
5月2日の東京ドーム。
井岡一翔がWBAバンタム級のタイトルホルダー井上拓真を攻略すると、日本人初の5階級制覇が完成します。
ストロー級(105ポンド)からバンタム級(118ポンド)までの13ポンドは、17階級で最もウエイトスパンの軽い5階級です。
最も重い5階級はミドル級(160ポンド)からヘビー級(200ポンド+)の40ポンド(ヘビー級は200ポンドを大きく超えて競われますから実際にはそれ以上)。
競技人口や専業プロ人口まで考慮すると、ストロー級からバンタム級までのタイトルをピックアップするのは最も安易な5階級制覇と考えて全く差し支えありません。
サウジアラビア・総合娯楽庁がサポートするズッファ・ボクシングが「現代のオリジナル8」として、ジュニアバンタム級以下の4階級を「現代人の体格と腐敗した認定団体が営利目的で増殖させた不要なクラス」と削除したことにまともに反論できる人はいないでしょう。
フライ級を含めた〝旧〟オリジナル8では、井岡はこれが2階級制覇への挑戦。現代のオリジナル8なら、キャリア初の〝まともな階級〟へのアタックとなります。
しかし、ストロー級からスタートする複数階級制覇が最も安易であるのはわかりますが、それが〝登り坂〟であることも見逃せません。
例えば、最もハイレベルとされるウエルター級を起点にジュニアミドル級(アユブ・カルレ)、ミドル級(マービン・ハグラー)、スーパーミドル・ライトヘビー(ドニー・ラロンデ)5階級(28ポンド幅)を抑えたレナードにとって、実質5年のブランクから挑戦したハグラー戦はアンダードッグでしたが、その道のりは〝下り坂〟だったと言えるでしょう。
まあ…ハイレベルな話ですが。
ストロー級から上げてゆく5階級制覇は、競技人口が厚くなる坂道を登り続ける旅程となります。それを言い出すと、フェザー級からウエルター級まで(21ポンド幅)の5階級も登り坂だけ、しかも軽量級から人気階級へ、言葉を選ばずにいうと低レベルからハイレベルの山を乗り越える過酷な道のりになります。
井岡のストロー級からバンタム級はジュニアフェザー級までの超軽量級という小さなコップの中で完結するとはいえ、坂を下ったレナードとは違う登りの5階級制覇でした。
ウエイト幅やウエルター級を頂点とする階級攻略難易度の山を考えると、ストロー級〜バンタム級の5階級制覇は最も安易と言えますが、デタラメランキングに立脚したデタラメチャンピオンシップが染み付いている現代ボクシングで最も評価されるのは「誰に勝ったのか?」。
井岡の4階級を振り返ると…。
【ストロー級】WBC=オーレイドン・シスサマーチャイ(2011年2月11日:5ラウンドTKO)/WBA=八重樫東(2012年6月20日:12ラウンド判定)…オーレイドンは当時階級最強。
【ジュニアフライ級】WBA決定戦=ホセ・アルフレド・ロドリゲス(2012年12月31日:6ラウンドTKO)…前月にファン・フランシスコ・エストラーダに勝利したローマン・ゴンサレスがスーパー王者に認定されていたため、このタイトルはセカンド。WBAがロマゴンとの統一戦を指示しますが、当時のプロモーター父親の一法が回避。
WBOは評価の高いドニー・ニエテスでしたが、当時のJBCはIBFに加盟していませんでした。3度目の防衛戦でのちの強豪フェリックス・アルバラードに初黒星をつけましたが、ロマゴンとの決戦から逃げたことは日本のボクシングファンを失望させてしまいます。アルバラード戦後にロマゴンがスーパー王座を返上したため、正規王者となり、ESPNやリング誌などのメディアでも2階級制覇と認められます。
…ニエテスは仕方がないにせよ、ロマゴンとの決戦を回避、108ポンドでは階級最強とは言えませんでした。
【フライ級】IBF=アムナット・ルエンロン(2014年5月7日:12ラウンド1−2判定負け)。リング誌やESPNでも評価が高かったルエンロンに勝って3階級制覇ならPFP入りの目もありましたが、キャリア初黒星。ルエンロンがボクシングシーンなどのPFPで10傑入り。ルエンロンは井岡、ゾウ・シミンと、ロマゴンから逃げたAサイドの大物を競り落とすハンターでした。
WBA=ファン・カルロス・レベコ(2015年4月22日:12ラウンド判定)。スーパー王者にエストラーダが認定されていたため、まともなメディアに3階級制覇が認められるのは、翌年9月にエストが返上した時点。ニカラグアのホープ、キービン・ララを11ラウンドで仕留めるなど、海外評価は高かったものの一法との亀裂は回復不可能の段階まで進行、2017年12月31日に引退宣言。
【ジュニアフライ級】WBO=ドニー・ニエテス(2018年12月31日:12ラウンド1−2判定負け)。ジュニアバンタム級の門番マックウィリアムズ・アローヨを判定で下して、強豪ニエテスに挑戦するも惜敗。
WBO=アストン・パリクテ(2019年6月19日:10ラウンドTKO)で、ニエテスが返上した空位のストラップを拾う。初防衛戦でプエルトリコのホープ、ハビエル・シントロンに判定勝ち。2度目の防衛戦で4階級制覇を狙った田中恒成を8ラウンドでストップ、リング誌とESPNでのPFP入りを果たす。
WBA王者ジョシュア・フランコとのドローと再戦での勝利、その間WBOが指示した中谷潤人を迎える防衛戦を回避。IBF王者フェルナンド・マルチネスのフィジカルに押されて陥落、再戦でもリベンジならず。
【バンタム級】WBC=井上拓真(2026年5月2日:?)…井上尚弥と中谷潤人の二重の砲火で焼け野原にされたバンタム級では、拓真に勝っても階級最強とは呼べません(階級1位はTBRBがクリスチャン・メディナ、リング誌とBoxRecが堤聖也)。
拓真に勝利したとして振り返っても、井岡が階級最強と認められるのはストロー級のみ。残りの4階級は事実上のセカンド(サード?)王者。
日本ボクシング史上屈指のテクニシャンではありますが、タイトルがバーゲンセール状態の4Belt -Eraだからこそピックアップできたタイトルばかりです。
その意味では、井岡もまたデタラメ・ボクシングの〝被害者〟という見方も出来るのですが…。もし、サウジが「理想」と標榜し、誰も否定できない「新オリジナル8(バンタム/フェザー/ライト/ウエルター/ミドル/ライトヘビー/クルーザー/ヘビー)」なら、現時点では0(ゼロ)階級制覇。
このまま、サウジがボクシング界を制圧するかどうかは不透明ですが、もしそうなると未来のレコードブックでの井岡は、拓真に勝ったとしても「世界タイトルはデタラメ認定団体の水増し階級では獲得したが、まともなタイトルは獲れなかった」という評価になります。
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