アドベンチャラスな思い出を語るシリーズでしたが「もうこれは〝時効〟やからな!」という、〝時効〟を迎えたと思ってる逃亡犯の告白になってしまいつつあります。

いやいや、犯罪ではない!と思いつつも、もう一度あのときに戻ったとして「大古墳の掘を夜中に渡るか?」「廃線ホカホカ(そんな言葉があるのかどうか知らんが)の落石パラパラの崖っぷちを歩くか?」「アルジェリア政府が立ち入り禁止にしている丘陵地帯に入ろうとするか?」と聞かれると、もちろん今なら考えるまでもなく即刻、やめます。

いまなら「前方後円墳の後円に人間の頭くらいのダイアモンドが転がってる」なんて聞かされても「常識で考えろ!そんなわけあるか!あったとして、それビニールボートに乗せて濠を渡れると思っとるんか!誰が行くか!」と突っぱねます。

「廃線になったばかりの渓谷の単線を探検しよう」とちょっと可愛い女の子から誘われても「渓谷の単線・廃線跡ってとんでもない崖っぷちやおまへんか。そんな危険なとこ近寄れまへん!1人で行きなはれ」と、お断りです。

そして、爆破されたレストランを「絶対安全」と数時間前に案内した現地アシスタントに「旦那、松茸が群生してる山脈がありまっせ」なんて囁かれても「お前のいうことなんか誰が信じるか!」と怒鳴りつけます。

絶対、やめます。おそらく、やめます。多分、やめます。やめると思います…まあ、もしかしたら、何かの拍子でちょっと気が変わって、行っちゃうかもしれませんが…。

IMG_4365


私の2ヶ月にわたるアルジェ生活をサポートしてくれた助手のデービースは面白い男でした。

彼がホモセクシャルであることに気づいたのは、彼に愛を告白されたときでしたが…それがまたとんでもないタイミングでした…。

私に告白してくるヤツというのは、廃線跡デートした晴田や、松茸山&ホモのデービース…他にもまともじゃないのが、とにかく圧倒的に多いのです。…もう、あまりにも悲しすぎる。

いやいや、ホモがまともじゃないと言ってるんじゃなくて、晴田もデービースも告白のタイミングがおかしすぎる、まともじゃないのです。。特にデービース。

晴田は卒業式が終わった後、俺はもう東京に行くことが決まってる。もっと早く言ってくれたら、ちゃんと学校に行ってたのに(絶対行ってませんが…)。

そして、デービースはもっと酷くて、「松茸が生えまくってる山」に行ったときです。人生で最も死に近づいたというか、最も殺されかけた状況です。

ちなみに、高校時代に超ガラの悪いバカ外国学校のバカ不良どもにリンチにあったことがあり「ああ、俺、ここで死ぬんや」と思いましたが、そのときはアルジェリアほどの絶望感はありませんでした。

その日、デービースの言われるままに中古のおんぼろハイエースで松茸山をガタゴトガタゴト、目指しました。

「おまえ、絶対危険地帯は通るなよ。ラゴスよりは安全とか、そんなもんは安全地帯とは言わんからな!俺が引き返せと言ったらすぐ引き返せよ!」と、整備されたアスファルトの道路から、未舗装の道路へ、赤土の埃を濛々とあげながら走るハイエースの助手席で、私は嫌な予感に震えながら叫ぶのでした。

そして、1時間ほども走るとその松茸山に。それは山と呼ぶには低い丘でしたが、山脈のように連なっているようで、デービースのいうように確かに松茸に見えるキノコがびっしりと密生していたのです。

gzero3_4902388072876

松茸なんて自分で買って食べたことなど一度もなく、その香りも永谷園のお吸いものでしか、はっきりイメージできません。

それでも、一つもぎ抜いて香りを嗅ぐと確かに永谷園の匂いがします!!!本物ならもっと匂いが強いんじゃないかという気もしましたが、確かに私の嗅覚、記憶にある松茸の匂いでした。


とりあえず、いくつか持ち帰って料理してみようと、大きなトートバッグに松茸らしいキノコを詰められるだけ詰めました。
この山脈(丘脈?)がどれほどの規模で、どこまで松茸が群生しているのかわかりませんが、とんでもない量であるのはわかります。100万本とかのレベルじゃありません。数千万本、いやもっとあったでしょう。

末端価格で1本2000円としても数百億円レベル…もちろん、私が所有する山ではありませんが、アルジェから50kmも離れた乾燥地帯、二束三文で買えるような気がします。

現地法人を作って一儲けできるんじゃないか、そうなればもうこんな会社には「俺は松茸王になる!」と辞表を叩きつけ超悠々自適な生活を送る…なにしろ少なく見積もって年商数百億円レベルです!

ウイスキーなんてバランタインでもホワイト&マッカイでもマッカランでもボウモアでも、もう30年ものしか飲まないのだ!12年ものを買おうかどうか迷ってた俺とはもうオサラバだ!

いや、そんなチンケなレベルじゃない。ハワイ諸島の小さな島くらい買ったろか?パ・リーグの不人気球団を買収してオーナーになったろか?松茸ライオンズとか!

帰りのハイエースの助手席で「デービース、お前もこんな契約アシスタントから解放されるぜ」と、私はすぐにあの山の所有者と交渉しようと、膨らむ一方の夢と希望に「ああ、フォーブスの世界の長者番付に載っていまうがな」…とクラクラしてしまうのでした。

しかし、好事魔多し。というか、結果的には「好事」もなく「魔」しかなかったのですが…。

舗装された道路に入るとすぐに、ジープが並走してきて止められてしまいます。ジープに乗っていた5人の男が飛び降りて、車から出ろと命令します。

使い古されたライフルを肩にかけた男たちは英語でもフランス語でもない言葉、たぶんアラビア語で「アルジェリア警察だ」「アルジェリア陸軍だ」と、「どっちやねん!」なことを言ってきましたが、私たちは「どっちやねん!」なんて言えません。

木製のグリップが目を引くライフルは、カラシニコフでした。

OUTLINE_ak-kalashnikov_17

出張前にいろいろ研修受けました。⬆︎「カラシニコフを持ってるのは非政府のならず者」って言われても…。



私の頭の中ではバランタイン30年も、パ・リーグの球団も、ハワイの別荘島も完全に霧散し「もう生きて帰れるだけでそれ以上は何も望みません」と神様に祈ってました。

彼らが何かをいうたびにデービースは「日本人か?」「カネを全部出せ」「抵抗しなければ安全は保証する」「おとなしく人質になれ」と、絶望的なことを通訳してきます。

デービースは「彼らは日本人じゃないお前は邪魔だからここでさよならだと言ってます」「最後に言い残すことはないかと言ってます」と通訳すると、私に向かって「優しいあなたを愛してました。他の人と違って親身になっていろんな話を聞いてくれた。あなたはストレートかもしれないが、そうでなければ私はあなたと結婚したかった」と、わけのわからない場面でわけのわからないカミングアウト!

ここで何を告白しだすんだーーーッ!!!ということを泣きながらしぼり出すのです。

私はデービースに彼らに伝えろと「日本人じゃない、貧しい南アジアからのボートピープルだ。カネなんて持ってない。車を見てくれ、日本の金持ち企業の社員が壊れかけのハイエースで移動するか?(幸運なことに社用車の戦車みたいなボルボは故障して修理に出してた)。国連に難民申請している私たちを殺したり、人質にとって面倒なことになるのはあなたたちの方だ」と、まくしたてました。

しかし、彼らは信用しません。

ハイエースの車内を家探ししていた1人の男が松茸に膨らんだいくつものトートバッグの中身を見て臭そうに顔をしかめると「こんなものをどうするつもりだ?」と聞いてきました。

「食うものにも困ってるから焼いて食べようと思った。ハイエースとそれが今の私たちの全財産だ。欲しければ持っていけ」とデービースに通訳させると、彼らの態度が明らかに変わりました。

「俺たちはなんてババを引いちまったんだ!」とハイエースを蹴り、唾を吐き、松茸をあたりにばら撒きました。

腰が抜けたデービースはしゃがみ込み、彼らの罵声を「貧乏人がアルジェリアに来るな、と言ってます」と泣きじゃくりながら律儀に訳します。

面倒なことに巻き込まれるのは御免だとばかりに、彼らは松茸を入れていたトートバッグだけを持って立ち去ってくれました。

帰りは私が運転しながら「いや、命拾いした。本当に命拾いした。もう全部忘れよう。(お前が俺を性的対象として見ていたことも含めて)全部、全部忘れよう」と言いました。

デービースが「アルジェリアの私たちはあのキノコの匂いが好きじゃないんです。あんなのを食べなきゃいけないほど貧窮してると、あれで納得したみたいです。でも、あれを積んでいない往きで捕まってたら危なかった、命拾えなかったです。ボルボも修理中で良かったです。あんな車乗ってて難民なんて通用しません」と、あらためて思い返すとゾッとすることを言うのでした。

渡航前に外務省から注意を受けてましたが、それ自体も無茶苦茶な内容でした。「カラシニコフを持ってるやつには気をつけなさい。彼らは政府の正規軍の制服や腕章を付けていても偽物。本物は政府から支給されたM16などの自動小銃を持っている」「カラシニコフの特徴は木製のハンドガードやグリップ、特徴的な形状の装弾マガジン…」と図説してくれるのですが、これ、もう崖っぷち廃線跡の「落石注意」以上におかしな話です。

「あ、カラシニコフだ。注意!」「M16だから大丈夫」なんて、あっという間に停車させられるのにわかるか!「落石注意!」も、お!落ちてきた、ヒョイッ、なんて出来るか!

ちなみに、アルジェリアの松茸は熱を通すと香りが完全に消失、無味無臭、発泡スチロールを食べているようなものでした…。

カラシニコフと、落ちてこなかったとはいえ武庫川渓谷の落石…どっちが怖いかは微妙ですが、野球部でもモテモテだった女の晴田と、男のデービースではもう全く違います。


それにしても…私の周囲には、まともじゃない奴が多い気がします。悲しすぎる。