この2週間で、タイソン・フューリーがオレクサンデル・ウシクの14連打にまさかのダウンを喫して敗北、デオンティ・ワイルダーは十分予想されていたとはいえヂャン・ヂレイに衝撃的に撃沈されてしまいました。

現在、ヘビー級トップ戦線のフロントランナーはUndisputed championのウシク。

PFPキングに返り咲いたウクライナ人に対抗するのは、中国のヂャン・ヂレイ。

そして、痛烈な敗北で評価を落としていたアンソニー・ジョシュアとダニエル・デュボアが、ウシクの背中が見えるポジションまで浮上してきました。

そして、遥か後方ながらジャレッド・アンダーソンがトップ戦線を窺っています。ウシクとの無敗対決が期待できるのはアンダーソンくらいですが、経験不足のThe Real Big Babyがトップファイターとの激戦に生き残れるとは考えられません。

だからこそ〝アメリカ代表〟交代の儀式が、8月というワイルダーにとって過酷な感覚でセットされていたのかもしれません。

アンダーソンのために用意された儀式の相手がワイルダーではなく、ヂャンになってしまうと〝アメリカ最期の日〟のお葬式になってしまいそうです。


IMG_2056

私がアメリカのボクシングに興味を持った1980年代、ヘビー級はすでにアメリカの階級でした。

そもそも、英国発祥のボクシングはクイーンズベリー・ルールが施行された19世紀末から〝英国圏〟の米国も大きな市場として産声を上げます。

まだ、階級性が整備されていない時代、ボクシングとは大英帝国と米国だけのスポーツでした。

IMG_2057

そして、20世紀が幕開けすると米国の黒人奴隷たちの子孫たちと、ヨーロッパで差別されたり貧困からアメリカ大陸に駆け込んだユダヤやイタリア、アイルランドーーー社会の底辺で行き場のないエネルギーのマグマを鬱屈させた若者たちが、その怒りをリングの上で爆発させます。

アスリートどころか、スポーツなんて言葉も一般的ではなかった時代。労働者階級の男たちを熱狂させたという点で、職業ボクサーと競馬馬の間に何の違いもありませんでした。

そんな、虐げられた人々の中でもアフリカ系黒人は特殊でした。

遥か遠くアフリカから、栄養と衛生状況最悪の船底に閉じ込められながら何ヶ月もの航海を経てアメリカ大陸の土を生きて踏んだ黒人奴隷たちが、人類史上稀に見る過酷な選別をくぐり抜けた強靭な肉体を持っていたのは至極当然のことでした。

そして、彼らの遺伝子を継ぐ子孫たちが屈強であることも、当たり前すぎる真実でした。

ジャック・ジョンソンやモハメド・アリは、何がどう間違っても白人や黄色人種である可能性はなかったのです。

そんなブラックパワーがリングの上で最強であることは、聖書などに書かれていなくても、神が定めた法則でした。

そのはずなのに…。


IMG_0237


デオンティ・ワイルダーは〝彼らの100年物語〟の最後に登場する王者になってしまったのでしょうか?