4月29日ウエンブリースタジアム、IBF世界ヘビー級タイトルマッチ。アンソニー・ジョシュア(英国)対ウラジミール・クリチコ(ウクライナ)。いよいよその日が迫ってきました。

IBFの赤いベルトに加えて、タイソン・ヒューリーが空け渡したWBAの黒いベルトも、この試合でステイクされます。

18戦全勝全KOのジョシュアが、21世紀を支配し続けてきたクリチコに引導を渡すのか。その先にはデオンティ・ワイルダー(米国)とのヘビー級最強決定戦も見えています。

今回は実際の試合だけでなく、ボクシング興行の中心が米国から英国に移譲されるかもしれないという意味でも注目されています。

将来、歴史を振り返ったとき、このイベントがまさにそのターニングポイントにになっているかもしれないというのです。

遥か遠い昔、昔。19世紀のボクシングは英国が本場でした。その覇権が100年以上の時を経て母国に戻る…長らく米国と日本、メキシコが大きな興行が打てるボクシング3大国でしたが、ここ数年で英国が日本を上回る市場に急成長、それどころか「今や2番目ではない」、つまりアメリカも抜いたと見る専門家まで現れています。

確かに軽量級からヘビー級まで満遍なく世界王者、スター選手をちりばめていること、人気サッカークラブの重要な試合かと思うような熱気溢れる観客席を見ると、すでにこの国がボクシングの中心なのかもしれません。


【英国沸騰ー英国はもはや2番目のボクシング大国ではない リング誌2017年5月号より】

ジョシュア対クリチコ戦も巨大サッカースタジアムに用意された9万席の前売り券があっという間に完売。確かに今のアメリカではこんな規模の興行は打てません。超大興行で拳を交える二人が米国人でもメキシコ人でもプエルトリコ人でもないことに多少の違和感はありますが、今やこれが現実なのです。試合はアメリカでもSHOWTIMEが生中継するものの、視聴者の少ない夕方から寂しく放送されることになります。

ボクシングに限らずアメリカが主導権を握るビッグスポーツが海外で開催される場合、アメリカのゴールデンタイムに合わせるのが常ですが、今回は違うんです。

イニシアティブは米国ではなく英国、興行はマッチルームスポーツとクリチコ・マネジメント・グループが仕切り、トップランクもゴールデンボーイプロモーションも出る幕はありません。

SHOWTIMEに加えて、ライバルのHBOも当日夜に録画放送するので、レノックス・ルイス対マイク・タイソン(2002年)、フロイド・メイウエザー対マニー・パッキャオ(2015年)に続く史上3番目の〝事件〟ですが、ジョシュアもクリチコも米国での人気は低く、しかもゴールデン生放送でないためPPVには乗りません。一方、英国ではスカイ・ボックス・オフィスがPPVを販売します。アメリカにとっては、過去の2つの大戦とは色彩も温度も全く違うイベントになってしまうのです。

ジョシュアがクリチコを鮮烈に沈めるようなことがあれば、ヘビー級を頂点に軽量級までスター選手をフルラインで揃える英国の覇権は決定的になるでしょう。

期待されるワイルダーとの決戦も、ラスベガスやニューヨークの豊富な資金を持つ会場ですら英国の勢いには太刀打ちできない可能性もあります。

ミドル級の村田諒太も当初のターゲットは英国のビリー・ジョー・サンダースでした。しかし、電通とフジテレビがタッグを組んで準備したジャパンマネーを持ってしてもこの試合を日本のリングに引っ張り込むことが出来ませんでした。

それにしても、アメリカのヘビー級王者が招致合戦に敗れて、敵地(英国)で戦う…そんな時代が来るかもしれないなんて!

英国の繁栄と対照的にアメリカ国内でのボクシングの地位は下がる一方です。アメリカ史上最大のスポーツヒーロー(社会的にも巨大な影響力を及ぼしたモハメド・アリは除く)はベーブ・ルースでしょうが、ルースが活躍した1920年代のスポーツ選手人気番付はジャック・デンプシーが圧倒的に1位なんです。アメリカにとってボクシングのヘビー級王者は他のスポーツとは一線を画す、とにかく別格の扱いでした。


【1928年1月27日:アイオワ州のモイネス・レジスター新聞が全米で募った人気投票の結果を発表。67万1525票でデンプシーがダントツ1位。ベーブ・ルースの得票はデンプシーの半分にも満たず2位。3位にもボクサーのジーン・タニーがランクイン。今ではこんなことは考えられません。】

日本が本場の軽量級でもフェザー級のカール・フランプトンを呼ぶのはまず無理ですし、山中慎介が熱望する統一戦も対立王者がジェイミー・マクドネル、リー・ハスキンスという英国人であることも交渉のイニシアティブが取れない理由の一つでしょう。

個人的にはローマン・ゴンザレス陥落で失意の井上尚弥に、WBA王者のカリド・ヤファイとの無敗対決や、マクドネル、ハスキンスとの3階級制覇をかけた一戦に敵地英国へ乗り込んで欲しいですね。Bサイドの不利な条件でも彼の実力なら快挙達成出来るはずです。その舞台がジョシュア対ワイルダーのセミファイナル、9万人の大観衆で埋まったウエンブリーだったら最高ですね。

巨大スタジアムのど真ん中に特設されたリングに注がれる9万人の視線。カクテル光線が幾重にも照射される、その煌びやかなリングまで続く長い長い花道を、容赦のない大ブーイングを浴びながらゆっくり歩を進める井上尚弥…。

見てみたいですねー。そんな試合が決まったら、会社休んで絶対ロンドン行きます。