングファンに浸透しましたが、なぜか「WBCはいい団体」みたいな明らかな誤解もあります。アルファベット団体はどこも同じです。全て芯から腐ってます。
ネット時代とはいえ、スポーツ観戦するのはAIでもペッパーでもなく人間です。辰吉、西岡という人気ボクサーの挑戦を5度も跳ね返したタイ人は世界的な評価が低くても日本のボクシングファンにとっては不倶戴天の敵です。長谷川が快勝したときは誰もが拍手を送りました。
しかし、ウィラポンを返り討ちにした2度目の防衛に成功した頃からファンの間では、日本を拠点に活躍していたロシア人、サーシャ・バクティンとの対戦が関心を呼び、サーシャも長谷川への挑戦を熱望しますが、この声は無視されてしまいます。
「長谷川はサーシャから逃げている」。そういう非難は大きくなり、ついには防衛戦後に苛立った長谷川の父親が「サーシャとやったろうやないか」と激高するシーンがTVでも映されましたが、ファン待望の対決は実現しないままサーシャは無敗のまま引退してしまいます。六本木の路上で大げんかをするなど素行に問題もありましたが、この対決が実現していたら面白い試合になったと思いますね。
ネストール・ロチャら、明らかに世界水準にない雑魚を選ぶなら、サーシャと戦って欲しかったです。もちろん、長谷川の責任ではありません。これが魑魅魍魎のボクシング界です。
雑魚ばかりさばいていては、どんな名刀でも必ず錆びつきます。メイウェザーもパッキャオもハイレベルの相手に研ぎ澄まされて、あの高みに駆け上がったのです。
そして、長谷川とファンの希望の一戦が実現します。相手はサーシャではありませんでしたが、対抗王者のフェルナンド・モンティエル。WBOでフライ、ジュニア・バンタム、バンタムと3階級制覇はしていましたが、王者にもかかわらずリング誌などメディアの評価は信じられないほど低く、誰もが認める「バンタム級最弱王者」でした。
モンティエルは、ライバルのジョニー・ゴンザレスと共にメキシコのホープの一人でしたが、この二人の直接対決は皮肉なことに二人の評価を大きく下げてしまいました。互いに相手を恐れた展開は、地元メキシコのファンから罵倒されました。彼の国は、勇気=蛮勇と勘違いしてるんじゃないかというくらいに打撃戦を激愛しますからね。ラファエル・マルケスみたいなのにメロメロになってしまうのです。
いずれにしても、ジョニゴンは気の弱さを晒し、モンティエルは優柔不断さしか見せることが出来ませんでした。モンティエルの評価は、長谷川が簡単に屠ったアレハンドロ・バルデス相手に分の悪い負傷判定引き分けるなど「最弱王者」の烙印を押されても仕方がないものだったのです。
【対戦相手の質はさておき圧倒的内容で10連続防衛の長谷川と、誰もが認める最弱王者モンティエル。オッズは3−1、試合予想はオッズ以上に一方的でしたが…。】
この対決は世界的な注目度は決して高くなかったものの、日本では歴史に残る一大決戦です。世界(欧米)は日本人とメキシコの最弱王者とのバンタム級タイトルマッチなんかに興味ありません。のちに行われたモンティエルとノニト・ドネアの対決ですらチケットは20〜100ドル、HBOの視聴率(ドネアもモンティエルもこれがHBOデビュー)も芳しくありませんでした。日本のファンがクルーザー級に全く興味がないのと同じです。
日本限定とはいえ、あの試合の規模はビッグファイトでした。余計だったのは、ジミー・レノンJrに「この夢の対決のリングアナウンサーをつとめる名誉に、私は自腹で来ました」と誰にでもわかる嘘までつかせて、興行を盛り上げようとしたことです。
アメリカでは絶対に出来ない軽量級のビッグファイトを日本で実現させた、それで十分なはずです。
【2010年4月30日、日本武道館には1万1000人の大観衆が詰めかけ、高額のチケットも売り切れました。もし、このマッチメイクをアメリカで無理やりやっていたら興行規模は10分の1以下だったでしょう。】
どんな名刀もナマクラばかり斬っていたら、必ず錆びつきます。
リング上でモンティエルを見た福田トレーナーは「これは今までの相手と違う、間違いなく強い」と飲み込まれました。長谷川もモンティエルのパンチを「過去最強」と認めました。確かにモンティエルのパンチはフライ級上がりとは思えない強力なものですが、「駆け引きしてても楽しかった」と技術的にも自分とどっこいだったことも吐露してしまっています。
最弱王者というのは過小評価だったものの、モンティエルは技術的には世界王者としては見るべきものなど何もありません。厳しい言い方ですが、3階級全てでトップレベルではありませんでした。だからバンタムでも最弱ときめつけられちゃうのですが。
もちろん、モンティエルも世界王者にふさわしい武器は持っていました。それは、勝負所の嗅覚です。これが悪く出ると、vsジョニゴンみたいな凡戦になってしまいますが、長谷川戦では見事に勝機を嗅ぎつけました。
長谷川がおそらく名刀であったことは間違いありません。しかし、「絶対王者」は一度も強豪に研磨されることなく、ナマクラを斬り続けて、最後は「階級最弱王者」にKOされてしまいました。サーシャと戦っていれば、強豪と戦っていれば、モンティエルなんか簡単に倒していたかもしれませんが、サーシャや強豪と戦っていればモンティエル戦の前に負けてしまっていたかもしれません。
今となってしまっては、長谷川がどれほど強かったのか、誰にもわかりません。勝った最強の相手は全盛期でも評価が芳しくなかったウィラポンの晩年、負けたのは誰もが認める階級最弱王者のモンティエル…事実はこれしかありません。
しかし、空位のWBCフェザー級タイトルを争うリングを自国にしつらってもらい、亀田興毅に敗れたどこから見ても絶対穴王者のウーゴ・ルイスを相手に3階級制覇の花道まで用意されました。かつて、長谷川はジョニゴンを「やるなら、ごちそうさまって相手です」と切り捨ててましたが、そのキャリアは確かに、ご馳走様なものでした。
厳しいことを書いてしまいましたが、長谷川が、この苛酷なスポーツに命の炎を燃やし続けたのは事実です。皮肉ではなく、軽量級日本人ボクサーの特権を十分に享受した、幸せなボクシング人生だったと思います。
ただ、こういうことは繰り返してはいけないのです。長谷川が渇望した、軽量級で日本以上の報酬が稼げるラスベガスの舞台なんて存在しません。本当にファンが喜ぶカードはサーシャ戦であり、西岡戦でした。西岡は西岡でトンチンカンな方向に迷い込んでしまいましたが。
フェザー級以下の世界軽量級史上で最も大きな興行となったのは、マイケル・カルバハルvsウンベルト・ゴンザレスでも、ウィルフレド・ゴメスvsカルロス・サラテでもありません。
薬師寺保栄vs辰吉丈一郎です。
ファンがもっとも喜ぶカードを組む。同国人の世界戦対決もバンバンやる。現在、英国が盛り上がってる最大の要因です。メキシコがボクシング大国であり続けている理由です。
今の世界で最も盛り上がる、興行規模のデカい軽量級のビッグファイトは井上vsロマゴンじゃないでしょう。間違いなく井上vs井岡です。ビッグファイト、ビッグファイトと騒ぐのに、どうしてやらせないのでしょう。これは、星のつぶし合いを極端に嫌う日本のボクシング界の悪弊だけでなく、ジムに気を使って煽りもしないメディアや、長谷川vs西岡と同様にやるわけがないと諦めているファンも悪いですね。
井上vs井岡。やれば誰もが認める「唯一無二」になれるのですが。
コメント
コメント一覧 (3)
主さんも言うように世界ランカーに
相応しくない選手が多く居るのも事実です
石ころはどんなに取り繕っても石ころですし、
宝石はどんなに貶しても宝石です
「世界ランカー」としては、雑魚としか表現のしようのない選手が少なくない現状は嘆かわしいことです。
プロフィールでどんなに気取ったこと言っても御里が知れますよ。