The Undefeated 敗れざる者たち。

スポーツにおいて、よく語られる言葉です。

特に、ファンを堪能させる名勝負での敗者が、そう表現されます。

The Undefeated、敗れざる者たち、と。





プロボクサーには様々な格付けがあります。

未来の殿堂選手、PFPファイター、エリートファイター、コンテンダー、ゲートキーパー、クラブファイター…。

報酬の大きさでは、フォーブス誌のアスリート長者番付にリストアップされるタイソン・フューリーやアンソニー・ジョシュアような〝フォーブス・ファイター〟や、ほぼ全ての試合がPPVでないとカバーできないカネロ・アルバレスのようなPPVファイター。

そして、日本のボクシング界には存在しない、もっと正確にいうと存在が許されない奇異なファイターも海外では活動しています。



The Beltline: There are many ways to lose in boxing, and sometimes losing feels like winning

冬への扉が開いた11月25日土曜日に紹介するのは、英国ボクシングニューズ誌の「The Beltine〜壁を超える人々)」から、「ボクシングには様々な負け方があるが、ときとして勝敗を超越した敗北も存在する」から。

JohnnyGreavesのコピー


「カットしないように気をつけてくれよ、俺の肌はライスペーパーみたいに薄いんだから」。

両目の周りを腫れ上がらせてコーナーに戻ったジョニー・グリーブスは、ワセリンを塗ろうとするカットマンのジェイソン・フィールディングに注意した。

カットマンに「カットするな」と注意する?ボクシングを知らない人にはわからないだろうが、カットマンは、カットした選手の傷を治すのが仕事だ。

そんなふうに、言葉一つとってもリングの中は普通じゃないことばかり。

そして、2012年のグリーブスは英国ボクシング界で最も普通じゃないボクサーの一人だった。グリーブスは、普通のプロスポーツ選手とは違った。

この年の7月、グローブスはサム・オメイゾンとの4回戦を戦っていた。舞台はシェフィールド・アリーナ、キャパ1万人3000人の大会場。

シェフィールドは伝説のトレーナー、ドミニク・イングルの本拠地で、この日は、IBFインターナショナル・ウェルター級王者ケル・ブルックがつとめるファイナルを含め、カリド・ヤファイ(デビュー戦)やロッキー・フィールディングも登場、合計12試合が組まれていた。

グリーブスの試合はその前座で、オメイゾンはデビュー仕立て、戦績は1戦1勝の21歳だった。

グリーブスは2007年、28歳でデビュー、このとき33歳。勝ち星こそ3勝(1KO)とオメイゾンを上回っていたが、31連敗中で、通算戦績は88戦3勝85敗。

グリーブスの目標は12分間、4ラウンドを次の試合に支障がないように大きな怪我をすることなく終えること。勝敗は二の次だった。

この年だけでグリーブスは19試合もリングに上がり、オメイゾン戦が12試合目。もちろん、全ての試合が黒星だった。

ボクシングが大好きなグローブスの目標は、プロで100試合を戦うことだったが、このイベントにはすでに〝その領域〟に達していた〝大先輩〟が二人も出場していた。

一人はクリスチャン・レイトで、137戦6勝0KO125敗6分。もう一人はデロイ・スペンサー、156戦14勝139敗3分。

試合前、グローブスはレイトと、イブラル・リヤズ(40戦4勝2KO35敗1分)の3人で狭いロッカールームを分け合っていた。

レイトは「200試合でボクシングとは見切りをつけて、引退後はどこかの工場で働くつもり」と問わず語りに語った。

グリーブスは顔にワセリンを塗りながら、少しだけの尊敬が混ざった軽蔑を感じながらその声を聞いていた。

グリーブスも独り言のように「本当は300試合の記録を破りたいところだが、不可能だな。俺は100試合でけじめをつけるさ。毎週減量して体重を作るのにも疲れたし」と呟いた。

記録とは、2008年にバーミンガムの伝説、ピーター・バックリーが達成した300戦(32勝8KO256敗12分)のことだった。