世界ヘビー級チャンピオンがマーシャルアーツのファイターにダウンを奪われた挙句、2人のジャッジから勝利をプレゼントされた試合は世界中のボクシングファンを幻滅させました。

そして、その失望の声は多くの場合、この言葉で最後に慰められることになります。

「タイソン・フューリーのせいでボクシングの人気と社会的地位が凋落し続けているわけじゃない」。

米国でボクシングの人気と社会的地位が没落の地滑りを起こしたのは、遅くとも1970年代。それまでは「世界ヘビー級チャンピオン」になるだけで、スポーツ・イラストレイテッド誌のスポーツマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれることも珍しくありませんでした。



60年代の終わりに何があったのか?



米国の豊かさが加速し、「ブルーカラー男性の憂さ晴らし」だったスポーツ観戦が、女性や子供にも開放される「家族的な娯楽」になり、その趣旨にそぐわない血が流れ敗者が白目をむいて失神するボクシングは切り捨てられてしまった…なんていう言い訳は認定団体が口にするお決まりの嘘です。

60年代の終わりに起きたのは、すでにWBAから分裂していたWBCが独自の世界王者を擁立し始めたことです。

1970年代になると「プロボクシングには世界ランキングが2種類あり、世界王者も2人いる」のが当たり前になってしまいます。つまり、スポーツとしての統括構造を喪失してしまったのです。

プロボクシングに国際統括団体があり、今なお8階級を維持していたなら、ここまで社会的地位が凋落することはあり得ませんでした。



デタラメなランキング、認定団体に都合の良い世界王者が捏造される現状を苦慮したジャーナリストが2012年に立ち上げたのがThe Transnational Boxing Rankings Board(TBRB)。

そのHPの冒頭でテディ・アトラスが所信表明を掲げています。

Put your trust in the one that I put my trust in –the Transnational Rankings Board. They are a nonbiased group that want to do it the right way.〜私たちの目指す正義を信じて下さい。私たちは偏見を排除して正義を貫きます。

そして、腐ったボクシング界を憂慮してきたグレートたちの言葉が続きます。



▶︎Back in the 30s and 40s, we had 8 world champions that were recognized. There was a great deal of respect attached to those titles/Eddie Futch


「世界王者は8階級8人の時代があった。その頃のタイトルに対する尊敬は今じゃ誰も想像できないだろう」。



▶︎If I was a man of power in boxing, I make one organization. No WBA and WBC. I’d have one championship./Muhammad Ali

「もし私がボクシング界の権力者だったなら、たった一つの統括団体を作りたい。WBAもWBCも要らない。世界王者は1人だけ、当たり前のことだ」。



▶︎I hope that before I pass that they restore this game and bring it back to only one champion in the world ./Marvelous Marvin Hagler/Middleweight king from 1980 to 1987

「世界王者は世界に1人だけ。そんな時代に戻すことが理想だが、私が死ぬまでには叶わないだろう」。



▶︎Belts are like a fighter winning an amateur trophy. Everybody’s a champion! Everybody has a belt! … This is not good for the sport of boxing./Floyd Mayweather

「ベルトはアマチュアでいうと優勝した一人だけに贈られるトロフィーのはず。ところがプロでは誰もがベルトを持っている。こんなことが受け入れられているのがボクシングというスポーツだ」。





▶︎I still think I can lick any light heavyweight in the world, but it’s too much of a mental thing to fight the WBA and the WBC too./Bob Foster

「まだライトヘビー級の世界タイトルに絡める自信があるが、タイトルにWBAだとかWBCだとかが付いてるのにはウンザリしてしまう」。




▶︎Every darn heavyweight in the United States has a title!/Greg Page

「アメリカにはヘビー級タイトルが溢れている、世界王者が溢れているんだ!」。


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今や、認定団体のランキングは誰が見ても狂気の沙汰です。「1位だから強い」なんて本気で信じているボクシングファンなどいません。

TBRBやESPN、リング誌のランキングは微妙に相違があるものの、概ね納得できるはずです。

そのTBRBも「フューリーvsガヌー」について触れています。


Former Heavyweight King Tyson Fury fought Francis Ngannou, a boxing novice, on Saturday and both Fury and his reputation went sideways with that surprise knockdown and a split decision he was lucky to earn.

Floyd Mayweather set a bad precedent back in 2017 when he decided to carry Conor McGregor instead of bouncing him out of the ring like he should have.

And now this.

Did you know that Archie Moore’s last bout was against a professional wrestler who was likewise making his debut in the sweet science? Moore did what he knew he was obligated to do in finishing him off in three rounds. A reporter asked him if his performance served “art” or “commerce.”


Moore’s answer should be every top boxer’s mandate: “This was for the purpose of warning wrestlers not to invade the inner sanctum of boxing.” 

Fury remains the #1 contender under his successor Oleksandr Usyk, but there were members who argued that he should drop -significantly. At P4P, however, his farcical performance earned him an exit. Gervonta Davis steps in to #10. 

前ヘビー級王者※タイソン・フューリーは初心者のフランシス・ガヌーを相手に大苦戦、その評価を暴落させた。

2017年にフロイド・メイウェザーが悪しき前例となった茶番劇の続編がこれだ。

アーチー・ムーアの最後の試合もボクシング未経験のプロレスラーだったことをご存知だろうか?ムーアは3ラウンドでプロレスラーを撃退して、プロボクサーとしての義務を果たした。

「こんな試合がボクシングのためになるのか?それともただの金儲けだったのか?」。そう聞かれたムーアの答えは「トップボクサーの責任だ。プロレスラー如きでは神聖なボクシングに通用しないという警告だ」。

今回の恥ずべき大苦戦で「フューリーのヘビー級ランキングを落とすべきという意見もあったが、王者オレクサンデル・ウシクに次ぐトップコンテンダーにとどまった。一方で、PFPでは今回の茶番劇でフューリーは追放、ガーボンタ・デービスが10位に繰り上がった。

※TBRBは「True champion」を認定してアルファベット団体の王者だけでは王者と認めていません。この姿勢はESPNとリング誌にも共通します。



フューリーの茶番劇はボクシング界では動揺を持って受け止められていますが、一般のスポーツファンはフューリーもガヌーも知りません。

多くのボクシングファンにとってもメディアの数だけあるPFPなんて、誰が入ろうがどうでも良いことです。

最近になってPFPの存在を知った井上信者らは気にしながらチェックしているかもしれませんが、彼らとて1ヶ月前のランキングは記憶になく、1年後には今日のランキングも忘れているでしょう。

ボクシングがどんどん沈下してゆく惨状も含めて、どうでも良いことです…。


1970年代から半世紀以上に渡って没落の一途を辿ってきた米国ボクシング。

テレンス・クロフォードは巷間言われているカリスマもオーラもない、プロ失格ファイターではなく、生まれる時代を間違ってしまっただけのか?

そう、クロフォードがメキシカンだったら〝PPV乞食〟なんて誰にも呼ばせなかったかもしれません。

1970年代、3%程度だったヒスパニックの人口は現在、20%に迫っています。

不法越境者は、この1年で南西部国境で拘束されただけで約250万人!戸籍を持たない彼らを正確にカウントすると、その数字はさらに大きく化けるはずです。

一方で、1960年代までのボクシング人気を支えた白人の人口構成は60%を割り込み、父親からヘビー級Lineal championの系譜を暗記させられた彼らでボクシングファンは断絶してしまっています。

しかし、米国ボクシングの主役たちを思い出すと、それは抑圧された移民がリングで讃美歌を歌い上げてきた歴史でした。

アイルランド、イタリア、ユダヤ、そして黒人…。故郷から追われ、あるいは米国で虐げられた人々がその才能と怒りと絶望と希望を自由に歌うことができる場所はボクシングのリングしかなかったのです。


カネロ・アルバレスの出現は、必然でした。