世界最大のスポーツメディアはESPNですが、最も精度が高く斬り込みが鋭いのはThe Athleticでしょう。

https://fushiananome.superknova.org/archives/32774762.html

今朝の御堂筋線からは、そのThe Athleticがアップしたてホヤホヤのロボット審判「ABS」についての記事から。

導入に賛否もあったABSですが、1ヶ月が過ぎて多くの人が楽しんで見ています。

「シーズン終了までに1万回以上のチャレンジと5000件以上の判定覆しが繰り広げられる見通しで、週200回のペースで人間審判の判定が否定される計算」だそう。

このブログでもふれていますが、ロボット審判はホームベース上の真ん中に切り立った平面のストライクゾーンで判定していますが、実際のゾーンはホームベース五角柱の立体です。ABSのストライク判定は間違いなくストライクですが、ボール判定には平面では外れていても、五角柱の立体をかすめたストライクも含まれています。

そんな未完成のABSでも、人間審判よりもはるかに正確なジャッジです。

現在、2度失敗までチャレンジが認められているABSですが、これを「全面導入すべきかどうか?」がこの記事のテーマ。

「人間審判よりも正しいことが証明されているのだから、導入すべきに決まっている」のが〝正解〟?

もちろん、機器の故障なども起こり得ますからバックアップの審判の準備は必要です。「ワールドシリーズのゲーム7、1点差をめぐる最終回の攻防でABSシステムが故障、その場面で下手すると何年も実戦で判定していない審判に任せられるのか?」という意見は、ここではテーブルの外に置きます。

一方で、フルABSでもハーフスイングやボーク、捕手の守備妨害など主審が判定しなければいけないことは少なくありません。つまり、フルABSにしても主審は捕手の後ろに立っていなければならないのです。この空虚感は主審だけでなく、ファンも同じでしょう。「これではあまりにも主審が手持ち無沙汰だからフルABSはダメ」という意見も、一旦外します。

ロボット審判は、MLBに導入される前に3Aで実験が繰り返されてきました。

週6日の試合で3試合をチャレンジ、残りの3試合をフルABSの形式で進行したシーズンで、選手と監督・コーチに聞いた「どの形式が良いと思うか?」というアンケート結果(Source: Major League Baseball)は以下の通りでした。

チャレンジ ― 54%
フルABS ― 8%
人間の審判 ― 38%

アンケート前の「フルABSに多くの支持が集まる」と見られていた仮説が完全否定される現実が突きつけられたのです。

そして、最も重要なファンを対象にしたアンケートでは…。

チャレンジ ― 47%
フルABS ― 23%
人間の審判 ― 30%

この結果も踏まえて、今年からのMLB導入ではチャレンジが選択されました。

しかし、今年のWBC、米国vsドミニカの最後の1球。あれは明らかにボールでした。親善の意味合いが濃いWBCだから良かったものの、ワールドシリーズやプレーオフで同じことが起きてしまうと大問題に発展します。

では、やはりフルABSが正解なのでしょうか?

フレーミングという言葉が広がる以前から、微妙なボールをストライクに見せる捕球技術はありました。フルABSになると捕手の技術練習は大きく減ることになります。

あるいは、外角変化球狙いの打者にズバッと内角ギリギリにズバッと速球を投げ込む、打者も「負けた」と白旗を挙げる投球でも、ストーリーを無視するABSは無機質に「1ミリ外れたボール」と判定します。

日本の野球に侘び寂びがあるように、ドライに映るMLBにも野球ならではの機微があります。

捕手のフレーミング同様に、グレッグ・マダックスが長年かけて審判とファンに刷り込んだ「この投手のコントロールに狂いはない」という上質な洗脳など、ロボット審判には通用しませんが、それで本当に面白いのでしょうか?

AI技術もブレンドされた将来はストライク・ボールの判定に「(物理的なストライクゾーンの)技術点」だけでなく、打者の裏をかいたり、それまでの打席での駆け引きまで包括した「(数ミリレベルの)芸術点」も加味できるようになるかもしれませんが、それはロボットの役目ではない気もします。

もちろん、ABS導入はスポーツベッティング市場の急成長も大きな背景になっています。MLBでも巨大スポンサーになっているスポーツベッティング産業にとって、曖昧な判定は顧客の不信感を招くだけ。MLBでも、試合を決定づけるプレーに絡んだ人間審判やエラーをした選手などへの脅迫や誹謗中傷への対応は喫緊の課題です。


So, is there a middle ground?
〜だったら、落とし所はどこにあるのか?



水清ければ魚棲まず(孔子家語)。さまざまな事情と清濁を併せ飲むと、チャレンジ形式が最も適切に思えてきます。

「現行の失敗2回までを3回までにすべき」「チャレンジを使い果たしたあとに、とんでもない重大局面が来たらどうするんだ?やっぱりフルABSでは?」という、多くの意見はこれからじっくり検討されるべきでしょう。


The Athleticの記事を要約するつもりでしたが、数字データなどを除いて、ほとんど全てが私見、私の文章になってしまいました。あしからず。

それにしても、ABS。最初は「野球を無機質にするだけ」と否定的な意見もありましたが、水戸黄門の印籠みたいで「いつ出すのか?」や、「捕手ウィル・スミス」のチャレンジは精度が高いが「打者ウィル・スミス」は全くダメ…など、試合を楽しむ隠し味になっています。