いよいよ明日に迫った、那須川天心vs井上拓真。

この試合ではWBCの公開採点が採用されます。

誤解している人がいるかもしれませんが、ルールではなくWBCが用意したオプションです。

世界的には公開採点を選ぶ試合の方が圧倒的に少ないのが現状で、米国では認めていません。

その最大の理由は、試合を面白くなくしてしまうスイッチになる可能性が多分にあるからです。



2010年2月6日に行われたWBCライト級王者エドウィン・バレロとアントニオ・デマルコの一戦は、王者が連続KOのテープを27試合に伸ばせるかも注目されていました。

試合はバレロが支配するも決定的な場面を作れないまま、9ラウンドが終了。残り3ラウンドで仕留めるのは難しいと思われましたが、第10ラウンド開始ゴングに応じず椅子に座ったままのデマルコにTKO負けが宣告されました。

デマルコはこのスポーツで最も軽蔑される「試合を捨てたquitter」と非難されましたが、8ラウンド終了時点の公開採点(3者とも81−89)を聞いて戦意を大きく削がれたと、一部で同情の声もあがりました。

連続KO記録は持っていても単体で米国では売れるほどの人気がないバレロに、やはり人気薄のデマルコの試合はメキシコで行われたため、公開採点もひっついてきたのでした。

Open Scoring…


2021年9月21日、WBCフライ級王者の寺地拳四朗は9度目の防衛戦に矢吹正道を迎えます。

すでにいくつかの海外メディアでPFPに数えられていた拳四朗はいつものように多彩な左ジャブを使って矢吹の突進を捌いていましたが、第4ラウンド終了時の公開採点は1人が38−38のドロー、残る2人はなんと36−40で矢吹のフルマーク。

拳四朗のコーナーは明らかに動揺し、作戦変更を余儀なくされます。ジャブを評価する世界の趨勢、特にラスベガスだったら拳四朗のフルマークだったかもしれませんが、ここは日本。乱打戦に巻き込まれた拳四朗は10ラウンドでストップ負け。



ボクシング専門記者ダン・ラファエルは「途中採点を知ることで、選手が作戦変更することがあってはいけない」と断じ、シェーン・モズリーも「「8ラウンドの採点発表でリードしていたら、残りの4ラウンドの戦い方は明らかに変わる。試合の3分の1が価値のないものになってしまう」と否定派でした。

WBCが公開採点を導入する以前に、IBFは影響力の少ない軽量級で実験をしています。

1999年4月24日、空位のIBFジュニアバンタム級タイトルをラタナチャイ・ソーウォラピンと争い、素晴らしいボクシング教室を披露していたマーク・ジョンソンは8ラウンド終了のアナウンスで大量リードを聞いて、残りの4ラウンドを時計の針を進めることだけに注力してしまいました。

「危険を冒す必要が一切ないことを知ったら誰でもあの戦い方になる」(ジョンソン)というわけです。

専門記者のスティーブ・キムも公開採点は「百害あって一利なし」と完全否定。「ジャッジの傾向を知らずに試合終了のコールを聞いて選手が後悔することを減らしたい」というなら、採点公開のタイミングは3ラウンドと6ラウンドにすべき。それでも、反対だけど」。



もし、公開採点がなければ、矢吹とのダイレクトリマッチの圧勝したファイター拳四朗は生まれてなかったかもしれませんが、個人的にも公開採点は断固反対です。

それでも、物事には必ず例外があります。

明日の天心vs拓真。いろんな雑音が入り乱れた方が、試合展開を面白くしそうな気もしています。