マジソンスクエアガーデンで行われたダブル世界戦。リング誌、ESPNが共に認めるパウンドフォーパウンド(PFP)1位のローマン・ゴンザレスがまさかの敗北。さらに無敵の快進撃を続けるリング誌4位、 ESPN2位のゲンナディ・ゴロフキン(GGG)が連続KOの世界記録更新を阻まれる小差判定勝ちと、大方の予想を裏切る結果となりました。

この結果を受けてPFPランキングに変動があるでしょう。まず、ロマゴンの1位陥落は確実です。リング誌では「あと1試合でグローブを吊るす」と引退を示唆している2位アンドレ・ウォードが1位に繰り上がりになるのでしょうが、キャリアを終えることを考えている選手が1位というのはどうもしっくりしません。ESPNの2位はGGGですからこちらも繰り上げになりそうですが、スカッとしたPFP1位ではないですね。

そもそもPFPには「これが正解」なんてものが存在しない脳内ランキングです。PFPの定義も「階級を無視して誰が一番強いか」という漠然としたものくらいしかなく、その定義も「現実のリングでロマゴンと接戦を演じたカルロス・クアドラスはPFP10位にも入らないのはなぜ?」と聞かれて、納得できる答えを用意するのは難しいですし「今日、ロマゴンに勝ったシーサケット・ソールンビサイと GGGも手を焼いたジェイコブスはPFP10以内には入るよね」と言われても困ってしまいます。

もし、今日勝ったのが井上尚弥(リング誌10位/ESPN12位タイ:マイキー・ガルシアと同点)なら3〜6位あたりにジャンプアップするかもしれません。ノーマークの選手による大番狂わせはカウントされないんですね、脳内ランキングなのに、変に保守的なんです。と言うか、脳内ランキングだから保守的なのか。現実の試合こそが、脳内を凌駕してラディカルですもんね。

【ジョー小泉氏も触れていた「ロマゴン敗北」を予見したリング誌の記事】

リング誌のランキングは「会議制」、つまり専門家の意見をまとめて編集部が作成するのですが、ESPNは約10人のパネラーによる投票制です。リング誌のランキングの根拠は恣意的なものですが、ESPNは1位票を10点〜10位票を1点で採点するものです。※リング誌も年間PFPはポイント制です。

わかりやすいのでESPNのランキング(2月2日付)を見てみると1位から10位はロマゴン94点、ゴロフキン77点、ウォード73点、セルゲイ・コバレフ68点、ワシル・ロマチェンコ53点、テレンス・クロフォード52点、マニー・パッキャオ46点、カネロ・アルバレス38点、ギレルモ・リゴンドー14点、キース・サーマン13点となっています。11位からはレオ・サンタクルーズ6点、井上とガルシアが5点、オスカー・バルデスとデオンティ・ワイルダーが2点、ティモシー・ブラッドリーとエロール・スペンスJr、カール・フランプトンが1点。これが全票得点の振り分けです。

最も重要な1位票はさすがにブレは少なくロマゴンが8票、ウォード1票、ロマチェンコ1票。総合2位、77点のゴロフキンには1位票は投じられませんしたが、10人中8人が2位、9人目も5位に推して、この時点ですでに77点なんです。

そうです。10人のパネラーの中でただ一人だけゴロフキンにトップ5票を投じなかったばかりか、1点(10位票)すら与えなかったパネラーがいるんです。

テディ・アトラスです。

カス・ダマトの元でマイク・タイソンのトレーナーを務め、最近ではブラッドリーをコーチ、解説者としても人気の高いアトラスの評価は1位からロマチェンコ、クロフォード、ウォード、サーマン、コバレフ、ゴンザレス、リゴンドー、アルバレス、パッキャオ、スペンスJrの順です。上位3人を見ただけでアトラスの好みがはっきりわかりますね。

この評価が「GGGに1票も入れないのはまだしも、カネロに投じてるのはおかしい!」と非難轟々、すぐにアトラスはその理由を説明しました。

***PFPは抽象的なランキングだからこそ冷静な頭で事実に基づいた結果から思考していかねばならない。まず厳格な考察を優先してから、最後には自分の経験、さらには直感まで持ち出してリストを完成させることになる。分かりやすい試合を見せて、明晰な言葉でメディア対応するGGGはボクシング界にとって素晴らしい存在だ。しかし、ファンが喜ぶエキサイティングなパフォーマンスはPFPには関係がない。またPFPを決めるときに8ヶ月前の試合内容を考慮してはいけない。私も前回までは GGGをトップ10リストに載せていた。

いろんな評価基準があるだろうが、この5つの要素に絞って見ることだ。① Talent: Pure ability(才能:純粋な能力/身体能力、頑丈に生まれついた肉体)②Technique: How does he apply his talent?(その純粋な能力をいかに高い技術に還元しているか)③Time and consistency: How long has he performed at this level?(安定してハイレベルなパフォーマンスを見せているか)④Competition: How good is it?(優れた相手との厳しい戦いの中でどれだけ真価を発揮出来ているか)⑤ Slippage: There’s always someone breathing over your shoulder(歴戦・加齢による衰えは見えないか)。

GGGは肉体的な頑健さでは私が選んだ10人のリストの誰にも負けていない。しかし技術的にはこの10人に劣る。そして彼は衰えを見せている。ケル・ブルック戦は体調不良だったかもしれないが技術的な欠陥は明らかだ。そして彼の対戦相手については疑問が付きまとっている。

さらに私がこう言うともっと怒りを買うだろう。今すぐGGGとカネロが戦うなら、GGGが勝つ。その理由はたった一つ、GGGはカネロにとっては大き過ぎるからだ。つまりPFPが大前提として無視しなければならない要素なのだ。直接対決させて決めるならPFPランキングはヘビー級の選手しかいなくなる。

技術的にカネロは進化しているし、いろいろな引き出しも見せているが、GGGはそうではない。だから私はカネロを8位に入れた。

「GGGの対戦相手が貧相だというならスペンスJrはどうなるんだ!」と詰め寄る人もいるだろう。それは認める。最後の10位にスペンスJrを選んだのは、私の経験と直感だ。彼はもっと高いレベルでも優れたパフォーマンスを見せるだろう。あと二つ、12位の票までもらえたらGGGとガルシアに投じていた。

私のリストを非難するのはよく分かるが、これがPFPだ。いろんな評価の角度があること、それがPFPだ。***