明日に迫ったマイキー・ガルシアvsエイドリアン・ブローナーのジュニア・ウェルター級ノンタイトル12回戦。

スタイリッシュな人気者と、破天荒な野獣の激突。35年前のアーロン・プライアーvsアレクシス・アルゲリョのような名勝負が期待されています。

…と、この注目の一戦について書こうと思っていたのですが、上海で木村翔がとんでもない大番狂わせを起こしてくれました。

マカオでは20−1、欧米でも10〜15−1とブックメイカーが軒並み一方的なオッズを立てたWBOフライ級タイトルマッチで、王者ゾウ・シミンを11ラウンドTKOに屠りました。

海外でも Big upsetを通り越して、Massive upset、とんでもない大番狂わせと報道されています。普通に考えたら、今年のUPSET OF THE YEARは決定、日本ボクシング史上でも過去最大の大番狂わせです。

試合前の会見では「そりゃ日本でやるのがいいですが、僕はそういう選手じゃないので」「ゾウはスーパースター。僕は日本でもうんこ、下の下」と卑下しながらも、「ここまで来たらやるだけ」と異常な闘志を燃やしていた木村でしたが、なにしろ相手はゾウ。

ただし、ゾウは五輪2連覇とはいえ、プロ入り後の評価は決して高いものではありませんでした。36歳という年齢は、単なる経年劣化だけではなく、長年染み付いてしまったアマチュアスタイルをプロ仕様にモデルチェンジするにはあまりにも厳しい数字で、過去の10戦からもゾウの能力に伸びしろがないのは素人目にも明らかでした。

それでも、この中国人が難攻不落と見られていた根拠はたった一つです。強い相手、危険な相手を徹底的に避けて保護されてきたからです。フライ級時代のローマン・ゴンザレスと戦っていたら中盤までも持たなかったでしょうが、ロマゴンのいるリングに上がらなければ、負けることはありません。

【リング誌9月号:STATE OF THE GAMEから。ゾウは、フライ級で「MOST PROTECTED(最も過保護な選手)」に挙げられています。そして、河野公平との試合が決定しているやはり中国のレックス・ツォーもジュニア・バンタム級で「MOST PROTECTED」。河野も木村に続いて、過保護なスターを蹴散らして、大番狂わせを起こしてほしいものです。】

アマチュアスタイルから抜け出せないまま36歳まで保護されてきたゾウの試合は中国だけで数千万人が視聴し、その報酬は50万〜80万ドル、ロマゴンも凌ぐ高級取りです。

さらに、この試合はトップランクと袂を分かち、自ら立ち上げたプロモーションが取り仕切る、記念すべき最初の興行でした。

無名の日本人を豪快に倒して、その門出を祝おうという腹づもりだったのでしょうが、この貴州省出身のアマエリートには、国ぐるみで過保護に担ぎ上げられたデビュー時点から、スターダムに駆け上がるプロボクサーに絶対必要条件であるハングリーさも、煮え切らない試合を繰り返す自身への反省も見えませんでした。

それにしても、まさか木村がゾウをTKOするとは…。プロテクトされてきたとはいえ、それはアマチュアで飛び抜けた実績を持つが故です。対戦相手を吟味しているというのも、ゾウが弱いボクサーというわけではけしてありません。

ジョージ・フォアマンやオスカー・デラホーヤがそうであったように、ゾウが保護されるのは傑出したアマエリートが辿る鉄板ロードだったのですから。

とにかく、ものすごい超大金星です!本当によくやった!

10ラウンド終了時点でボクシングニューズなど米国メディアは2、3ポイント差で木村を支持していましたが、公式ジャッジは94−96、93-97、96−94と2−1でリードを許しており、倒さなければ、あるいは倒しても判定までいけば逃げ切られてしまうかもしれない展開でした。

スタートから貫いたボディ攻撃は本当に、お見事でした。

完全な咬ませ犬が、スターを倒す。フィリピン人ボクサーのお家芸でしたが、裕福な日本では強いボクサーを咬ませに差し出すことはありえません。今回の木村も、ジムの経済力も含めて、弱かった…いいえ、失礼いたしました、弱く見えたことからゾウに選ばれたのです。

それにしても、すごい!木村選手、本当におめでとうございます!!!