ミドル級は日本人にとって本当に遠い階級でした。
ヘビー級まで制したボブ・フィッツモンズ、ジャック・ジョンソンを倒したスタンレー・ケッチェル、「傷だらけの栄光」ロッキー・グラジアノ、PFPの起点となったシュガー・レイ・ロビンソン、ボクシング殿堂創設のきっかけとなったカーメン・バシリオ、「レイジングブル」ジェイク・ラモッタ、無類のタフネスを誇ったディック・タイガー、ミドル級史上最強と目されるカルロス・モンソン、スイッチヒッターで強打と打たれ強さを併せ持ったマービン・ハグラー、アリからスーパースターのトーチを継承したシュガー・レイ・レナード。
すぐ一つ下のジュニアミドル級がスター選手に見向きもされない隙間階級だった時代は輪島功一や工藤政志、三原正が王座につきましたが、わずか6ポンド上のミドル級は別世界でした。
しかし、気まぐれで自意識過剰のレナードがハグラーを陥落させたことで、団体分裂時代にも統一王座を維持してきた伝統のミドル級は3つのピースに飛散してしまいます。ハグラー、レナード、ロベルト・デュラン、トーマス・ハーンズ、太陽のように強烈な輝きを放った千両役者が退場した後の舞台には、自ら光を放つことの出来ない貧相な衛星のようなボクサーが現れては消えて行きました。
90年代半ばには、太陽を失ったミドル級は完全に冬の季節を迎えていました。しかし、それは日本にとっては僥倖でした。
1995年当時、WBC王者は何の魅力もないクインシー・テーラー、IBFには後のレジェンド、バーナード・ホプキンスが王座に就いたばかり、さらにWBAでは歴戦とタフさだけが取り柄のホルヘ・カストロが危なっかしい防衛戦を繰り返していました。
【特別リングサイド席¥50,000は最後まで売れ残りましたが、歴史を目の前で見ることになる何とも安い買い物でした】
ミドル級冬の時代。この千載一遇のチャンスをものにしたのが竹原慎二でした。
ホプキンス、テーラー、カストロ。頼りない王者とはいえ、当時この3人に日本人が勝つことは想像できませんでした。カストロはリング誌でも「レベルの下がったミドル級でも一番の穴王者」と見られていましたが、それでもミドル級です。腐ってもミドル級、アジアのボクサーが勝てるとは考えられませんでした。
1995年12月19日後楽園ホール、 WBA世界ミドル級タイトルマッチ、ホルヘ・カストロvs竹原慎二。アジア人の実績がゼロの階級だけに予想は王者有利でしたが、カストロの散漫な性格や不安定な試合運びに、一縷の望みも見えていました。
当初予定から遅れて12月11日に来日したカストロのたるんだ肉体は、分厚いコートを羽織っても隠しきれませんでした。帯同したスーパーミドル級のパートナーと連日激しいスパーリングを続ける異例の光景は、誰の目にも「こんな一夜漬けの練習と減量をするのか。完全に舐めてかかっている」ことは明らかでした。
計量時もカストロの腹回りにはでっぷりと脂肪がついたまま、乾いた唇とカサカサの肌からは重度の脱水症状の兆候が見て取れました。このカストロの姿を見た竹原は「ここまで舐めてるのか。こんな醜いデブには絶対に負けない」と怒りを抑えることが出来なかったといいます。
「あのたるんだ腹に思い切りボディをめり込ませてやる」。竹原の思いは、3ラウンドが始まって30秒したところであっけなく叶えられます。
二人のジャッジが6ポイント差をつける完勝。日本のボクシング史に新たなページが加わった瞬間でした。
しかし、半年後にはウィリアム・ジョッピーのスピードの前に何もできずに惨敗。英国ウィリアムヒルが立てたこの試合のオッズは、竹原勝利が約16倍という一方的なものでした。
竹原が偉業を成し遂げたことに変わりはありません。しかし、幾つもの幸運が重なった奇跡であったこともまた事実です。
【ボクシングマガジン1996年2月号の綴込みポスター「第3ラウンド、竹原の左ボディでカストロがダウン!」】
竹原以来、22年ぶりにミドル級のベルトを日本にもたらすことが期待されている村田諒太ですが、竹原との違いはおそらく有利のオッズが立つことです。現時点では大手のブッカーはオッズを出していませんが、おそらく3−2レベルで村田やや有利のオッズが立つはずです。
しかし、ヌジカムは簡単な相手ではありません。村田にとっては間違いなくプロキャリア最強の相手になります。しかも、今まで温室的なマッチメイクで白星を重ねてきた村田にとっては飛び抜けて最強です。
圧倒的な勝ち方が出来れば、ゴロフキンやカネロとのメガファイトも取り沙汰されるでしょうが、それはどうしても想像できません。簡単な試合になるわけがないと思います。
竹原vsカストロも、チャンスはゼロでは無いとは思いましたが、惨敗を予想しました。今回も、私の予想が外れて、試合後にESPNやリングの速報にGGGやカネロとの対戦を煽る記事が踊ることを熱く熱く期待しながら、5月20日を待ちたいと思います。
ヘビー級まで制したボブ・フィッツモンズ、ジャック・ジョンソンを倒したスタンレー・ケッチェル、「傷だらけの栄光」ロッキー・グラジアノ、PFPの起点となったシュガー・レイ・ロビンソン、ボクシング殿堂創設のきっかけとなったカーメン・バシリオ、「レイジングブル」ジェイク・ラモッタ、無類のタフネスを誇ったディック・タイガー、ミドル級史上最強と目されるカルロス・モンソン、スイッチヒッターで強打と打たれ強さを併せ持ったマービン・ハグラー、アリからスーパースターのトーチを継承したシュガー・レイ・レナード。
すぐ一つ下のジュニアミドル級がスター選手に見向きもされない隙間階級だった時代は輪島功一や工藤政志、三原正が王座につきましたが、わずか6ポンド上のミドル級は別世界でした。
しかし、気まぐれで自意識過剰のレナードがハグラーを陥落させたことで、団体分裂時代にも統一王座を維持してきた伝統のミドル級は3つのピースに飛散してしまいます。ハグラー、レナード、ロベルト・デュラン、トーマス・ハーンズ、太陽のように強烈な輝きを放った千両役者が退場した後の舞台には、自ら光を放つことの出来ない貧相な衛星のようなボクサーが現れては消えて行きました。
90年代半ばには、太陽を失ったミドル級は完全に冬の季節を迎えていました。しかし、それは日本にとっては僥倖でした。
1995年当時、WBC王者は何の魅力もないクインシー・テーラー、IBFには後のレジェンド、バーナード・ホプキンスが王座に就いたばかり、さらにWBAでは歴戦とタフさだけが取り柄のホルヘ・カストロが危なっかしい防衛戦を繰り返していました。
【特別リングサイド席¥50,000は最後まで売れ残りましたが、歴史を目の前で見ることになる何とも安い買い物でした】
ミドル級冬の時代。この千載一遇のチャンスをものにしたのが竹原慎二でした。
ホプキンス、テーラー、カストロ。頼りない王者とはいえ、当時この3人に日本人が勝つことは想像できませんでした。カストロはリング誌でも「レベルの下がったミドル級でも一番の穴王者」と見られていましたが、それでもミドル級です。腐ってもミドル級、アジアのボクサーが勝てるとは考えられませんでした。
1995年12月19日後楽園ホール、 WBA世界ミドル級タイトルマッチ、ホルヘ・カストロvs竹原慎二。アジア人の実績がゼロの階級だけに予想は王者有利でしたが、カストロの散漫な性格や不安定な試合運びに、一縷の望みも見えていました。
当初予定から遅れて12月11日に来日したカストロのたるんだ肉体は、分厚いコートを羽織っても隠しきれませんでした。帯同したスーパーミドル級のパートナーと連日激しいスパーリングを続ける異例の光景は、誰の目にも「こんな一夜漬けの練習と減量をするのか。完全に舐めてかかっている」ことは明らかでした。
計量時もカストロの腹回りにはでっぷりと脂肪がついたまま、乾いた唇とカサカサの肌からは重度の脱水症状の兆候が見て取れました。このカストロの姿を見た竹原は「ここまで舐めてるのか。こんな醜いデブには絶対に負けない」と怒りを抑えることが出来なかったといいます。
「あのたるんだ腹に思い切りボディをめり込ませてやる」。竹原の思いは、3ラウンドが始まって30秒したところであっけなく叶えられます。
二人のジャッジが6ポイント差をつける完勝。日本のボクシング史に新たなページが加わった瞬間でした。
しかし、半年後にはウィリアム・ジョッピーのスピードの前に何もできずに惨敗。英国ウィリアムヒルが立てたこの試合のオッズは、竹原勝利が約16倍という一方的なものでした。
竹原が偉業を成し遂げたことに変わりはありません。しかし、幾つもの幸運が重なった奇跡であったこともまた事実です。
【ボクシングマガジン1996年2月号の綴込みポスター「第3ラウンド、竹原の左ボディでカストロがダウン!」】
竹原以来、22年ぶりにミドル級のベルトを日本にもたらすことが期待されている村田諒太ですが、竹原との違いはおそらく有利のオッズが立つことです。現時点では大手のブッカーはオッズを出していませんが、おそらく3−2レベルで村田やや有利のオッズが立つはずです。
しかし、ヌジカムは簡単な相手ではありません。村田にとっては間違いなくプロキャリア最強の相手になります。しかも、今まで温室的なマッチメイクで白星を重ねてきた村田にとっては飛び抜けて最強です。
圧倒的な勝ち方が出来れば、ゴロフキンやカネロとのメガファイトも取り沙汰されるでしょうが、それはどうしても想像できません。簡単な試合になるわけがないと思います。
竹原vsカストロも、チャンスはゼロでは無いとは思いましたが、惨敗を予想しました。今回も、私の予想が外れて、試合後にESPNやリングの速報にGGGやカネロとの対戦を煽る記事が踊ることを熱く熱く期待しながら、5月20日を待ちたいと思います。
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